京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「宗教食品!?-茶」

 拝啓、灯火親しむの候 貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。 
 さて豆腐や納豆以上に私たちにもっとも親しまれている食品に「茶」があります。これも寺院が関係しているものです。
 平安初期に唐から帰朝した最澄により伝わりましたが、当時の茶は宮中の儀式や薬用に用いられるだけの貴重なものでした。その茶を広めたのが京都・栂尾にある国宝・鳥獣戯画で有名な世界文化遺産に指定されている高山寺を開いた明恵上人だそうです。鎌倉初期、明恵上人は栄西が宋から持ち帰った茶を栂尾山に植え、茶の栽培を始めました。明恵上人が「茶祖」、栂尾が茶の発祥地と呼ばれています。以降、室町時代にいたるまで、栂尾山の茶は「本茶」と呼ばれて珍重され、茶の栽培は宇治や静岡等に伝わり嗜好品として広く飲まれるようになり、室町時代に茶の湯を生む土壌が育まれるようになったのです。
 約八百年たった今も高山寺には茶園があり「日本最古之茶園」の碑が建っています。また五月上旬に摘まれる新茶は予約すれば購入する事も出来るそうです。
 しかしこのように有名な「茶」でもその起源や発祥についてご存知の方は多くはないでしょう。「茶」でさえそうなのですから「珠数」は当然知られていません。すでに「珠数」の起源は述べさせていただいているのでここでは割愛させていただきますが、私が申し上げたいのは、長い年月の間に忘れ去られていくものは当たり前かもしれませんが、数多くあるという事です。
「珠数」についても実はいくつかあります。ここがいけない事かと思いますが、お客様のご注文を納めさせていただいているだけで結構売り上げも立っていたので(過去の事ですが)特に勉強をする事も無く、あるいは勉強する時間が無かったので、次第次第に余り無い注文は忘れ去られていく、もしくは御寺院方も時代と共に使用されない「珠数」も出てくるのか、同業者間でやり取りが無いままに消え去ろうとしている「珠数」があります。
 たとえば京都嵯峨に浄土宗の古刹で釈迦堂の名で親しまれている「清凉寺」があります。正門をくぐりぬけてすぐ左に「法然上人像」があるのですが、その手は「八ッ房の珠数」を持っています。紙面が無いので次回に持ち越しますが、御珠数屋さんの中でこの意味について御存知の方、いらっしゃるでしょうか?正解は次回に。
かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成14年10月掲載 宗教工芸新聞より抜粋