京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「品質表示もしくは上代設定」

 拝啓、春寒のみぎり貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
 さてこの「珠鬘」も三年目に突入致しました。思えば「あっ」という間ではありましたが、これもひとえに読者の皆様方のおかげだと思いますが「それにしても」といいたい事が御座います。
 と申しますのも先月号の一件です。毎年新年号には色々アンケートや新聞への意見などが掲載されますが、昨年までは私の記事への意見など皆無だったのが最近少し珠数から離れた意見を書いてみるととたんに「珠鬘がたのしい」だの急に賞賛されだしました。誉めていただくのは確かにありがたい事ではありますが、今まで地道に珠数の事を書いてきたのはいったい何だったのかと思はないでもありません。実はそんな事は何も気にする必要が無くて思うがままに徒然書くのが一番読んでもらえるという事でしょうか。そうなれば益々持って開き直って書かせていただく所存ですので今後ともよろしくお願いいたします。
 さて今回の記事の中に「海外製品の産地表示実施」について色々意見が書かれていましたが「産地表示より品質表示が大切だ」とかありますが何をか言わんやです。今ごろ皆さん何を言っているのでしょうか。今は生き残りがかかっているのですから他社との差別化が必要なのでしょう。だったら「産地表示」や「品質表示」などは当の昔にしておかなければいけない事で、いまだに紙上で意見を戦わせるなどという事は十年遅れています。何が大切な事なのか、皆さんもう一度考えてみる必要があるのではないですか。
 仏壇販売を生業とされているならどうやって売るかが一番大切な事なんでしょう。そしてそういった論争の中で必ず出てくる事が「上代設定」です。私は以前から疑問に思っていたのですが「どうして珠数の上代価格がこのように高くなるのか?」呉服業界のように一次問屋だの二次問屋だの、いっぱい関係各社が登場して異常?に呉服が高くなるのならいざ知らず、宗教用具業界はせいぜいメーカー・問屋・小売店といったところでしょうが、それがどうしてなのでしょう。珠数でそれなら仏壇もしかりでしょう。「今は以前のような価格はつけられない」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、それにしても逆に言えば以前のような仕入れにはなっていないと聞き及んでおりますので(余分に仕入れず必要最小限の仕入れ)なら在庫の減るぶん「上代価格」が下がっても当然の事でしょうし、それでもまだ粗利益率を維持されるなら近江商人の言う「三方よし」の精神からかけ離れて、問屋・メーカーいじめしか起きないという事になるのではないでしょうか?貴殿の意見をお聞かせください。
 それではこのへんでまだまだ寒い日が続きますのでお体ご自愛ください。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年2月掲載 宗教工芸新聞より抜粋