京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「テロ?信仰心?」

 拝啓、初冬の候、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。早いもので、今年ももう十二月を迎えようとしておりますが、知人にお話を伺いますとますますもって景気が悪くなっているとお聞きしました。「十月はまだそこそこあわただしかったが十一月に入るとまた一気に悪くなってしまった」そうです。
 やはり、米国同時多発テロから始まったアフガニスタンでの戦争のためでしょう。世界の景気を引っ張っていた米国の株価が、IT不況からテロ事件・炭そ菌事件と立て続けに起こり、一気に悪化してしまいました。戦争が起こると軍需産業は活発になりますから、一部企業は良いでしょうが、世界経済を引っ張る迄にはなかなか行かないでしょうからこの先、日本がよくなるのはまだまだ時間がかかるでしょう。
 ところで、この事件で今世間の注目の的であるテロ組織アルカイダのビンラディン師のいわゆるイスラム教について考えてみますと、なかなか興味深い点があります。元々中東問題、パレスチナ問題に端を発する宗教戦争ですが、実は何千年も続いているわけです。民族問題はさて置き根底にあるのは「信仰」に関わる事でしょう。石油に関わる一部大富豪を除いて、民衆の多くは貧困に喘いでいます。困窮だからこそ人間は弱いものですから精神も又、貧粗になり何かにすがろうとします。だからそういった地域では信仰心が篤くなるものです。
 今の日本を見ていると犯罪が多発化しています。不景気で職が無く、心も殺伐としてきて犯罪に走る傾向がよく見られます。かつてアメリカニューヨークも犯罪都市と呼ばれていましたが景気が好くなったら犯罪が一気に減少したと聞いていますが、これからどうなるのか不安です。
 日本の場合は外国人が増加したとか、警察の力が落ちたとか色々理由が他にもあるでしょうが、日本人がイスラムのようにこれから信仰心が篤くなるでしょうか?実はこんな話を耳にしました。
 以前、松下幸之助氏が講演で「最近の日本人は信心の気持ちが無くなってきて」といわれたそうですが、これが何と昭和三十年代初期の頃だったそうです。つまり昔から人というものはそうそう変わるものではない、言い換えれば何も変わっていないと言う事です。ですから昭和の時代に仏壇がよく売れるようになったとか、宗教産業隆盛の時代であったのは実はまったくの錯覚であった、つまり「信仰」など何も関係無く単に景気が好くなって、お金がそこそこ手に入るようになったから、そのぶん余裕ができて需要が増えただけの事です。買い替え需要が薄いこの業界で、外国品が満ち溢れ単価が下がり、イスラムのような「信仰心」も期待出来ない中でどうなっていくのでしょうか?
「もう少しがんばれば何とかなる」と言う『根拠の無い自信』『錯覚の自信』をお持ちの方が多いようですが、貴殿のお考えをお聞かせください。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成13年11月掲載 宗教工芸新聞より抜粋