耐力壁試験記 2006


2006年春、ようやくよしやまち町家校舎の作業場に長年の希望だった耐力壁水平加力試験機が完成した。木村棟梁、鈴木有先生、近畿大学の村上雅英先生の指導をいただき、町家研究室の面々でこれから土壁を中心とした耐力壁の実験をしていく。普段、町家の改修にあたって補強として整備している長ほぞ込み栓打ち土塗り壁が、実際のところ、どのくらいの耐力があるのか、自分たちで実験してみようというわけだ。
 すでに同様の実験は6年前によしやまち校舎の耐震補強を行う折に近畿大学にて実験を重ねてきたもので、今さらの感もあるが、やはり自分たちでつくって壊す実験は、いい経験になる。学生たちがこしらえた筋交いや板壁、土壁などの試験体を順番に試験をしてみた。

 試験風景 06/05/10 新一年生を迎えて

 自分たちで考えて、自分たちで試験体を作れるところが、ここの実験部のいいところ。ただ、土壁は重い。試験体を試験機に載せるのが、最もたいへんな作業。狭い実験スペースの中でやりくりしている内に、試験体には相当な外力が実験前にかかってしまう。試験体の搬送システムを工夫する必要がある。


  筋交いと板壁試験体のデータ

 最初の実験結果をまとめたグラフから。筋交いは筋交いプレートを止めているビスが徐々に抜けていくことで力を逃し、粘り強さをもたらしている。かなり、いい成績だが、壁倍率は2.5止まりで、法定の4倍に届いていない。落とし込み板壁は幅91cmの1P試験体では、板の間の滑りが見られず、強度はほぼ上下1,2枚の板の圧縮による粘りによるもの。最終的には変形につれて板が溝から外に面外座屈して破壊に至ることが確認された。


 ほとんどの計測機器を近畿大学村上研究室より借り、研究室の院生君に指導を受けて実験が始まった。かねてからの興味である落とし込み板壁と、比較のために、筋交いも試験している。実験は、まずは長ほぞ込み栓のままで行うが、予想通り、込み栓の変形を受けて、初期の剛性は小さく、そこそこで込み栓が破断する。そこから先は、ホールダウン金物を取り付けて、柱脚を固定したかたちで加力を続けると、その壁の最大耐力が得られる。板壁や筋交い壁を実験すると、いかにホールダウン金物や筋交いプレートといった金物が強く、丈夫であるかがわかる。
 もっとも、これは単純な実験のためで、実際には、この壁には重い建物の荷重がかかっており、フレームの変形に際して、柱の浮き上がりが抑えられているので、そんなに簡単に込み栓が折れることはないはずだ。一番いいのは、実際にかかっているのと同じ様な荷重を上からかけてやればいいのだが、実験にそれほど重い錘りをぶら下げることも難しい。簡単に砂袋を8袋載せて、200kgという荷重をかけて実験してみたりしたが、やはりすぐに込み栓が折れてしまう。少なくともこの倍くらいの荷重が最低必要なのだそうだ。ホールダウン金物を用いての実験では、せっかくの伝統的な仕口をつくっている意味がないので、やはり当初の構想通り、タイロッドで荷重をかけて浮き上がりを抑えた格好で実験をして行くのがよさそうだ。
今後の実験では、伝統的な土塗壁や落とし込み板壁、あるいは町家の改修に有効な補強方法を試して行きたい。 (さの)