人を元気にする商店街〜三条商店街への提案〜 薦野 愛
大正3年からという歴史をもつ三条商店街は堀川通から千本通を結ぶ東西800メートルの通りに様々な店が並ぶ。
周辺には二条城、二条陣屋、神泉苑など歴史的遺産が多く、地下鉄、私鉄、バスなどの交通の便もよい。通りの端から端までアーケード、照明が設置されているため、雨の日や夜間の交通には大変便利で、一日を通じて人通りが絶えることはない。
といっても、通りに軒を連ねる商店がそうした通行客に利用されているとは言えず、日常の買い物をする地元住民(歩行者、高齢者が多い)と、通行者(自転車、若い世代)とに分かれているのが現状だ。地元住民と外からの通行客、そして子どもから大人までが交流の場、発見の場として三条商店街を利用し、毎日の元気を得るためには何が必要なのだろうか。
敷地図、周辺写真
○提案1
「千本通側の入口から三条会の情報を発信」
3本の通りが交差し、どこからも見通しの良い敷地に、毎日三条通を通過する外からの通行客、周辺の史跡を訪れた観光客に対し、おすすめ商品やイベント開催などの情報を提供し、三条会商店街をアピールする施設を計画。休憩スペースなどを設けた建物に囲まれるように扇形の広場があり、休日にはフリーマーケットを開くなどの催しを行なう。扇形はそのまま訪れた人を三条通へ誘導する。
三条通のほぼ中央に位置する公園に隣接して、主に地元の住民のための寄合所を設ける。子どもも大人もなんとなくやってきて知った顔と世間話をしたり、友達を見つけたり、一人落ち着いて本を読んだりできる、第2の家のような場所。通りと公園と寄合所をつながりのある空間とし、通りを歩く人も気軽に立ち寄りやすい場所とする。
○提案2
「住民が毎日利用できる居心地の良い場所を」
東側の入口近くにある既存ギャラリーを増築し、室内での展示にとどまらず、扇形の前庭を利用したパフォーマンスや野外ライブなどエネルギッシュなイベントを行なう。コンビニに隣接した休憩スペースは若者同士の交流の場となり、扇形の広場は三条通へと開かれている。
○提案3
「若者に表現と刺激の場所を」
三条よりあい処

■配置計画
 三条通に接するように建物を配し、南側は樹木や池を配した庭園とした。株立ちのケヤキをはさみ、庭園のとなりには区分けされた園芸スペースを設け、住民に利用してもらう。

■平面計画
 一階は出入りがしやすいよう土間を基本とし、談話室との境は壁を設けず、腰掛けられるようにした。24時間利用できるトイレから回廊が建物周囲に巡り、通りとの緩衝空間としている。冬場を除き、開館中は南側の大戸を開け放ち、通りから建物内部を通して庭の光が感じとれるよう意図した。談話室、囲炉裏、厨房などは訪れる人相互の会話が生まれる場とし、2階の読書室は1階と空間的つながりを持たせながら一人でも落ち着いて過ごせる場とした。
三条よりあい処平面図、断面図
パース
立面図
三条なんでも館

■配置計画
 千本通り側の入口の見通しの良い交差点に面して、扇形の広場を設け、その広場を囲むように仕上げの異なる段差をつけた。最上段はGLから60cm高く、ガラス屋根つきの回廊とし、建物が建て込み雑多な印象となっている周囲の景観から、空間に変化を持たせた。

■平面計画
 回廊に面した壁には、商店街で販売する商品や関連する情報を展示するスペースを設けている。両端と中央の三ヶ所に入口を配した建物内は中央が小屋組の見える吹き抜けのラウンジとなっており、商店街利用者だけでなく、周辺を訪れた観光客も利用できる休憩スペースとした。
扇形の同心円状に段差をつけ、空間に境界をつけたが、同時にスロープを設け、身障者や高齢者に配慮した。
三条なんでも館平面図、断面図、立面図
断面詳細図
三条ギャラリー

■配置計画
 商店街の中に居場所の少ない若者を主要な利用者と考えた。堀川通に面するコンビニエンスストアは、よく若者に利用されているため、それに隣接する敷地を選んだ。ベンチとパーゴラのある休憩スペースを設け、その休憩スペースは三条通と一体となるよう意図した扇形の広場に面している。ギャラリーは既存の建物を増築する形で広場を囲む。壁面はツルバラを這わせ、将来は緑の壁となる。

■平面計画
 既存ギャラリーにつなげて増築した部分には、新たに広場からの入口とトイレを設けた。既存部分と仕切ることで異なる催しや広場を使ったイベントの際のバックヤードとして使用することが可能である。
講評

建築単体ではなく商店街の活性化という地域計画がテーマである。地域の活性化のために建築に何ができるのか、大正初期に遡るという三条商店街の活性化のために挿入される新しい建築は伝統的工法によるべきなのか現代的な工法によるべきなのか、活性化の起爆剤は若者なのか、高齢化の進む地域の人達なのか、観光客なのか、いろいろ考えさせる作品である。