2001年度建築科1年 設計課題2「住宅」

2001年度の第2の設計課題は例年通り、6月後半から7月に案をまとめ、夏休み中に製図、模型制作を行ない、夏休み明けに提出、公表会を行なうというものである。6戸でひとまとまりの郊外型木造専用住宅(2階建て、延面積150m2、6種類の変形地に配置)で、今年は模型に優れたものが多く、見ていて楽しかった。以下、その中から優秀作品を5点選び、本人のコメントを付けて紹介しよう。なお、提出要求図面は、各階平面図(1/100)、立断面各2面(1/100)、断面詳細図(1/30)、2階床梁伏図、小屋伏図、軸組み図(各1/100)、外観模型(1/100)である。

採点風景

 提出の日、全員が全員の作品を見て採点するという形式で始めて2年目だが、徹夜明けの眠い眼をこすりながらも、まだ気が張っている頃合だからだろうか、結構しっかりと見て批評している。その結果から適宜10名の採点結果を選び出し、それをそのまま作品の評点の半分としている。残りの半分は3人の講師による採点の平均だ。その後の公表会と併せて、なかなか好評である。採点は計画・意匠の総合点、平面図・立断面図の図面点、構造図およびかなばかり図の評点、および模型の評価という4部門に分けて評価される。学生たちの評価は10人を偏り無く適当に拾い出してみると、意外にわれわれ講師の評価と大差ない。

 公表会風景

 午後、7、8人が講師によって指名され、皆の前で公表する。学生は製図室にて公表者を取り囲んで聞く。一度は作品を見ているので、おおよそは掴んでいるところで、設計者の意図が確認できるというのがよい。さまざまな質問も飛び出し、最後に担当した講師によるコメントが入る。講師による指名人が終わると、学生たちによって推薦された者が発表する。未完成のまま提出した者や間に合わなかった者は口惜しい思いをするわけだ。

今年のベスト6

各敷地ごとのベスト6: 梶村美也子、濱野宏、山内正章、杉江崇、難波章郎、薦野愛

6区画からなる敷地(敷地面積およそ250〜300m2)にそれぞれが設計するのだが、変形地でしかも方角が異なるので、毎年色々な案が出てきて楽しい。せっかくなので、各グループで分担させて町並みや家並景観という意識まで行ってくれればこれに越したことは無いのだが、そこまでは無理なようだ。家族構成、要求室、延べ面積、長期滞在が可能な和室客間、2台駐車などが建築条件として与えられている。不思議に学年によって、模型のトーンが似通ってくる。ほぼ全員が白一色の時もあるし、赤い屋根が出て来る年もある。今年は銀色の屋根が主流となっているようだ。

 今年の家並としてのベスト6は、写真にあるようなものだが、毎年、同じ区画に秀作が重なってしまう傾向がある。両端の変形地に力量のあるものが来るので、両端はいいものが出そろう。北向きの敷地の方が一般的には計画はしやすいと思うが、案外に、アプローチ側にたっぷり余裕を取れないせいか、淡白な設計が多くなるようだ。段差を利用すれば、南側でもアプローチからの視線をカバーできることもあって、今年は南側に力作が多かった。ちなみに去年は北側に優秀な案が多かった。

 以下、その中から5点を選んで紹介しよう。 

作品紹介 (青字は作者のコメント 末尾はさのによる感想)

1「空の見える家」   梶村美也子

内部スケッチ

 「空の見える家」はキッチンを中心としたサンルームのある木造住宅である。家族は、老夫婦と、若夫婦、小学生低学年の息子2人。この家の特徴は、キッチンが家の中心にあること。そして北向きの天窓のあるサンルームである。まず、キッチンが家の中心にあることにより、家を管理する母親が常に家族がどこに居て何をしているか、たいていわかるようになっている。キッチンは調理する場所であるが、同時に家事をする場所であり、母親の個室でもある。玄関を入って、まずあるサンルームは、床暖房の上にテラコッタタイルが敷かれており、多様な利用が可能である。例えば、テーブルを出して朝食やティータイムを楽しんだり(ダイニング)、父親が息子たちとキャンプの準備をしたり(趣味の場)、息子たちの遊びの場(プレイルーム)となったり、パーティ会場としても十分に使える。

1階平面図

   2階平面図

 またダイニング兼リビングは床座となっており、キッチンの床から30cm上がっているのでカウンターの視線の高さと近く、サンルームと対照的に和風に演出することができる。階段を上がった所にある室内のバルコニーは家の植栽スペースとして利用でき屋内の庭空間(サンルーム)をより快適なものにしてくれる。

断面図

 この家は子供部屋からみてもまだまだ変化が必要である。しかし私は、家は人といっしょに成長していくものと考える。よって今、この家族にとってよい空間とはどんなものか、どこまでできるか、それを考えてつくった。“いつでも空が見える部屋の中には太陽(母)があり、家族を照らしてくれるように”そんなイメージで家をつくった。(梶村)

 全景

 北面

  模型を見れば、至極簡素に見えるが、相当に精巧な腕の持ち主で、なかなかやるなと感心。この道路からのアプローチの塀の形状を見ても、角角と細かい四角な空間を重ねてゆくのがどうも好きらしい。それはこの住宅の内部にも見られて、やがて後期の美術館の設計に顕著になってくるのだが、それはさておき、この立面の簡素な美しさを見ても、かたちに関するセンスは「できあがったもの」を感じさせる。隙の無いまとまりのよいデザインだ。でも、もっと間が抜けていてもいいと思う。きっちりとして隙の無い意匠は、強い印象があるが、ちと疲れる。一度ゆっくりと全体を見回し見渡しして、壁や抜けてゆくところ、のっぺりとしていて地になっているボディ、そんな基本的な空間構成要素をしっかりと掴んでおき、そこへ描く目鼻の格好に依らないデザインというものを勉強をしてみたらどうだろうか。器用なゆえに見えにくいのかもしれない。この家の計画に関しては、もっとテーマとなっているアトリウムのような空間を、たとえば半外部的な扱いにつくるとか、もっとおおらかにつくった方がいいだろうと思うのと、そのような構成を外にデザインとして見えるような工夫が欲しい。(さの)

 

2 「ルーバーのある家」  杉江 崇

南面

 家に必要な機能とは?そう考えた結果が『心地の良い空間造り』ということでした。それを一貫して求めるとこのような形になりました。間取りはLDKを中心にそれぞれの部屋を構成し、できるだけシンプルな動線とし、常に家族の気配を感じながらも、それぞれの独立性を持たせるような工夫をしました。

1階平面図

2階平面図

 

 正面の大きなルーバーはLDKと子供部屋に優しい光を落とし庭との空間の連続性を演出しました。使用する材料には、無垢のフローリングや珪藻土の土壁、天然ウールの断熱材などを選択し、住む人の健康に配慮しています。屋根はガルバリウム鋼板の片流れにし、ツートーンの色漆喰の外壁とあいまって建物全体に軽快な印象を与えています。

 『建物の顔は住む人の顔』。私は、家も個人の表現の方法ではないかと思います。その人らしい家・・・とても難しい課題ですが、画一化してきている現代では、自分はこうありたいと願う人も多いでしょう。今の人々は中途半端なもの、無難なものでは満足できなずに、人とは違うもの(家を造りたい人)、もしくは驚くほど安価なものを好む(家を買いたい人)傾向があるようです。もちろん『郷に入れば郷に従え』という言葉どおり地域性・景観というのも配慮すべきです。個人的には前者(家を造りたい人)が多くなれば・・・本当にいいでしょうね。

全景

 よく言われるように家は一生に一度の大きな買い物であると思います。その一度の買い物で生活を送る・・・そんな生活の舞台を造るのが私だと思うと手を抜くわけにはいきません。住宅造りはいかに住む人の身になって考えるかということに尽きると思います。

 そろそろ私も就職を考えないといけませんが、住む人の身になってじっくりと生活の舞台づくりができる仕事、それが私の希望です。(杉江)

西面

 これも相当に真面目な作品で、外観はちょっと大胆な感があるものの、その部分だけで、あまり全体に生きていないといった印象だ。もっとも、模型は相当に手間ひまがかかっていて、心がこもっているという印象はとてもいい。平面計画は一見まともそうだが、正面の吹抜けは諸々の利点を殺してまでつくって、どれだけ意味があるだろうか。(いや、あるにはあるんですよ。ここは半分ほど反語的に読んでください。)置畳に座りねころんでも、落ち着かないだろうね。このメインの部屋に収納がほとんどない。家具も置けないぞ。座布団はどうする?まだまだ生活の実際が見えていないのではないか。「住む人の身になって」今一度考え直してみて欲しい。(まだ工夫できるでしょ)。模型は北面などあちこちにいいところもあるが、全体に開口部のデザインは見直した方がよさそうだ。(特に2階の西面の窓!)個人的にはアプローチのざらざら階段が気に入っているのだが、地に潜ったガレージからのアプローチも考慮して欲しいな。(さの)

 

3 「民家型構法の家」   薦野 愛

南面した入口

 いわゆるニュータウンに建つ集合住宅で育った私は、父の田舎で祖父母の家やまわりの家々の瓦屋根が山を背にして並ぶのを見るのが好きだった。そこで育ったわけでもないのに、なぜか懐かしさや落ち着きを感じてしまう古い家には、住宅の本来の機能が備わっているように思う。その要素とは何か、この課題を通して明らかにしたいと思った。

1階平面図

 2階平面図

 まず意図したのは、家の内と外がつながりを持った空間となること。玄関から台所・食堂を通り、水回り空間までを土間とし、外部との行き来がスムーズになるよう意識した。また内部空間では家の中心となり家族が集まる台所から各個室への中間に子供の遊び場にもなるフリースペースを設け、家事をしながら子供とコミュニケーションがとれる配置にしている。台所とフリースペースは天井を張らず、柱梁の架構を見せ空間を強調する。冬場の冷えに備え、内部の土間部分には床暖房を設置する。敷地を活かし、和室の面した南庭を始め、台所や風呂場からそれぞれ専用の庭を鑑賞することができる。土間や縁側、建具によって仕切られた自由度のある空間などは、内部と外部の差を明確にせず、空間にあいまいさを残している。集合住宅を始めとする現代の住宅は機能や効率が重視され、こうしたあいまいさはただ無益なものとして排除されてきた。子供心にも、田舎の家の押し入れや階段の下で遊ぶわくわくした気持ちは何か特別なものだったように思う。

スケッチ

 課題を終えて、土間の活かし方の難しさを思った。客間から浴室や便所へ行くのに一旦土間へ降りなければならないのはやはり面倒だし、高齢者の安全のことを思うと、台所・食堂までを土間としてその奧の水回りは板間にすることも考えたが、あくまで外部のような内部空間にこだわり、家の中をつきぬける形で土間を配した。しかしそこまでして古い家の持つ豊かな空間に近いものを再現できたかどうかは自信がない。吹き抜けや建具の多用により大きな空間をつくり、開放感や一体感を確保することにこだわりすぎ、個々人の持てるプライベートな空間が少なくなってしまったことも、現代の生活に合ったプランとは言い難い。

 以上のような反省から、今後は自分の作りたいモチーフを現代の要望の中でどう形にし、活かしていくかを突きつめて考えていきたいと思う。(薦野)

東面を望む

北面を望む

 一見、何でも無い民家のようだが、内容はいい。まだ構造は概念的な把握にとどまって、伝統的な木を見て活かした使い方には遠いが、何といっても、建築を勉強し始めて2、3ヶ月。それでこんな家を設計できてしまうとすれば、僕の30年間は一体何だったのか、と考えてしまう。彼女の設計作業を眺めていると、知識やテクニックに依らない、もっと向こうに見えている憧れの空間をそのまま描こうとしているように思える時がある。変に汚されていないからこそつくりだせる魅力のようなものがある。当方はそれに下手に手を出したり、邪な想念を吹き込んだりしてはいけないのだ。それはあまりに一瞬で、脆く、危うい。でも、次には、汚そう。しっかりと泥を掴んで強くなってもらいたい。

 計画では、伝統的な民家の土間の空間がテーマになっている。晴レの座敷に意味としての優越はあるけれども、やはり家族の居所は土間の食卓を囲む生活空間なのだというところで、両者の引張り合いに設計の悩みがあった。これはそう簡単に解決はできない。土間へのあこがれはあるけれども、土間に寝転ぶことはできないからなあ。欲を言えば、ダイニングテーブルから外へのつながり、あるいは視覚的な広がりを作りたかったか。東側、車の上にデッキを渡して、そちらにオープンテラスをつくるというのが、いかにも今風の甘い案だが、どうだろうか。(さの)

 

4 「和洋混淆の家」  難波 章郎

 この住宅を計画するにおいては、最初の「習作」ということもあり、自分の中の「家」ヘの原初的なイメージに忠実であることを心掛けたつもりである。こういうアプローチの仕方は、実際の住宅設計においても、「終の棲処」であり得べきもの、という意味で有効であるように思う。

 さて、デザインについて、外壁には白塗の南京下見を用い、窓は洋風の上げ下げ窓にガラリを付け、屋根は大小の切妻を連ねて「家型」を強調し、これを和瓦葺きとした。このような擬似洋風的なスタイルを引用したのは、いわゆる「在来構法」を用いて「純和風(?)」を実現するには、取り繕うべき箇所が多いということもあるが、何より実在の「擬洋風」建築に私が魅力を感じるからである。(異文化のファースト・コンタクトにおける、折衷と呼ぶにも至らない「交雑物」の、繰り返し参照されるべき魅力!)

 また南京下見の外壁は、土壁の「呼吸する」壁体としての特質と耐火性に、対候性を上乗せするものであり、優れた性能が期待できるものである。

道路から東庭を望む

道路から玄関を望む

南立面

 内部のプランニングについて、先ず南北に中廊下を通し、客間・玄関と、完結性をもつ生活空間を振り分けた。この中廊下が緩衝空間として居間と客間、屋内と庭とを緩やかにつないでいる。またもう一つの「緩衝空間」であるサンルームを設けることで、屋内と庭とのあいだに回遊性をもたせている。

 廊下幅は若干広め(1.365mm)に取り、2階にはアルコーブ風のワーキングスペースを設けている。これは自分を仮想の施主と考えるならば、この廊下には本棚を置き、アルコーブやサンルームで読書するだろうからである。私は子供の頃から、こうした「すみっこ」で本を読むのが無性に好きだった。(難波)

1階平面図

      2階平面図

 外観を一見したところ、ごく普通の家への憧れを持つた普通の人と思へるかもしれないが、どつこい、この難波君は厄介である。上の文章を見ても、それは窺へる。人一倍へんちくりんで愉快なものをつくりさうなのに、ごく普通なのである。しかも模型を見れば分かるやうに、樹木にしても、瓦、下見板、鎧扉付きの窓にしても、1/100でここまで作つてしまふのだから、もはや普通の人ではない。つまり、厄介な学生なのだ。美術館にしても、その通常ならぬ厄介ぶりが発揮されることであらう。読者はたのしみに待ちたまへ。(さの)

5 「階段に憩う」  李 福先

 先ず始めに外観において、45°回転させて平面計画を行なった。理由は、南面する居室を確保するため、それに各室に庭をとりたかったからである。しかし何と言っても、一番のモチーフは階段である。

 通常、隅に追いやられている階段を主役にしたいと考え、家のど真ん中に配置してみた。その回りに回廊を巡らせ、各室へアクセスできるようにしたが、寸法的な余裕があまり無く、逆に階段フロアを土間にしてみた。土間にすることにより、廊下というフロアがなくなり、違った広がり感を持たせることが出来たように思う。リビングルーム、和室、寝室以外はすべて土間で、室内履きを使用することになる。

1階平面図

 階段に憩えるためには、当の階段という場所が居心地の好い空間でなければならない。そしてリビングルームとのつながりを工夫することが重要である。リビングルームへは、引き戸を開け放ち、外部、リビングルーム、階段のそれぞれの空間を視覚的につなげる。階段にはリビングフロアと同じレベルのデッキを設け、上方のトップライトからこぼれる光を受けながら、大黒柱にもたれつつ外を眺めるという具合だ。逆に、外部デッキから階段を見るのもよいのではないかと思う。階段室がオープンスペースとなるよう、透かし階段にする。段下には観葉植物でも置きたい。この階段は大きな吹抜けにかかるので、2階の子供部屋とのつながりもよい。(李)

    2階平面図

 

南面よりアプローチ

西方より望む

 中央にどんと構えた階段のあるアトリウムはずいぶん思い切った発想だが、それをさらに土間にしようというのだから、これも普通では無い。李さんは名前の通り、故郷を遥か韓国に望む。僕も薦めたこともあり、当初は韓国の伝統民家を学ぼうと勉強を始めた。それはそれで続けることにして、今回の住宅は正直に自分の思うままに作ってみることとなった。グリッドを斜めに振るのは町並みの観点からは、どうもうまくいかないのだが、この案は不思議にそう違和感がなかった。全体のバランスと外構の工夫でそう見えるのだろう。あちこちに面白い発想があり、多少の使いにくさはあるが、主張はある。階段アトリウムも、細部のつくり様で何とかなるかもしれない。李さんの言うように階段で憩うかどうかは、さて、もう少し工夫が要りそうだが、今後の発展に期待したい。(さの)

(文と写真 さのはるひと)

           

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