京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「印度翡翠」

 拝啓、空には白い雲が浮かび暑気日ごとに加わる今日この頃、貴殿におかれましてはいかが御過ごしでしょうか。さて早速では御座いますが前回の続きを。
 貴殿は「印度翡翠」という石をご存知だと思いますが、実はこの石は水晶系だということもご存知でしたでしょうか?「翡翠」というと「ジェイド」や「ネフライト」といった本翡翠系統を想像されるでしょうが、実は水晶系(石英)だったのです。「印度翡翠」“Aventurine Quartz”(今は厳密には印度翡翠は無いそうですが、この事については後程書かせていただきます。)は、主にブラジル・インド・ロシアに産します。この種の石英は、微細結晶のインクルージョンを含み、その性質によって色や特有な光の効果を生み出しています。たとえば緑色クロム雲母の板状結晶をインクルージョンとして含むと緑色に見えます。
 昔は以前にも書かせていただきましたが、その当時誤魔化すわけではなかったでしょうが、油につけて艶出しをしていた時期がありまして、油分がなくなりますと白い雲母が表面に出てきて、質落ちになってしまったということも御座いました。在庫として買い置きしておいて、いざ販売というときに使い物にならなかったということが度々御座いました。当時の技術レベルの未熟さがこういう結果を生み出していたわけです。
 さて先ほど書かせていただきましたが「印度翡翠」についてで御座いますが、数年前からこの半貴石が無くなってきました。なぜ出回ってこなくなってきたかと申しますと数年前、印度で大雨が降りまして鉱山が水浸しになったそうで御座います。仮に日本なら大掛かりな排水設備を用意し、あっという間に水を抜き出してすぐに掘り返しを再現するという具合になるでしょうが、残念ながら印度ではそれが無理なようでありまして、機械が無いですから人海戦術でしか対応することが出来なかったそうで、限界がありますからそのうち人夫の方もお金になるダイヤモンド掘りのほうにかわってしまい、結局掘れば又採れるでしょうが、それをする人がいなくなったということになったそうです。
 元々「印度翡翠」自体の需要も日本とドイツの工芸程度しかなかったそうで、市場が小さいとこういう事態が起こると末路には寂しいものがあります。しかし代わりに「ブラジル翡翠」や「中国翡翠」といったよく似た半貴石が多々御座いますから、それほど心配することはなかったようで御座います。
 それでは残念ですが、紙面がなくなりましたので続きはまた次回。  
         かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年6月掲載 宗教工芸新聞より抜粋