東 梢恵 「This is the 絵本図書館」

『コンセプト』

私が生まれ育った町には、図書室というほうがふさわしいくらいの小さな図書館があります。
内部は小さいながらも大人とこどものスペースに分かれており、大人の世界
をのぞき見ては
未知の世界に心を弾ませていたものでした。また、平日の日中など人
が少ない時には、
こっそり忍び込んで意味不明な難しい本をながめては大人気分を味
わっていたものです。
京都市内の図書館の中には、こどものスペースのないところが
あります。絵本専門店や
こども図書館があるとはいっても規模が小さいところがほと
んどです。

また最近では、絵本=こどもという図式が浸透しつつあるのではないでしょうか。絵本は大人でも
十分楽しむことが出来る立派な書物です。対象年齢を制限しないために
もこの図書館では、
テーマを「日常」とし、散歩の延長で利用できるような日常に溶
け込む図書館を目指しました。
貸し出しはなく、この敷地の中で読書、食事、昼寝、
散歩、スケッチなど、世代に関係なく
いつもと変わらない日常を過ごして帰る長時間
滞在型の図書館です。

「設計趣旨」

敷地は北山にある府立植物園と賀茂川に隣接した一角とし、河川敷は散歩やジョギングを楽しむ
人が多く行き交う場所である。そこに「世界」中の人々に永く愛されてき
た絵本を集めた図書館を
計画した。
昨今の図書館などの公共施設は動線計画や機能性に重点を置いた形態に傾きがちで
ると感じます。この図書館ではこども達をはじめとする利用者すべてに、本を通してだけでなく、
五感を使って『世界』を感じてもらいたいという願いを込めました。そ
こで、世界を構成している6つの
大陸をもとに、6つの棟による構成としました。敷地
の中央部分にはシンボルツリーとしてけやきを植え、
その中心を<京都>と見立て、
世界地図の方位や距離に倣い配置計画を立てました。
また、各建物の軸となる斜め壁
は、敷地中央のシンボルツリーへ向かうように傾けられています。
この斜め壁は建物
に対して23.5°傾いており、私たちが生活を営む地球の地軸の傾きを表しています。

賀茂川から、植物園から、そして双方を通り抜ける通路としての3つのアプローチを設定し、
建物を配置しています。建物同士は空中通路でつながれており、日常と違
う目線で樹木を見ることで、
歩行者に新たな出会いや発見をくれるでしょう。
ひとつの建物のなかに『世界』を展開するのではなく、
大陸別に建物を離すことで、
利用者は広場を歩き、木々の中を抜けることで地球そのものの大きさを
体感してもら
えれば、と考えています。こども達は建物間を移動することで、アフリカ大陸とオセアニア
大陸が離れていること、ヨーロッパ大陸と北アメリカ大陸は意外と離れていな
いことを知るのではない
でしょうか。

世代に関係なく利用していただけるよう、図書館の他に、小さな美術館やカフェ、落ち葉などを使った
クラフト教室や手作り絵本などのワークショップを定期的に開催す
るためのアトリエを併設しています。
これらの建物も世界を構成している大陸や海洋
をもとに、世界地図に倣った配置計画としました。
おじいちゃんとお孫さんなどが一日をこの中ですごせる様な長時間滞在型の図書館でありたいと
考えると同時に、世代を超えた利用者たちの交流の場でありたいと願いま
す。

プレゼンボード

世界中に散りばめられた絵本がここに終結!

世界地図+図書館!?
あなたも中に入って『世界』を感じてみませんか?
図書館平面図・立面図
図書館かなばかり図
配置断面図
配置図(コンセプト)

□目印の木
階段に覆いかぶさらんばかりのけやきの大木。この木をくぐるように階段を上って、いざ内部へ。
対岸からの目印にもなる。

□賀茂川からのアプローチ
・散歩中、美術館やカフェへ立ち寄る
・絵本図書館へ遊びに行く
・植物園までの近道

□空中廊下
日常とは違う目線で自然を感じ、見たことのない鳥や動物に出会うこともあるでしょう。
管理棟そばのエレベーターを利用すれば、車椅子の方も散策することができる。

自然との境界をなくすため、手すり壁にはガラスを用いた。

□空中通路内デッキ
距離の近い大陸は、通路上で合流し、デッキの役割も果たす。椅子や絵本を持ち出して青空の下でくつろげる。

□シンボルツリー(もみの木)<北極>
北極圏に含まれるフィンランド北部のラップランドは、サンタクロース誕生の地と言われている。
そこで、<北極点>と見立てた場所にもみの木を植えた。クリスマスには、来訪者みんなで
飾りつけられたツリーに明かりが灯る。


□アトリエ兼書庫<大西洋>
アトリエでは、図書館の展示室用のパネル作り(絵本の翻訳、絵付け)や傷んだ絵本
修理などを行う。普段、来訪者は入れないが、定期的に開催されるワークショップでは、
教室として開放される。隣接する広場は屋外教室となり、樹木で曖昧な境界をつくった。


□図書館<世界6大陸>
ここでメインとなる図書館は、<世界を構成する6大陸>と見立てた。大陸ごとに6つの棟に分け、
各大陸で読まれている童話や昔から伝わるお話に触れることが出来る。目に見える部分に大きな
変化はないが、実際に歩くことで距離感や雰囲気を想像して世界を感じてもらいたい。
半地下のこども室は、地面がこどもの目線と重なるよう考えた。空中通路と同じように目線の違いが
新たな発見をくれるでしょう。

図書館立面図
カフェ平面図
カフェ立面図
講評

<東 梢恵>

世界の絵本の図書館というテーマ設定である。その内容は単体の建物の設計にとどまらず敷地に文字通り世界を作り出すという大きな構想に基づいている。正距方位図や地軸の傾きなどの概念を引用ながら建物を分散配置しているが、スケール感が適切で、敷地内の視点の移動によりさまざまな風景が見え隠れする配置計画もよくできている。クラフト教室や手作り絵本のアトリエなど内部の使い方に対する豊富なイメージを視覚的に表現できれば更に良かった。