京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「虎目石と鷹目石」

 拝啓、連日厳しい暑さの頃、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。実際この手紙を書かせていただいている今は「梅雨明け宣言」もまだ出ていない時でありますが、連日好天で蒸し暑く頭がボーっとしておりまして気力がそれそうなのですが、それでも何とか締め切りに間に合いますように致したいと思っております。
 最近、旧知のかつてのお得意様にお会いしたのですか、同じように元気が少し無いように見受けられまして、暑さだけではもちろんなく景気の悪さのせいでしょう。今まで、五、六、七月はお彼岸とお盆の間の中休みの時期で、たとえ仏壇が売れなくても笑っておられて、又いずれお盆で売れて取り返しが効くという目論見があったようですが、もはや今はチラシをうとうが広告を出そうが販売できる予想が立たないそうです。「今まで何十年商売をしてきてこんなに悪いのは初めてだ。」とおっしゃっておられましたが、私と同じで暑さもあって余計に気力が無くなりつつあるようです。
 しかし売れない悲しみの暗闇の中でいったい何時になれば一条の光明が見えてくるのでしょうか?
 宗教用具産業は日用の必需品ではそれほど無いので、景気が良くなるには時間がかかるでしょうから、まだまだ辛抱が続くようですが、それではあまりにも厳しく、不景気という名の海でおぼれながら早く藁が見つからないか皆さんひたすらお待ちのようです。たとえ一時的なものであったとしても。そしてそれを掴んで永く息をすることが出来なかったとしても。
 さて前置きが長くなりましたが、それでは残りの代表的な石英をあげますと、やはり虎目石 「Tiger's Eye」と鷹目石「Hawk's Eye」でしょう。
 鷹目石とは私どもが普段、青虎目石と呼んでいた石です。この石は主に南アフリカに産し、特徴としてシャトヤンシー(キャッツアイ)効果を示します。この効果は光反射のいわゆる目 を指すものです。この目 は変彩と呼ばれていまして、虎目石の場合は虎の目に似ているのでその名が付いたそうですが、鷹目石はあまり鷹の目に似ているとは思えないのは、私だけでしょうか。この光条は他に水晶にも見られるそうで、その石はクォーツキャッツアイというそうですが、残念ながら実物を見たことは私は御座いません、がこれは世に言う宝石のキャッツアイとは別物だそうです。
 さあそれではこのあたりで。次回は瑪瑙について書かせて頂きましょう。
 これから本格的な暑さがまだまだ続きますがお身体十分にご自愛下さいませ。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年7月掲載 宗教工芸新聞より抜粋