ウィトルーウィウス建築書
De Architectura libri decem by Vitruvius

- ローマ時代、おそらく西暦紀元前30年前後にウィトルウィウス(Marcus Vitruvius Pollio; B.C.1c)によって書かれた世界初の建築の専門的理論書である<建築十書>(De architectura)は、当時、およびギリシア時代の<建築なるもの>がどのように考えられていたかを問い、あるいは<建築なるもの>の起源に遡り思惟するためには重要な書物であるだけではなく、現代においてもたびたび参照され、あるいは議論される一つの原典である。
しかしながら取り上げられる頻度に比してその内容に関する深みのある議論は一向に触れられないように想われる。その内容の広範さと深度にもかかわらず。
もちろんウィトルーウィウス建築書はヘレニズム期の所産であって、これがそのままギリシア建築やギリシア時代の建築理論を示しているわけではなく、また発見者といっていいアルベルティ(Leon Battista Alberti; 1404-72)に、この建築書は論理的でも体系的でもないと酷評されてはいるが、現存する唯一の古典建築論の文献であってギリシアの文献を資料として執筆されているといわれるがゆえに、いまだなおその価値は失われていないと考えられる。
そこでここにその<ウィトルーウィウス建築書>の内容の表題を、目次的に紹介することは、その内容の項目がいかなる領域の広がりをもっており、なぜその領域がとくに取り上げられているか、その意味を測るために有意義だと考える。各十書とその各章の項目を確認したら、実際に書籍に当たって内容を十分に吟味して頂けたらと想う。
引用は
東海選書 ウィトルーウィウス建築書 <普及版>;森田慶一訳注;東海大学出版会;1979/09/28
による。
また、ラテン語原文付き対訳本が、東海大学古典叢書のひとつとして、同じく森田慶一訳注;東海大学出版会;1969/03/20(初版)として出版されている。
第一書
:(建築の職分と諸技術の領域について、城市と城内の敷地の配分)
- 献辞;C. Julius Caesar Octavianus、その養父 Julius Caesar
第1章
- 建築家の知識;制作(実技=fabrica)と理論(ratiocinatio→比例の理)から成り立つ。
- 意味が与えられるもの(対象事物)、意味を与えるもの(学問の理に従って展開された解明)
- さまざまな知識の精通;文章の学、描画、幾何学、歴史、哲学者に聞く、音楽、医術、法律家の所論を知る、星学・天空理論
第2章
- 建築は、オールディナーティオー(Grk.タクシス)、ディスポシティオー(Grk.ディアテシス)、エウリュトミア、シュムメトリア、デコル、ディストリブーティオー(Grk.オイコノミア)から成り立つ。
- 上6項目の説明;cf.森田慶一『建築論』;「ウィトルウィウスの建築論」
第3章
- 建築の3部門;家を建てる術(aedificatio)、日時計を作る術(gnomoice)、機械を作る術(machinatio)
- 家を建てる術(aedificatio);
- 城壁を設け公用地に公共建物を設置すること;
・公共建築の3区分;防御的、宗教的、実用的
- 私人の家を建てること
・「強さ、用、美」の理;(ratio firmitatis utilitatis vennstatis)
第4章
- 土地における場所の選定;
- 「健康的」な場所の選択。方位(太陽)
- 寒暑;→熱と湿、地と気(人体も元素(Grk.ストイケイア);「熱と湿、地と気」から構成されている)
第5章
第6章
- 城内。風;天空域に合わせて大路小路の向きが定められる。
- 4つの風、8つの風;方位との結びつき。街路の方向→大路小路の割り付け
- 朝の風、アウラ→エウロス
第7章
- 公共の場所に対する敷地の選定。
- 神殿、フォルム(forum; 都市の中心広場)、ギュムナシウム(gymnasium; 体育館や競争路を備えた施設)、円形劇場、キルクス(circus; 細長形の競争路と観覧石を備えた施設)
・城外におかれるべき神殿。
第二書
:(材料の自然性;工事に用いられる方法、自然元素から組成されている特質)
第1章
- 家の作り方の起源、その発明は如何にして生まれたか。
- 人類は森、洞窟、茂みの中に生まれた。→火。言葉(会話)
- 火の発見→会合、集住。直立歩行。木の葉で屋根を葺く、洞窟→家。
- 人間は模倣的、学習的。家、家の作り方の→進歩。
- 居住地域による家、家の作り方の相違例;古代の建築法の発明。→シュムメトリアの理論へ。
第2章
- ターレス(Thales; B.C.7c初期)→水が万物の元素
- ヘラクレイトス(Herakleitos; B.C.500頃; =スコテイノス)→万物は流転する。
- デモクレイトス(Demokritos; B.C.400頃)→原子論。分割されない体(individuum corpus)
- エピクロス(Epikouros; B.C.300頃)→快楽説。
- ピュタゴラス→水、火、気、地
第3章
第4章
- 割石壁(caementicia structura =現在のコンクリート構造);材料、構法。砂資材。
第5章
- 石灰;壁体→structura = masonry
第6章
- 水硬性火山灰(pozzuolana);石灰、割石と混合する。
第7章
第8章
- 壁積みの種類;積み方。煉瓦積、網目積、乱石積。
- 実例;
第9章
- 木材;伐採時期、伐採方法。植樹。樹種による特質(四元素論による)、用途。
第10章
第三書
:(不死の神の聖なる殿堂の布置、様式、外観--イオニア式)
第1章
- 神殿;シュムメトリア→(Grk.)アナロギアといわれる比例から得られる。
- 人間の身体の比例関係→神殿の比例関係。へそを中心とする人体比例図形。
- 数;完全数(テレイオン)⇒ピュタゴラス→プラトン(10を完全数);(反対説は6を完全数とする)
第2章
- 神殿の原則;神殿の形式;イン・アンティス式、前柱式、両前柱式、周翼式、疑二重周翼式、二重周翼式、露天式。
- 平面の解説と実例;
第3章
- 神殿の5つの外観;密柱式、集柱式、隔柱式、疎柱式、正柱式
- 平面、柱間寸法、柱の比例関係の解説と実例;
- 正面の柱数;四柱式、六柱式、八柱式。
- エンタシス→最終巻
第4章
- 基礎。床面(ステュロバテース);むくり
- 柱;周翼式では正面長さ x2= 側面長さ(柱の数は1本少ない)
- 正面階段;段数は奇数→昇りはじめと聖所の頂面の第1歩が同じ足。蹴上、踏面。
第5章
- 柱礎、柱身、柱頭;シュムメトリア(比例関係)。
- ステュロバテースのむくりに応じた上方の肢体のむくり。上方の視線における補正。
- 正面のシュムメトリア(比例関係)、視線の補正、エンタシス。
第四書
:(様式、外観--ドーリス式、コリント式)
第1章
- 柱の種類について起源と発明;
- コリントゥス式柱;シュムメトリア(比例関係)→柱頭を除いてイオーニア式と同じシュムメトリア&柱頭が高くなる。
- 柱頭の置き換えにより2つの様式から第3の様式が生まれる。
- →ドーリス式;最も早く生まれる。男子の身体の比例と強さと美しさ=柱身下部直径の6倍が柱高さ(後世では7倍)。
- →イオーニア式;婦人の身体の比例と装飾。高さ=もと下部直径の8倍(後世では9倍となりイオーニア式となる)。巻毛の柱頭。
- →コリントゥス式;さらに細長いモデゥルス。少女の繊細さ。
アカンサス(アカントゥス; acanthus)の葉による柱頭装飾の最初の発明の伝説。
第2章
- 装飾について起源と発明;木造→石造で模倣。彩色。
- イオニア式、コリント式における慣例。
第3章
- ドーリス式における慣例;シュムメトリア(比例関係);柱、正面について、平面形式に関連して。
第4章
第5章
- 神殿の向き;神殿、ケッラ内の像の向きとも西天の方向。ギリシア時代は東向き(ローマ時代は不定であったらしい)。
第6章
- 神殿における入口、その額縁の割り付け;ドーリス式、イオーニア式、アッティカ式
第7章
- トゥスキア式配置;奥行→6等分。1/2がケッラ、1/2が柱空間;幅→10等分(3+4+3)
- トゥスキア式シュムメトリア;
第8章
- 円堂;単翼式(ケッラがない)、周翼式。
- 別種の配置を持つ神殿;パルテノン
- ケッラ壁面位置;メゾン・カレ
第9章
- 祭壇;東に面する(神像は西向き)。神像より低い位置。
第五書
:(公共建築の布置)
第1章
- フォルム(forum);→ギリシアのアゴラ(arora)
- バシリカ;
第2章
- 国庫(aerarium)、監獄、元老院議場;元老院議場の高さ⇒平面が正方形の場合→高さ=幅+1/2幅。長方形の場合→天井下迄の高さ=(長辺+短辺)/2
第3章
- 劇場;健康な場所、気流。
- 基礎。周回通路(praecinctio; 円形階段席と同心円)。出入り通路。声=空気の流れの気息≒波の輪。
第4章ハルモニケー(音楽理論)
- ギリシア音楽の3旋法;テトラコルドン(四音音階;両端音は4度音程)→2つの全音と1つの半音の音程幅。
- ハルモニア;ラ(全音+全音)ファ(4分音)+ミ(4分音)ミ;技巧的。荘重なすぐれた品格。
- クローマ;ラ(全音+半音)#ファ(半音)ファ(半音)ミ;技巧が繊細。抑揚が密。甘美な快さ。
- ディアノトン;ラ(全音)ソ(全音)ファ(半音)ミ;自然。音程の分別が容易。
- 音(Grk.プトンゴス);どの種類の旋法にも18音ある。うち8つは一定不動。残りの10は転調時に変動。→動くに連れて別の性質を獲得する。
- 5つのテトラコルドン。
- 人間の本性が調節できる6つの音の協和(Grk.シュムポーニア)
第5章
- 4章の理論に従い、劇場の大きさに比例した青銅の音を発する壷→劇場の座席の間の穴倉の中に据えられる→共鳴。
第6章
- 劇場の形;円に内接する4つの正三角形→天空12座。
- 等分に配置された三角形の1辺がスカエナ(scaena; 楽屋)との境になる。
- それと平行な円の中心線がプロースカエニウム(proscaenium; 高舞台になっている。ローマ劇の舞台)とオルケーストラ(orchestra; ローマでは高官の見物席にあてられた半円形の平場)との境。
- 正三角形の頂点が見物席の階段通路。周回通路の上階はその中間。
- 各部の高さ。シュムメトリア。
- ペリアクトイ(回転装置);3つの正三角形を回転させ、各面に描かれた絵で場面転換をする。
第7章
- ギリシア劇場;上記のラテン劇場とは別の手法で作るべき。
- 円に内接する3つの正方形。正方形の一辺がプロースカエニウムとの境になる。
- それに平行して円に接する線がフローンスカエナの境。
- ロゲイオン;ラテン劇場のプロースカエニムの高座にあたり、舞台。
- 正方形の頂点が周回通路までの階段通路。それ以上は周回通路がめぐるたびに中間に階段通路が増加。
第8章
- 声、音により場所の選定。Grk.カテークーンテス(不饗の地)、ペリエークーンテス(余饗の地)、アンテークーンテス(反響の地)、シュネーンクーンテス(協饗の地)
第9章
- スカエナの背後の柱廊(劇場外);にわか雨の退避場所、歌舞隊の準備場所。二層。
- 高さ、シュムメトリア。
- 柱廊間の中央の空間について。屋外、屋根なし。遊歩道となる。倉庫の付設。
第10章
- 浴場の配置;暑い場所。方位→北風、北東風に背を向ける。
- カルダーリウム(caldarium; 温湯浴槽のある浴室)、テピダーリウム(tepidarium; カルダーリウムより低温度の温浴室);床、天井。規模。
- ラコーニクム(laconicum)、スーダーティオー(sudatio, sudatorium);熱気浴室。
第11章
- パラエストラ(palaestra; 体育館)の建て方;平面。
- (gymnasion は、屋内施設をパラエストラと呼んだとき、屋外施設を含む総合施設だが、混同される。)
第12章
- 港;柱廊、造船所。突堤→水中コンクリート製の作り方。ドック→方位。
第六書
:(私人の住家のつくり方とシュムメトリア)
- 建築家;建築主が建築家を訪問すべき。建築家を公言している人々が真実技術によってではなく、間違って建築家と呼ばれている。
第1章
- 方位、配置;太陽の緯度、天空の違いと土地→方位の割り付け、方角づけ。
- 自然界から認知され観察されるべき。人種の肢体や体躯から検証されるべき。
- 北天、南天の相違→土地、人種。
- 音声;→ホリゾーン、天空の傾き。湿・乾それぞれの土地柄。
- 魂の力;南方と寒い地方。ローマは中間、世界の中心。
第2章
- シュムメトリアの割り付け、土地の性状、利用性、外貌。
- 視覚;手近な所と高い所は別に見える。閉じられた所と開けた所では違って見える。水中の屈折。⇒場所の性状、実際の必要に応じて加減が行なわれるべき。
- シュムメトリアの割出し→前述の加減を行なう→建物が建つ場所の底面の長さと幅の地取り(大きさの決定)→デコルに適った比例がエウリュトミア的外観を備えて用意される。
第3章
- カウム-アエディウム(caum aedium=cavaedium);ローマ住宅の接客用一郭にある天窓を持つ中央広間。アトリウム(atrium)のこと。
- 5形式に分類;トゥスキア式、コリントゥス式、四柱式、分流式、ヴォールト式。
- アートリウムの幅、長さ;3種類
- 長さが5部分に分割、その3部分が幅。
- 長さが3部分に分割、その2部分が幅。
- 幅の対角線長が長さ。
- アートリウムの高さ;梁下=幅×3/4
- アーラ(ala; 亜トリウム横の翼室)、タブリーヌム(tablinum, tab(u)larium; アトリウムの奥正面にある広く開放的な主室)、ファウケース(fauces; アトリウムからペリステュリウムに至る間の室)、ペリステューリウム(peristylium; 中庭に面して柱列をめぐらした廊)、食堂などのシュムメトリア。
第4章
- 各種の室の用途に応じた天空の方角、向き→太陽の位置。
第5章
- 家長専用の場所。他の人びとと共用の場所。
- 厩、小屋、穴倉、倉庫、貯蔵庫など。デコル。
第6章
- 田舎の家(これまでは都市住宅について述べた);
- 衛生;城市と同じ。
- 規模、外部空地、諸室などの配置法、採光。
第7章
- ギリシア人の家;平面。アトリウムは使わない。→通路。
第8章
- 家の強さ;基礎。
- 素人と建築家の違い;素人は出来上がったものを見てはじめて知りうる。
第七書
:(仕上に関して)
- この書は他人の文章の寄せ集めでも、批判を目的としてものでもない。ギリシアの先人たちの紹介。
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
第8章
第9章
第10章
第11章
- カエルレウム(caeruleum)=空色顔料、青色顔料;暗赤色。
第12章
第13章
第14章
第八書
:(水について)
第1章
第2章
第3章
- 温泉、冷泉;実例。水質、特徴、効用。味→酒。混ざりもの。
第4章
第5章
第6章
- 水道;3種類→溝、鉛管、陶管→その長所短所。貯水池、貯水塔、山越え。
第九書
:(日時計)
- 建築(著述)家の地位;スポーツ選手(人のためにならない)の得る栄誉に比して低い
- 例;プラトン→面積の2倍の作図法、ピュタゴラス→直角の作図法と面積、アルキメデス→比重、アルキュータスとエラトステネス→立方体積、デモクリトス→「自然界について」、エンニウス→詩、キケロ→雄弁術、ウァッロー→ラテン語文法
第1章
- 土地によって日時計の針の影は異なる。
- 12星座、太陽、月。(内・外)惑星の運行。
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
- 占星術→カルダイア人(中心都市はバビュロン)の説。
- 星学→ギリシア自然科学;ターレス、アナクサゴラス、ピュタゴラス、クセノパネス、デモクリトゥス;理法
- →エウドクスス、エウクテーモーン、カッリップス、メトー、ピリップス、ヒッパルクス、アラートゥス
第7章
- 春秋分時(昼夜平分時)の日時計の針の影の長さ→土地によって違う。
- アナレームマの図形;→日時計の作図
第8章
第十書
:(機械の原理)
第1章
- 回転力(キュクリケー・キネシス);
- 1)櫓(アクロバティコン)、2)気器(プネウマティコン)、3)引曳器(バルールコス)
- メーカネー(器械)→多人数で使用;オルガノン(道具)→1人で使用
- 自然法則によって生み出される。
- 竿秤、天秤。
第2章
- 神殿、公共建物の建設のために準備されるもの;
- 荷揚げ器械;滑車→三車式、五車式。
- 石材運搬法→車輪
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
第8章
第9章
第10章
- 蠍形弩砲、軽弩砲、重弩砲
- 軽弩砲の割り付け、シュムメトリア
第11章
第12章
第13章
第14章
第15章
第16章
- 防備戦略においては器械を準備することよりも、時には計略が準備される。
推奨参考文献:
- 森田慶一建築論集;森田慶一;京大建築会編;彰国社;1958;(非売品)
- 建築論;森田慶一;東海大学出版会;1978/02/22
- ギリシアにおける建築的秩序原理の研究;元良勲;1955
- 増田友也著作集 第5巻;「仮題 建築とは何か」;ナカニシヤ出版;1999/03/01;
増田建築研究所
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