京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「三月・決算・集金2」

 春たけなわ貴殿におかれましてはいかがお過しでしょうか?お彼岸商戦も聞くところによりますとたいそう悪かったようですが、いずれにせよ日本経済がこれほど落ち込んでいるわけですから、致し方ないかもしれません。しかし、それに甘んじてしまうと何の解決にもなりません。まれに盛況な企業もあるわけですから、貴殿も負けずに元気をだしてください。
 それにしても前回書かせていただいた「支払い」についてはまだまだ色々逸話がありそうです。集金に行くと開店していて奥に人の気配もしているのに呼べども叫べども誰も出てこない。結局、支払う気持ちが無いため居留守を決め込まれたこともあります。
 こんなひどい話も聞きました。N県の有名店に仏壇メーカーの営業マンが売掛金百万円があって伺うと一万円しか払ってもらえなかった。怒った部長が再び伺うとやっぱり一万円しか払ってもらえなかった。最後には業を煮やしてとうとう社長が再度伺うと「ようこそおみえになった」と歓待してもらってやっぱり一万円だったという嘘のような本当の話。ここまでくればたいしたもので剛の者としか言いようが無いです。
 食事で誤魔化される事もあります。夕食をごちそうになりその後、飲み屋さんなどに連れていってもらい、結局はしごになって全てごちそうになってしまい、そのかわり集金はほとんど出来なかったという、若かりし失敗もありました。
 私は珠数はそれほど金額が張りませんので、どちらかと言うと集金率は良いほうだと思っておりますが、貴殿はいかがでしょう。もちろんお付き合いの深さであるとか、重要性の差によって集金率は変わるわけでしょうが、珠数屋さんは本来は職人であるわけですから、いいえ、職人と言える方には百%支払っていただいても当たり前ではないでしょうか。
 かつて学生時代の友人の営業マンは百%集金して当然で、出来なかったら罰金だと聞きましたが、貴殿はご存知でしたでしょうか?業界自体の考え方が変わらなければ、後を引き継ぐものはいなくなってしまいます。
 ある地域では、それまでは支払いが良かったのに、ある大手問屋が商圏拡大のために、支払いはいつでも結構と言ったせいで、あらゆる仕入先に対して、支払いが非常に悪くなってしまったそうです。貴殿はこの話を聞いてどうお思いでしょう。ご意見をお聞かせください。
「人は悲しみを拒み続けながら、学ばずに過ちを繰り返す。」
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年4月掲載 宗教工芸新聞より抜粋