京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「珠数は縁起物」

 拝啓、新春の候、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
 今年は「午年」ですが、馬は古来から日本でも中国でも、鯉・龍・孔雀・虎・亀・鶴等とともに縁起の良い動物の一つに例えられていますから「飛翔」や「駆け抜ける」象徴として、一気に不景気を突き抜けていってほしいものです。
 縁起物といえば「珠数」もまた縁起の良いものと言えるのではないでしょうか。私が何十年と勤めさせていただいた「珠数屋さん」は卸し売りが中心でしたから、直接消費者の方の意見を聞く機会はあまりありませんでしたが、それでも「珠数」のイメージは少ないながらも「お守り」「厄除け」「悪縁切り」等、身を守る事から縁起の良いものとして、そこそこ受け入れられていると思っていました。そういった印象というのは大事ではないでしょうか。
 もともと「葬式」や「法事」「墓参り」といった『ケ』の印象の強いものですが、それだけではなかなか大衆には受け入れてもらえませんし、それはそれで必要ですがこれからは『ハレ』印象の商品として、販売していかなければならないかと思います。
 そこでかっての経典の中に、珠数素材の功徳について書かれていますので、ここに列記してみますと「諸佛境界摂眞実経」には、香木・銅・鉄・水晶・真珠・蓮子・金剛子・菩提子とあります。「守護国界主陀羅尼経」には金珠・真珠・金剛子・蓮子・菩提子とあります。「金剛頂瑜伽念珠経」では、しゃこ・木●子・鉄・銅・水晶・真珠・帝釈子・金剛子・蓮子・菩提子とあります。「蘇悉地喝羅経」では木●子・多羅珠・土珠・牙珠・水晶・真珠・赤銅・摩尼珠・草珠とあります。「陀羅尼集経」では金・銀・赤銅・水晶・瑠璃・沈香・蓮子・瓔珞子・木●子・菩提子とあります。「数珠功徳経」では鉄珠・赤銅・真珠・珊瑚・木●子・蓮子・帝釈子・水晶・金剛子・菩提子とあります。
 このように見てまいりますと、お気づきの通り今となっては「これはいったいどんな珠なのか」といったものもありますが、共通していて今も使用している珠もありますので、その珠を『縁起物』に利用するのも良いのではないでしょうか。さすれば、新しい珠数の買い替え需要が生まれるかもしれませんから、試してみるのも一興でしょう。いかがでしょうか?
 それでは今年もよろしくお願いいたします。
●の所は作字になり、このテキスト上では漢字がありませんが、木偏に患者の患という字です。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年1月掲載 宗教工芸新聞より抜粋