「ゆあん」 梶村美也子

■設計概要
 名水の地として有名な京都市伏見区。その場所で水を多様に最大限に活かし、回遊式の銭湯‘ゆあん’を提案する。
 最近、近場でしかも低料金で遊べる公共施設としてスーパー銭湯が定着している。しかし、スーパー銭湯の問題点はその立地にある。広い敷地の確保、地価の安さからどうしても町の中心部から離れた、住宅街から遠い、車で行くのに便利な主要道路沿いに作られるケースが多い。私は「町中の桃源郷」として理想的な伏見の地を選んだ。ここは観光地である。坂本竜馬ゆかりの地として多くの観光客が訪れ、美観地区として指定されている。と同時に、地元の人の息づかいが聞こえる町でもある。10分も歩けば大手筋商店街があり、大手スーパーがあり学校がある。今回私は、この銭湯へは歩いて来てもらうことを基本とした。駐車場は足の悪い人、又はデイサービスの車専用である。観光客には周りにある駐車場(タイムパーキング)を利用してもらい、そこから歩いて来てもらう。せっかくの周辺環境なので、銭湯への序曲として酒蔵の煙突や疎水ぎわの揺れる柳を眺めながらお風呂への期待感を高めてもらいたい。
 先ほどにも述べたがこの銭湯は月に数回デイサービスのお年寄りの方がかに定期的に利用していただく。そのため館内の移動はバリアフリ-を中心に計画されている。しかし、何よりも温泉旅行にいけないストレスのたまっている社会人、主婦、学生をターゲットに魅力的な空間をいくつも用意している。まず、その一つがロビーと休憩所の両側から楽しめる長い水盤である。ここは季節により生け花が飾られたり、花が浮かべられたり、お酒を冷やしたり、冬には氷が張ったりと、来るたびに変化する。次に仮眠室と板の間の間にある室内庭が挙げられる。ここは別名「庭床」(庭の床の間)とも呼ばれ天窓からは淡い光が降り注ぎ、犬潜りとなる壁は上部ではルーバーとなっているので圧迫感はない。その先には足湯の縁がある。湯が機械室からろ過されて循環しているのだが注ぎ口を遠くに設け、まるで川のようになっている。浴室は週交代で男女入れ替え制とし、リピーターを飽きさせない。男性よりも女性のほうが必ず利用時間が長く回転率が悪いので、ロッカーの数が常に男性の倍程度あるように脱衣室を工夫した。浴槽はデイサービスにも使えるよう個人風呂を用意し、開口部を大きく取って敷地内の庭が満喫できるようになっている。またカップルで訪れた人々にも楽しんでもらうために、奥に混浴の露天風呂を設け温泉気分を味わってもらう。庭園にある茶室は堅苦しくないよう立礼専用の席となっている。
 管理側からも使いやすいよう考慮している。毎日起こるカランの修理調整のためにも機械室を浴室の近くに設け、ピットの天井高を十分にとった。従業員にはどこでも入れるように、でもお客様は立ち入らないよう暖簾、竹、石、植栽で仕切りや結界を設けた。
 この銭湯の構造はRC造で西・中・東棟、レストラン棟をエクスパンションジョイントでつなぐ。屋根は瓦、外壁は左官風とデザインは周囲の雰囲気に合わせ、和風である。西面の正面は大きな瓦屋根にソメイヨシノが迎えてくれる。内部もできるだけ自然素材を多様に使い、内部と庭を分断させないよう気をつけた。‘ゆあん’は湯庵と癒庵を兼ねて名付けた。私は水がきれいであれば、その地は潤うと考える。その逆に水が枯れたり汚れるということは、その地の衰退を表す。銭湯は地元の人々のコミュニティをねらったのはもちろんだが、この地に住む人、この地を訪れる人がこの’ゆあん‘で水を見て、水(湯)に触れ、飲むことで、この地をこよなく愛し、水の存在価値に気付き、これからも大切に守っていってもらいたいと、という願いもこめて作品にした。
外構図
1階平面図
敷地周辺写真、地図
北立面図(一部)
かなばかり図
模型写真
講評

「水を楽しむ」テーマに、酒蔵の建ち並ぶ伏見に計画した銭湯である。内部空間の雰囲気がイメージスケッチや詳細図によく表現されており、外構計画も植栽を中心に緻密に考えられている。伏見の景観の向上に資すべき外観の計画はやや物足らない。