拝啓、晩夏の候 貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?気温はこれほどまでに暑いのにもかかわらず景気は厳寒、宗教用具業界ももちろんという状態で貴殿も大変でしょうが、お身体に気をつけてがんばってください。
ところで歳時記を紐解きますと、この時期、お盆に関わる様々な行事を見つけることができますが、興味を惹かれるものの中に地蔵盆がございます。
歳時記の説明によりますと、町内単位で子供達が集まって西瓜割りをしたり、くじ引きをしておもちゃをもらったり、町内の人と一緒に遊ぶ行事となっており、私の住む地域でもこの地蔵盆はずっと行われてきました。しかし残念なことに、世の中の少子化傾向のため私の町でも子供達の姿を見る事が少なくなりました。また、マンションが増えて元々の地の人が減ってきて地蔵盆を運営する側も高齢化し、以前のような賑わいは感じられなくなっていることに寂しさを覚えます。
色々な地域で行われている地蔵盆ですが、京都の地蔵盆では百万遍珠数回しが欠かせません。
「南無阿弥陀仏」と唱えながら大きな珠数をたくさんの人の手で回し、親珠がくると額にいただくようにして健康や幸せを願ったりするのです。
事の起こりは元亨元年(一三二一年)、京都で夏の日照りのせいで飢饉が起こったり、また大地震があったりして疫病がはやり死者が多数でたので、当時の後醍醐天皇が大本山知恩寺第八世善阿空円に勅し、善阿上人は諸災消滅の祈祷のために木 子経等から千八十個の大珠数をつくり、紫宸殿にて十七日間百万遍の大念仏を修したところ三日目から雨が降り災いが消滅しました。天皇は大いに喜び弘法大師真筆の「利剣名号」と「百万遍」の寺号を賜いました。これ以来、百万遍知恩寺と言うようになり、世間に広く百万遍念仏が知れ渡るようになったそうです。現在でも毎月十五日(八月は二十五日)に行われる「百万遍大念珠繰り」は有名です。
百万遍念仏というのは一に往生の為、二に現世の為、三に追福の為に行われるものだそうです。そして規則では玉数は一千八十個で人数は十一人と定められ、一遍回す時は一万遍、十遍の時は十万遍、百遍の時は百万遍唱えるとなっていて玉は栴檀とあります。当時の栴檀ですから今で言う白檀の事でしょうか、しかし現在では百万遍は五百四十個が通例になっています。これは時代の流れでしょうし、白檀も玉が取れないですから桜が主に使われています。このような百万遍は主に浄土宗で使用されていますが、まれに真言宗でも使われるようです。
ところでどうでしょうか?貴殿も景気回復のために、百万遍大念仏を一度執り行ってみられるのも一興かもしれませんね。
それでは暑い日がまだまだ続きます。お身体ご自愛くださいませ。
かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成13年7月掲載 宗教工芸新聞より抜粋