京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「珠数供養」

 拝啓、晩秋の候、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
 さて早いもので、今年も十一月になろうとしております。十一月二十三日はご存知の通り「珠数供養」が京都洛北の「赤山禅院」で執り行われます。この寺は天台宗で、当日には千日回峰行を成就された阿闍梨様が三名も参加されますので、それぞれの信者さんが大勢参られるのと紅葉の美しさもあいまって、数千名の方でごったがえします。まだ始めて二十回にはならないと思いますが、それでも今や京都の風物詩のひとつになったといっても過言ではないでしょう。一つひとつ思いのこもった珠数が供養の炎の中に消えて行く姿は、我が身を守ってくれた事へのお礼の気持ちと、真言のお経の言葉による響きが相乗効果を生み出して、あたりを荘厳な世界へ導いてくれます。珠数を販売されている方ならぜひ一度は参加してみてください。秋は京都の観光シーズンですので、早いうちからホテルの予約をされないと取れないと聞き及んでいますので、今年は無理でも来年はぜひお参りされてはいかがでしょうか。
 ところで当日の参加者の中で、本当の意味で信仰心をお持ちで来られている方はどれほどいらっしゃるのでしょうか。阿闍梨様の信者さんは別にして又、毎年当日配られる腕輪珠数を目当てにくる方も信仰心のある方でしょうが、大多数が紅葉見学に来る観光客と見受けられます。たまたま紅葉を見に来て「こんな行事があるのか。」と体験されてそれ以来、信仰心が芽生えれば良いのですが、なかなか現実はそうはうまくいかないものでしょう。思うにそのほとんどの年齢層が壮年以上の方ですらそうですから、この光景から考えると業界の課題としてこの先、若者がどれだけお寺に足を運ぶかが大きな問題となってくるでしょう。今の若者にとって「占い・おまじない・霊・超能力・超常現象」等に興味はあっても信仰とは別物だからです。よほど何かの不幸があってはじめて信仰心が生まれるのでしょうが、実際にはそういった人はごく一部でしょう。たとえば一般人が年間何回お寺に行くでしょうか。多分ほとんどの方がお彼岸、お盆の時だけでしょうし、それすら減ってきてませんか?それもお墓があるから行くのであって、今のようにほとんど郊外にお寺の無い霊園が増えてきている事を考えると、お寺のみに行く事がはたしてあるでしょうか?
 たとえば、宗教用具業界の方で商売を抜きにしてお寺に行く事がどれだけあるでしょうか?ほとんどの方がかえって僧侶の醜い部分を見てしまっていますから、仕事でなければ行かなくなるんじゃないでしょうか?
 私は「呉服業界の人がスーツを着て呉服を販売している」姿を見て、同じ衰退産業を宗教産業にも感じます…。貴殿はいかがお考えでしょうか?もしよければお返事ください。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成13年10月掲載 宗教工芸新聞より抜粋