京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「宗教用具業界の未来は…」

 拝啓、早いものでもう年の暮れとなりましたが、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。もはやここで今年を振り返る必要は失礼ながら無いでしょうが、この不景気の折でも、業績を向上させている企業もあるわけですから「売上一割未満の減少でよしとしよう」とお思いにならないで「業績悪化は自分の営業不足だ。もっとがんばろう」と前向きな姿勢で進んでください。その「思い」でもって足元を見て歩んでいけば必ず道は開けてくるでしょう。「捨てる神あれば拾う神あり」です、いや「仏様」ですか。
 ところで此所数回にわたって少し「珠数」から離れて「イスラム(原理主義)」に端を発する「信仰(心)」について、私の考える事をかなりきつい口調で書かせていただいてきましたが、どうやらそれに反発する若者の意見はないようです。残念でなりません。「そんな事は年寄りの戯れ言だ。この業界にはこんなすばらしい事があるんだ。あなたは何を今まで見てきたのか」などという前向きなご意見は皆無のようです。ということは皆さん、この業界の未来を大変不安視されているという事でしょうが、その対策を何かお持ちでしょうか?
 日本人は昔から戦術は得意だが、戦略は不得意だといわれています。長期的視野にそった作戦が出来ないという事ですが、今のこの状態はその最たるものでしょう。危険な状態の時に、何とか切り抜けられる戦術の得意な日本人も結局肝心な部分を後回しにしてきたから、そのつけがここに来て露呈されてきたという事でしょう。日本経済しかり、宗教用具業界しかりです。
 そして私は以前に「この業界は和装業界に似ていて、その衰退産業の後を追いかけている」と書かせていただいたことがありましたが、ここでそれを少し訂正させていただきます。それは「和装業界以上に転落の度合いが激しい」ということです。つまり呉服は完全に「固定客の頻度買い」と言われますが、たとえば「華道・茶道・踊り」の方は本当に必要ですから、呉服を買われますが、しかし仏壇仏具を頻度買いされる方がいらっしゃるでしょうか?答えは明白です。
 和装業界が緩やかな下降線(最近はそうではなさそうですが)だとすると、宗教用具業界はこの先、より一層急激な落ち込みが予想されます。もはや戦略を練る時間は無いかもしれませんから、いまこの瞬間の戦術を練ってください。
 まだ珠数は頻度買いの可能性がある商品です。今こそ単価がそこそこあり、利益率の高い珠数を今まで以上に真剣に販売する時期に来ていると言えるのではないでしょうか。貴殿のお考えをお聞かせください。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成13年12月掲載 宗教工芸新聞より抜粋