京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「珠数販売必勝マニュアル(?!)」その2

 拝啓、梅雨うっとうしい折から貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?
 さあ、では早速始めさせていただきましょう。まずは「珠数の数とその功徳」です。
 結論から申し上げますと「珠数の数」は「現在」の需要とは少し異なっていると思います。今は片手の場合男性用は、四分珠二十二珠が主であり女性用は、尺二珠三十六珠が主でしょう。しかしあくまでこの玉数に決まっているわけではありません。ですが過去の文献を紐解いてみますといろいろ記されています。「数珠功徳経」では必ず百八が必要だが、もしその数に足りなければ五十四個か二十七個か十四個がよいとありますし、また「陀羅尼集経」では百八に足りなければ五十四個、さらに無ければ四十二個、さらに無ければ二十一個とあります。
 そして「文殊儀軌経」には珠数には最上品千八十上品百八中品五十四下品二十七とあり、他にも出典は定かではありませんが「珠数の最も古いものは禅宗であり、その形は房も無く弟子珠等も使わず単に百八個にして親珠四天があるのみで、この四天の位置も真六に割るように入っている。これは釈迦が六大弟子に等分に分け与えるよう十八個になるようになっていて、後世にこのことから十八珠の珠数が普及するようになった」とあります。これに正倉院御物にある三十六珠の珠数を加えて合計八種類が中心だといえるようです。
 しかし最初にも記しましたが、現実には正式珠数を除いて男性用・女性用それぞれ寸法で玉数を決める場合が多くまた、体格や手が昔と違って大きくなってきていますので出来るだけ大き目になるのが現状です。さてこれらの経典でも見られる通り、基本の数は百八です。この百八の意味は除夜の鐘でもお馴染みの煩悩の数であるとか、百八三昧や百八尊あるいはその功徳を表わすといわれています。しかしこの煩悩の数にしても実際には「百八ぐらいたくさんある」といわれていて、単に目安として「百八」が使われているわけですから「百八」の本当の意味は分からない、が正解だと思います。
 ただ昔から綿々と伝わってきたいわば「言い伝え」のひとつだといえます。他の事象でもよく見かけますが、最初の発端は「人の噂も七十五日」ではないですがすぐに忘れ去られてしまい、意味も分からず「作業の仕方」や「数字」だけが残るのはよくある事だと言えるでしょう。
 それでは紙面が残り少なくなりましたので次回は「珠数の功徳」についてです。お体ご自愛くださいませ。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成13年5月掲載 宗教工芸新聞より抜粋