作品2 「土と暮らす」   薦野 愛

 プレゼンテーションタイトルの「土と暮らす」には、地域性のうしなわれつつある現代生活にあってその土地の風土や文化、習慣に根ざした生活をもう一度考え直してみたいという気持ちと、土壁をはじめ木や紙など土から生まれる自然素材を使った伝統工法の家で生活する心地よさを、集合住宅にも取り入れたいと思ったこと、草木や花の世話を通して育てる楽しさや四季を感じる豊かさのある暮らしを実現できたらという思いをこめました。
 そういった生活の中で昔からある隣人とのつきあいや地域社会の役割を認めながら、同じ敷地に暮らす共同住宅の新しい住まい方が培われていくのではと思います。

  プレゼンテーション

  配置・コンセプト

配置計画
 東西にやや広いL字型の敷地の北側を車の専用スペースとし、駐車場部分は各住戸の半地下部分に収めた。敷地南側の中央には公園があり、住居棟への通路を挟んで公園の西側に別棟の木造の集会所を設けた。この集会所は南のさわらぎ町通に面して土間空間をとり、地域住民の休憩スペースとしても機能する。敷地の東の角には貸し農園を設け、集合住宅の生活では実現しにくい家庭菜園や庭づくりを楽しむことができる。ここでも住民と、地域の人々との対話が生まれることを期待できる。
 生活空間と共有空間が混ざりあう親密な路地裏空間に近いものとなるよう、住居棟の南側に接して通路を設け、同時にプライバシー保護のためレベル差を1mとり、木を配置した。

 断面詳細

平面計画
 車は東棟、西棟とも北側の入口からそれぞれ敷地内に入り、各住戸の真下の半地下になったスペースに駐車する。駐車場奥の通路を通り、南側エントランスに通じる階段室に出る。住居は半地下部分をとったことによるレベル差を利用したスキップフロア型となっており、階段やロフトを設けることで空間に広がりと変化をつけることを目指した。

 断面と東立面

 外部仕上げは瓦屋根としっくいで、東棟のみ側面を杉板張りとした。鉄筋コンクリート壁式構造の3階建てだが、木造2階建てでしかも京町家が多い周辺の景観に調和するよう高さをできるだけおさえ、外部仕上げも周辺の建物によく見られる素材で統一した。
 

 立面

 同じプランが繰り返され、画一的になりがちな集合住宅の表情に変化をつけるため、明かり取りと通風のための腰屋根を設けたり、東棟と西棟の高さを変えた。また2階バルコニーの手すりは外側に板を張っている。

講評:アプローチは階段室型、各住戸はスキップメゾネット型による集合住宅。自然や伝統を大切にしたいという基本姿勢が、立面の構成や、建築材料の選定、コンポストの設置、中水の利用、家庭菜園の提案など、設計の様々な面で首尾一貫している。CADの図面の多い中、あえて手描きで描かれた線の一つ一つに設計者の思い入れが感じられる。敷地中央に設けられた広場の設計が希薄で、その使われ方が見えてこないのは残念である。