拝啓、日増しに春めいてまいりましたが、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
さてこの原稿は三月号として発行されるわけですが、ご存知の通り三月は、各業界で決算時期を迎えての危機が噂されていますし、宗教用具業界も同じ状況でしょう。昨年秋に決済の最悪方法、約束手形を切っていらっしゃる企業の六ヶ月手形が落ちる時期を迎えているのです。小泉政権の経済対策が、実を結ぶ様子が見られない中、益々景気が悪いとの声も聞こえる中では、最悪の状況を迎えるかもしれません。
皆さん、本当の辛抱の時期がやってきたように思われます。それにしても手形というのは悪い習慣だと思われませんか?切った期日にお金があるかどうか根拠など何も無いのに、平気で切る業者が多いようです。聞いた話では売れていないのに、プライドで切ってしまう方もいらっしゃるようですが、こういった方は老舗といわれている店が多いようです。又、この悪しき習慣は詳しくは存じませんが日本独特らしいです。
呉服和装業界も、台風手形と呼ばれている一年サイトを切るようになった事が衰退していった一つの原因にあげられています。景気が悪くなるとどうしても支払いが悪くなってきます。サイトが益々長くなってきて、下手をすると先付小切手等も登場してきますから困ったものです。
私の現役時代の経験でも集金出張でこんな事がありました。半月前に出張案内ハガキを出し、訪問する段取りも決まっている出発一日前に「その日は急に用事が出来てしまい留守にするので銀行振り込みします。」と連絡があり、案の定振り込みなど無いという事が多々ありました。結局一日前なら予定変更できないだろう、との読みから連絡があったと勘ぐられても仕方が無い話です。
他にもいろいろな理由で集金できなかった事が御座います。例えば「社長がいないので銀行印が金庫から出せない。」(あらかじめ用意しておくものでしょう)「出張案内が届いていないから段取りが出来ていない。」(確かに出していました)「売れた分しか支払えない。」(注文分しか納品していないのにどういう事?)等など…。数年前でもこれですから、今などもっとひどいのではないでしょうか?
人としてこの世に生まれてきて、手を合わせるようなありがたい仕事をしてきて、これはいったいどう言う事でしょうか?淋しい話です。前回にも書きましたが「近江商人の心得 作りて良し、売りて良し、買いて良し」の精神が無ければ絶対長続きはしません。そう思われませんか?「人は大切な事を見つけるよりも見失う事のほうが多い。」
かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年3月掲載 宗教工芸新聞より抜粋