拝啓、菊薫る今日この頃、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
さて前回までは「トルマリン」について書かせていただいておりましたが、今回からは「瑪瑙」について書かせていただこうかと思っております。
しかし、最近「珠鬘」について、編集部から読者の方でこういう意見が出ているとお聞きしました。それは「最近の『珠鬘』は専門的すぎて、珠数屋さんが読めば大変参考になるかもしれないが、小売店様など素人の方には難しいのではないか?」と。なるほどと思いました。私は人生の多くを珠数に捧げてまいりましたから、珠数の事しか知りません。ある意味では珠数馬鹿といえるでしょう。ですから引退して時間もあることですから、ついつい専門的な事ばかり書いてきたかもしれません。もっと本当は広い範囲の、たとえば小売店様にとって営業に必要な知識などを書かせていただくほうが、良いのかもしれません。又、もう少しで「貴石・半貴石」については終わりたいと思っていた所でしたので、もうしばらくご辛抱いただけませんでしょうか。お願いいたします。
それでは「瑪瑙」Agate(Chalcedony)についてですが、もっともポピュラーな石ですからこれについてはご存知の方も多いでしょう。しかし、調べてみますと結構難しい部分もあるようですので、ご参考にしていただきますれば幸いです。
まず産地ですが、主としてブラジル・ウルグアイ等で、日本ではもうほとんど採取できないようですが「若狭瑪瑙」が有名です。現在でも当地に行けば物産品店にそれが並んでいて、ほんの少しその風情を偲ばせています。天然瑪瑙は「若狭瑪瑙」に代表されるようにオレンジ色を呈していたり、白・黒・青・緑・水色・グレーなど多色ですが、最近の瑪瑙のほとんどが、放射線を掃射した濃赤色を中心としていますので、小売店様はもちろん一般消費者も「瑪瑙は赤い色」と思っておられる方がほとんどでしょう。これは古代エジプト時代から価値を高める為でもあり、また多孔質で染まりやすい性質ということから、染色着色されることが多かったようです。
さて複雑な事ですが「オニキス」Onyx という石は瑪瑙の一種(黒オニキスがそうです)、最近出回っている商品で、白オニキス・緑オニキス・黄オニキスは大理石ですので間違われないように注意してください。製造されている方はすぐに分かることと思いますが、「ボサ」が欠けやすく、硬さが全然違うことでそのことが分かります。どうしてこのようなことになったのか、業界の方ももう少し勉強されたほうが良い気が致します。そう致しませんと間違ったことを世間に広げることになり、それはやはり良くないことでしょうし、間違いを正すのが専門店の仕事の一つだと思います。
それでは紙面に限りが御座いますのでこの辺で。これから寒くなりますのでお体ご自愛下さいませ。
かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年11月掲載 宗教工芸新聞より抜粋