杉江 崇 「The Elementary School Fused Into Region」

『地域結合型小学校』

「小学校は社会を映す鏡のようなものである」
今日、社会には様々な問題があふれている。ドーナツ化現象による都市部の少子化、

大阪池田市の自動殺傷事件などの凶悪犯罪、子供たちの学力低下、少年による犯罪の
増加、IT化による学習形態の変化、アレルギーやシックハウス症候群などの健康問題、
失われつつある地域性など・・・。これらの問題に良くも悪くも影響しているの
は子供たちであり、
彼らの生活の舞台である小学校は、その時代を映し出す鏡のよう
な存在であると考えられる。
私は、こういった社会に対して、時代にあった子供たちの生活のステージを創造することで、
社会的な責任を負うべきであると考える。


「地域の目という見えない境界」
大阪池田市の大阪教育大学付属池田小学校の児童殺傷事件の後、昼間でも校門を閉め切った
学校を目にすることが多くなった。メディアでは、小学校のプランの安全性について報じられていた。

周辺地域に対して『閉ざされた学校』は一見、外からの要因に対して安全なように思えるが、
閉じる(ハード・ソフトともに)ことによって、中の様子がうかがえないと
いう事態が起こる。
言い換えると人の目の死角になる部分では、何が起こっても不思
議ではないと言える。
その点、周辺地域に『開かれた学校』は、教師や職員のほか
に、近隣住民の力を借りることができる。
日頃からつながりを持っておけば、万が一
の事があっても、住民の対応により事件を未然に防げる。
塀はなくとも、地域の目という境界が、子供たちを危険から守ってくれる。

「地域がせんせい」
学校が地域に対して開くことには、他にもメリットがある。

地域の人材を講師として迎え社会的な授業を取り入れたり、校舎を地域に開放することで、
子供たちはより多くの大人と接することができ、多様な価値観を持つことがで
きる。子供たちは
大人を見て成長していく。子供たちは、地域から見守られることに
よって豊かな感性と価値観を
持つことができる。

敷地・周辺写真
普通教室棟平面図
講評

 地域に開かれた小学校というテーマをえらび、建築の環境問題を視野にいれて木造を採用しビオトープを計画するなど、現代的な課題に取り組む姿勢がうかがえる。外観に表れた木構造がダイナミックでセンスの良さを感じさせる。各棟の配置計画や動線計画にやや難がある。

「建築概要・敷地概要」
東大路五条を南に下った馬町交差点付近、東山の裾野に位置する。
敷地から望む景色は、北東から南東にかけて東山の山並みが一望でき、清水寺もうかがえる。
南西から北には京都の京都の市街地が広がる。付近には京都国立博物館、三十三間堂、清水寺、
京都女子大学・高校、河合寛次郎記念館などがあり、文化・教育にも恵まれた場所といえる。
また、南隣には京都専売病院の庭園と池があり、小さなポケットパークを形成している。

コミュニティーとしては、場所柄学生向けのワンルームマンションが見られるが、道路沿いには商店、
路地を入れば昔ながらの町並みがあり、小さな社会をつくっている。


「配置計画」
東西に長い敷地の形状により、建物のボリュームとして東西に長いものを計画し、採光条件より
普通教室棟を北側に寄せて配置した。特別教室棟は、授業の内容を考え、自然豊かな南側とした。
体育館との間には自然観察エリアとしてビオトープが設置され観察用の教材にもなる。
また、体育館は東大路の車の騒音を遮るため、西側に配置した。コミュニティー・管理棟は子供の
安全性と地域住民の利便性を考え入り口付近に配置した。さらにこの付近に地域住民の憩いの場と
コミュニティーパークがありベンチを配置している。

「平面計画」
普通教室棟は、近年の少子化に伴い1学年1クラス制とし、1クラス32人の定員を持つ。
また、授業形態の変化や、地域住民の参加に対応できるよう、クラスルームは、可動間仕切りに
よって、ボリュームが自由に選べるようなフレキシブルな空間を持つ。子供たちの自覚を促すため、
廊下とクラスルームの間の壁をなくし、廊下も面積を広くとりオープンスペースとした。休み時間の先生と子供たちの何気ない会話を重要と考え、担任のワークスペースは廊下の一郭に設けてある。

特別教室棟は、理科、図画・工作、家庭科、パソコンの4つの専用教室からなり、屋外を使用する
頻度の高い理科と図画・工作の教室を1階に配置し、オープンデッキにより屋外空間との連続性を持つ
プランとしている。体育館は、バスケットコート1面とステージがはいるボリュームを持ち、その他に
衣室、倉庫などを配している。コミュニティー・管理棟は、地域住民の文化活動スペース・集会所を
兼ねた音楽・視聴覚室を中心に、フレキシブルな大空間を持つ職員室、大人数での使用を考慮した
めの廊下などがある。


配置図
「断面計画」
敷地は、東から西にかけて最大6mほどの高低差があり、東大路沿いでは、擁壁によって3mほど
地盤を持ち上げている。前面道路からは1.5mのところで上がりきりが
あり南の池に向けて再び
下がっている。普通教室棟とグラウンドでは1mの高低差をもたせ、授業時の静粛性を狙っている。
グラウンドや校庭は周辺地域より高さを下げることで『目の行き届く空間』を作っており、
門や塀などは設けていない。普通教室棟は天井高を高めにとっており、天井の下にルーバー天井をはることで、深みのある空間を演出している。また、体育館では隣地への日陰を考慮し半地下の形態を
とっている。


体育館平面図
「立面計画」
普通教室棟・特別教室棟・コミュニティー・管理棟は木造軸組みの構造をとる。
全体的に、木造の持つ線の美しさを強調し、特徴的な構造をダイナミックに表現し、一般的な部分は
シンプルなカーテンウォールや大壁でまとめた。正面の大きな方杖は森の中の木立をイメージし、
『人は自然の中で生きている』という思いを、子供たちに認識して欲しいと思う。

体育館は梁天端までがRC造、その上に木造の立体トラスを組むハイブリッド構造とすることで、
木が持つ可能性を引き出している。
体育館断面詳細図
体育館立面図
普通教室棟平面図
体育館模型