京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「珠数販売必勝マニュアル(?!)」その3

 拝啓、海山の恋しい季節、日野阿聞様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?  
 さて早速ご質問の件についてお答えさせていただきますと、かくいう私もすでに「トレジャーストーン」なる雑誌を定期購読させていただいております。この「珠鬘」の連載のためにいろいろ参考資料を購入致しておりましたし、それに「貴石・半貴石類」の記述はとりあえず終了致しておりますが、やはり興味のある分野ですし私の知らない事もまだまだ数知れずあると思いましたので、これは良い雑誌を見つけたと興味深く拝見させていただいております。
 読者の皆様も、もしよろしければ購入されてみてはいかがでしょうか?石類の珠数を販売する上で、大変参考になると思います。カラー写真も多いですし読みやすいです。但し、日野様のおっしゃる通り、全て集めた時は、実際この手の文献を一冊購入するより高くついている事は間違い無いでしょう。珠数に利用されない鉱物類も数多く出てくる事も付け加えておきます。
 さてそれではそろそろ本題に戻りましょうか。「お珠数屋」の皆様は珠数を作る時の心構えをご存知でしたでしょうか?「佛説陀羅尼集経」にはそれが記されていますので、要約してみますと「珠匠はまず出家生活に一歩近づく意義を持ち僧俗を結ぶ有力な方法として古来より重要視されている在家の戒めとしての八斎戒を受け、香湯で身体を洗い、新しい着物に着替える事により護身の法をなしえ、一梵場を唱え諸々の幡や華鬘をかけて壇に香水を置き毎日、花や餅菓子を供えて供養し又、夜毎に七つの灯かりを燈して水晶の珠数を作れ」と記されています。
 どうでしょうかこれほどまでに珠数を作るということは荘厳なものだったのです。私たちは商品としてしか珠数を見てきませんでしたがいかがでしたでしょうか?もちろんここまでして珠数を作る事は今の時代不可能かもしれませんが、しかしその心構えは、その気持ちは、何時の時代も世紀を超えて限りなく受け継がれていく必要があるのではないでしょうか?それが私たち『珠数に携わる者』の使命ではないでしょうか?理想論かもしれませんが生活の糧であると同時に『引き継いでいく』必要がある事を私たちは忘れてはなりません。
 これから次の世代にそして又、先の世代に伝えてゆく事が、永遠の命を持つ『珠数魂』だといえるでしょう。陳腐化された言い方かもしれませんが『情熱』を決して忘れないでおきましょう。
 それでは続きは次回に。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成13年6月掲載 宗教工芸新聞より抜粋