京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「保守的な業界を変革を!」

 拝啓、暑さ厳しき折り貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?
 相変わらずの不況の中で話す話題も「景気はどうですか」ばかりです。「景気は底打ちした」と新聞には書かれていますが「そんな感じはまったく受けない」と私の周りの方は皆さん同じ意見を申されています。大企業は良くなりつつあるのかもしれませんが中小・零細はまだまだといった雰囲気です。それに仕事をしていると一社独占というわけにはいきませんので、どうしてもライバルといわれる敵がいます。敵同士・味方同士切磋琢磨して業界を盛り上げていくのが理想でしょうがなかなかそうは参りません。しかしその敵がライバル社だけではなくて自社(味方)の中にもあるといわれています。
 フランス寓話のなかで「熊と園芸の好きな人」というのがあります。一人ぼっちが嫌いな熊が園芸好きの男と知り合います。ある時、眠っている男の顔の上を蝿が飛びまわっているのを見た熊は、親切心で追い払おうとしますがなかなかうまくいきません。そこで近くにあった石を掴んで蝿に投げつけると石は蝿にあたって殺す事が出来たが、同時に男の顔も傷つけてしまったという話です。この寓話の教訓は「愚かな味方ほど危険なものはない。賢明な敵のほうがまし」というものです。この教えが結構、企業組織に当てはまるのです。
 たとえばビール会社では、新商品を評価する時、それ以前に飲んでいたビールと新しいビールを飲み比べるそうです。その時、役員や年配の社員ほど、「何だこれ、今売っているビールが一番おいしい」と評価してしまうと、アサヒビールの元社長、樋口広太郎氏は言っています。こんな事は多かれ少なかれどこでもありそうですが、そこで樋口氏は新商品決定システムを変えて評価する際に、一人前になるといわれる入社八年目の技術者達にも担当役員と同じ一票を持たせたそうです。そして生まれたのが大ヒット商品「アサヒスーパードライ」。この新商品によってアサヒビールは飛躍的に業績を伸ばしたのです。
 人は年齢とともに保守的になっていき、過去の基準が何時までも通用すると思いがちです。私たちの業界でもそうではないでしょうか。例えば仏壇。現代の時勢にあった仏壇が業績を伸ばしています。次代をになう若者の考え方が「こ・う・で・な・け・れ・ば・な・ら・な・い」というあまりに保守的な業界を変革させていってくれる事を期待しています。珠数も新しい発想で少しは変化しているのでしょうか? たとえば有名人との共同企画などはいかがでしょう。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年7月掲載 宗教工芸新聞より抜粋