拝啓、晩夏の候、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?
最近、珠数業界の中で何か新しい風が吹き始めているのでしょうか、前回私が記した同じ号に「珠数携帯ストラップ」であるとか「作家との共同企画ブレスレット」など今までに無かった新商品が登場しはじめ業界出身者としましては大変うれしい限りです。あまりに旧泰然として閉塞感が強い世界ですが、かといってまったく新しい事をしてもやはり受け入れがたい面が強いので新商品といっても私が現役の時代からあまり変わり映えがしなかったようですが、携帯電話といった時代に沿った商品の関連品であるとか有名人と共同で商品を企画し販売するとは二十一世紀の時代だなと若い方々の頭脳に感服いたします。こういった商品は不景気の業界に喝を入れてくれるでしょうし、また同業他社も負けじと新企画を考えてくるでしょうから業界が活性化され、ひいては底上げにつながるでしょうし大賛成です。これなら海外の安価な商品との値段競争とはまた違う競争になりますし小売店もセール時の客寄せにも繋がるでしょう。
一方、このような企画商品は誰もが知っている言わば定番品には、なかなかならないものです。世間の人は、「珠数」はご存知でもどんな素材が利用されているかなど業界以外の人は誰も御存じないでしょう。これが宗教用具業界内の刺し身の端たる珠数の現状で残念ですが、仏壇にしても同じような物です。
しかし調べてみますと誰もが知っている食べ物のなかには、宗教がらみが結構あるものです。まず「サヤインゲン」。年に三度もとれる事から関西では「サンドマメ」とも呼ばれていますが、原産地は中南米で日本へは一六五四年に宇治の万福寺を創建した隠元禅師が中国からもたらし、名前の由来も隠元禅師から取ったそうです。
それから「豆腐」。唐の時代の中国から仏教伝来とともに日本に伝わりましたがそれは、一部に残る堅い豆腐です。そして奈良時代から室町時代中期にかけて、京都を中心に製法や料理法が広まったようです。寺院を中心に発展していく精進料理や、冬の保存食として高野山で作られた高野豆腐、それに京都の寺院には今でも冬に「ゆどうふ」の看板が掲げられています。
『醒睡笑』という本にはこんな事が書かれています。「豆腐を食いに寺へ、どこの寺かと問うと言わずと知れた寺よ、ゆっくり言えば分かる東福寺(とうふくうじ)」。(京都の秋の紅葉で有名な禅宗の寺の事です)紙面が無くなりましたので続きは次回に。
かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年8月掲載 宗教工芸新聞より抜粋