ブータンのノンフォーマル教育〜「開発」と自立の狭間で(仮)

プレレジュメ 19991129 吉田まさずみ

                     問題設定・視点

   グローバリゼーションとナショナリズム/エスニシティの相克・交渉の側面から〜ブータンの(ノンフォーマル)教育を、双方の次元から位置付けてみる(ブータンの「特殊性」と「普遍性」、二分割するにとどまるのではなく)

   「開発」と近代化〜「『開発』なき近代化」?(G.J.Papagianis)、反開発論・「市民社会」論をめぐる状況・議論が一巡した後でなお「開発」について何が語り得るか(古谷「すばらしき開発の言説」)、(「西洋民主主義」型モデルの反復?…)

   自立・「自己決定」と「草の根・参加型」社会〜従属論(・世界システム論)の「失敗」を越えた抵抗の「主体」はどこにあるのか(崎山「第四の局面」)、「国民国家」の枠組み(とそこへの動員)ではない民衆「参加」による開発は構想しうるか

   「開発」とエスニシティ・ジェンダー〜「開発と文化」を(普遍的)教育システムの個別の(エスニック・ジェンダーの)「文化」への一方的浸透(と抵抗)からではなく、多文化主義・エンパワメントの側から再定義(山内「開発主義と文化」、フリードマン・ヴェルヘルストらの議論、「内発的発展論」…)、グローバリゼーションとジェンダー(WIDとGAD、ミース・ヴェールホフとサッセンの「第三局面」)

                     ブータン教育の概括とノンフォーマル教育の位置

   統計上の基本的な教育の情報(主にデータは"Bhutan :Toward a Grass-root participatory policy"から1998年のデータ、因みにブータンの人口は約60万人)〜(成人)識字率は公式データでは1984年で28%、1995年で進学率・学校数・識字クラスなど46%、1998年には54%とされる。全生徒・学生数は100198人(1998年、1985年には51835人)、うち54クラス・1842人(1998年6月現在、別データでは1999年6月には73クラス2602人、これにポストリテラシークラスを含めると88クラス2922人)、就学率は72%(1998年発表、1985年のデータで24%という数字も)、教育システムは6・4・2・3制で、第10学年(クラス])の進級試験がある、学校数は高校HS18・中学JHS44・小学校PS(コミュニティスクールを含む)243・私立学校7・カレッジ1(タシガン県カンルンのシャラプツェ大学)・その他の高等教育(非カレッジ)9(仏教・絵画・彫刻・盲学校・教員養成TTC・教員研修所・商業研修所・工芸・技術訓練校・サンスクリット学校)※「仏教関係や美術関係の学校を除いて男女共学。初等教育を含むすべてが義務教育ではない。授業料、教科書、文具、宿舎、制服、交通費、スポーツ用品、医療費などは全額国費でまかなわれている。優秀な学生の外国留学も同様である。”教育は無償”という政策にも関わらず、修学率は高いといえない。それには、さまざまな理由があるが、そのひとつに、各学校の受持ち範囲が広すぎ、生徒が通いきれない(寄宿舎があるが)ということがある。また、移動生活の遊牧の民もいるなどの理由により、すべての児童を修学させることが困難で、義務教育とはなっていないのが現状である。…なお、ブータンの子供達(たとえば未就学児でも)の労働は、家庭の手伝い程度である。一部の国にみられるような、子どもの収入が家計を支えていたり、といった現象はブータンにはない。」(『はじめて知るブータン』(1991)から)、「…当初はヒンディー語が主であったが、国際化という見地からこれは英語に置き換えられた。しかし現在でもインド人教員の数は多く、何よりもインドの教科書をそのまま用いている学科もある。ブータン人教員そのものが絶対的に不足しており、教科書の編纂・印刷といった仕事は一朝一夕にできるものではなく、この分野でのブータンの自立にはまだ長い道のりが予想される。現在のカリキュラムでは国語であるゾンカ語およびゾンカ語で教える教科が圧倒的に少なく、むしろ”外国語”扱いといっても過言ではない。…普通教育が急速に普及し就学率が急速に高まったことは、一方で農民にとっては深刻な労働力不足という問題となっている。小中学校就学年齢の子どもは、今まで農村では貴重な働き手として家計を助けてきた。その大半が学校に通うようになって、農村にとっては大切な人手をなくすことになった。」(『ブータン・変貌するヒマラヤの仏教王国』1994)

                     一次資料(抄訳)

1)「ノンフォーマル教育(NFE)プログラムに関する政策指針・方針案」

   経緯〜1992年ブータン女性協会(WAB)によって開始、1992年〜1993年はゾンカ語開発委員会(DDC)によって運営、1994年以降(教育厚生省)教育局の単独責任に移行、1996年3月までは学校監察部局に併置。NFEの強化・拡大の要求によって1996年3月に教育局の独立部署が設置。ブータンのNFEの概念は学習者に就業機会を準備するためではなく、学校から遠隔地の村や学校外青年、学校へ通う機会のなかった人々などをターゲットとしている。さらにそれは人々により技術を身につけ経済的向上のための開発活動を知ることも目的としている。

   目的〜@ゾンカ語での機能的・スキルベースのリテラシーのトレーニングをフォーマルな教育システムでそれを受けなかった人々に供給する。基礎リテラシーコースの修了までに、aクエンセル(新聞)・警告・広告・簡単な手紙を読んで理解し、b簡単な手紙と家計・日記を書き、c掲示やラベルを読み、d健康・衛生・人口教育・農業・森林・環境保全など生活スキルの概念を明確に理解・表現し、e伝統的文化・価値の重要性を学び、f人々により技術と知識を身につけ経済的向上にための開発活動を熟知する、ことができるようにする。A国語としてのゾンカ語を促進する。Bブータンの識字率の上昇。Cポストリテラシーと継続教育のプログラムを供給する。

   NFEセクション・ゾンカック(県)行政の役割〜NFE部局は政策(施策)立案・プログラム作成・カリキュラムや教材の作成・教員の養成など。ゾンカック行政は全国的な製作をもとにNFEプログラムを実行・予算計画やNFEセンターの設置・指導員のリクルートなどの推進・教員や施設への財政的措置・評価など。

   NFEセンターについて〜NFEプログラムを実行し、地域での調査・報告・教材開発・評価などをおこなう役割を持つ。新しいNFEセンターの設置は地域での学習者のニーズ・関心にそって設立される。(設立の手順としては、1プログラムの責任者であるガップ(郡の長)のもとに学校長・長老(ツォグパ)からなるNFE地区委員会を形成し、2同委員会が学習者の関心を調査し教師・指導員や建物を特定して地区教育官(DEO)に登録し、3この提案がDEOによって修正されダショー・ゾンダ(県知事)に登録され、4知事の承認と推薦ののちDEOが教育局に最終承認のための提案を提出し、5最終的な教育局での修正を受けた上で、6NFE部局が承認・不承認を伝える文書を発行する、となっている)

   基礎リテラシーコースのカリキュラム〜基礎リテラシーコースの期間は6〜12ヶ月。この期間、入門用の30単位からなる3レベルが修了される(テキストを参照)。このテキストの内容は健康・衛生・家族計画・農業・営林・環境・文化と伝統・基礎的数学について。修了時に学習者は読み書きだけでなく簡単な基礎的数学を実行しと様々な生活スキルについての知識を得ることができる。

   地方NFE委員会の設立・編成〜運営システムの強化とNFEプログラムの継続的努力として、DEOのNFE地区委員会設立の推薦はNFEに関する第6回全国運営委員会で議論・承認された。適切なステップとして教育局はDEOと学校長に新旧のNFEセンターとしてコミュニティにNFE地区委員会を紹介し形成することをうながす。もしいずれかのコミュニティが新しいNFEセンターの設立の要請に関心があれば、まずなすべきことはプログラムの責任者であるガップ(郡の長)のもとに学校長・長老(ツォグパ)からなるNFE地区委員会を形成することである。各NFEセンターには、次のような役割と責任を持ったNFE地区委員会がなくてはならない。[ニーズの調査と特定、アドヴォカシーと動機付け、行動規則(code of conduct)の作成、後方支援(設備の準備・補給、県の連絡地点からセンターまでの教材の運搬、講師の宿舎の確保など)、モニタリングと評価、報告と調整]

   NFEセンターの役割(省略)〜指導員の任命(第8クラス修了者か元教員からゾンカック(県)が任命)、都市NFEセンターと地方NFEセンター(学校と併設可能か)、NFEセンターの親学校(併設でない場合もっとも近い学校を親学校として文房具など支援)、NFEプログラムのアカウンタビリティ、DEOによるNFEプログラムについての季刊レポートの具申

   ポストリテラシー・コース(PLC)の役割〜a)基礎リテラシー・スキルの定着(基礎リテラシーコースを終えた識字者がスキルを保持できる保証がないという問題を解決するため、当該グループの関心に沿った教材によってポストリテラシーのスキルを認知的かつ効果的に基礎リテラシーを定着させる)、b)生涯学習の機会をつくる(ポストリテラシーは自主的学習への掛け橋であり、それは生涯学習者であることを理解することであり、ポストリテラシー・プログラム(PLP)は読むの習慣と同時に書き計算するスキルを増進する。それは生涯を通じて学習に参加する機会を保証する解放的な力である)、c)技術(テクノロジー)と職業的スキルをあたえる(PLPは不利益を受けているグループに必要な技術を伝え労働力の生産的で活発な成員へと変化させる、適切に設計された読み・計算の教材は最も遠隔地の人々にさえ必要な技術を伝え得る。自主的学習に必要な読み書き計算の高度なスキルは従業員として有能であるために必要な機能的な知識と連携して開発される)、e)生活の質の向上への希望を動機付け鼓舞する(ドロップアウトした人、不利益を受けているグループと低所得者は絶望感をもっているがこの人々に未来は開けている、その人々の子どもたちは社会で有意義な場所をもっている可能性が少なく、生活向上の動機付けと意志もゼロではないにせよ極めて少なく、こうしたグループには興味深く創造的なポストリテラシー教材は刺激として働く、創造的につくられた教材は旺盛なパイオニア精神を注ぎこみ、絶望感と疎外感を克服できる、そうした人々にみなそれぞれが無限の潜在性を持ち人生でベストをうることができることを認識させることはそうした人々になそうとするどんな分野でも向上するよう動機付ける、これはPLPが教育的活動だから可能であり、それは生活への態度や行為に変化をおこす効果的なツールである、ポストリテラシーはターゲットのグループの力を育て発展させ強化し刺激する)、f)教育を通じて幸福な生活(人生)を育む(開発の究極の目標はすべての市民の生活の質を向上することである、この目標のために政府と市民の共同の努力を必要とする、すべての人はこの発展の過程において積極的であるべきである)〜消費・環境・健康・余暇についてのPLPは幸福な生活のためである。ポストリテラシーのプログラムへの参加は精神を鋭くし参加者にあらゆる機会へ注視させる。市民は変化する環境に反応しやすく敏感になる。

   組織化と実施の方法〜a)ターゲットグループ(PLPは学習者の多様な関心とニーズを満たす。プログラムは基礎リテラシーコースを終了した新識字者だけに限らず参加し学習しようとする誰にでもアクセスできるようにする。ポストリテラシーはたとえばゴムチェン(「半僧半俗」の人)、僧侶、識字者の農民、ビジネス、中途退学者など様々な人々に開かれる。したがってPLPは基礎リテラシーコースと異なり多くの学習者をひきつけるべきである)、b)場所(基礎リテラシークラスと同様学校の施設や教材を共用する。…コミュニティ学習センター(CLC)があるコミュニティではポストリテラシークラスはCLCで行われる。学校からもCLCからも遠いコミュニティではNFE地区委員会は資源・施設を動員して適切な場所を提供する)、c)クラスの時間と頻度(学習者と相談のうえクラスの時間と頻度はNFE地区委員会によって決められる。クラスは毎日開かれる必要はなく、隔日・週二・三日で二時間行われる。時間は(学校教師が参加できるよう)学校後の午後の適切な時間に決められる。学習者が家に本を持って帰って読んだりセンターに残って学習することもできる)、d)PLPの運営(教材は中央レベルで開発・発行されDEOを通じてセンターに提供され、備品などは教育局から提供される。DEOは指導員・教員への給与の財政的措置を講じガイダンスと支援を行う。

   カリキュラム〜PLCのカリキュラムは機能的リテラシー、算数、ヘルスケア、農業、牧畜、環境、テクニカルコース、価値教育value educationなど広い領域をカバーする三つのパッケージでできている。期間はそれぞれ6ヶ月・全部で18ヶ月である。パッケージは順序どうりでなく学習者は関心のあるところからはじめることができる。

パッケージT(6ヶ月):機能的識字(手紙を書く、記録をつける)、ヘルスケア(リプロダクティブ・ヘルス、避妊)、価値教育(健康と宗教、社会・文化的価値)

パッケージU(6ヶ月):機能的識字(書類とレシート、仕事の日々の計画、お祈り)、農業(肥料、菜園)、芸術・工芸(編物・織物、竹・籐細工・木工)、価値教育(道徳的価値)

パッケージV(6ヶ月):牧畜(家畜飼育、養鶏、獣医サービス)、テクニカルコース(電気、家庭用技術)、機能的識字(創作、ノート・レポート作成)、環境(環境保護、汚染抑制)

2)「1998年6月〜199年6月のノンフォーマル教育のプログラムと活動」

1.    センター・学習者数・教員数の変化

  BLC数 PLC数 BLC学習者 PLC学習者
1998年6月 54 1834 48
1999年6月 73 15 2602 320
増加数 19 13 768 272

◆指導員・教師数:1998年6月58人→1999年6月93人

2.    教材開発ワークショップ〜1998年12月28日〜1999年1月9日、Gyelpozhing高校(モンガル)、17県から指導員・教員ら40名が参加、目的はNFE教員・指導員の教育スキル向上とPLP用の教材開発

3.    中部・東部でのDEO・学校長のワークショップ〜ユネスコ・ESCAPの財政支援のもとWangduechholing中学校(中部・ブムタン、1999年6月)、Wamron中学校(東部・タシガン、1998年10月)。目的は地方レベルでのNFEプログラムの効率的実施に影響する運営上の問題の克服(中心人物のトレーニング、経験交流と刷新、NFE維持拡張のための戦略)。合計でDEO11名・学校長37名・国際オフィサー(中部のみ)11名、計59名。

4.    ポストリテラシー教材の作成と配布〜この期間で、ユネスコとユニセフの財政支援のもと次のポストリテラシー教材が発行された。a)収入増加のためのきのこ栽培、b)収穫増加のためのコンポストによる土質改良、c)ワークブックA、d)ワークブックB、e)Tsideb Dangpa 、f) Tsideb Nyipa、g)お祈りの本。またa)養鶏、b)接木、c)菜園、d)価値教育

5.    NFEセンターへの設備供給〜ユニセフのプロジェクトから、机・椅子、スチール棚、solar lantern

6.    地域学習センターとポストリテラシーセンターへの設備提供〜UNFPAのプロジェクトから、ホワイトボード・フリップチャートスタンド・掲示板・ホワイトボード用ペン・発電機・ソニー29型テレビ・VCR・スライド映写機・OHP

7.    地域学習センター(CLC)の設立、リテラシー資料センターの設立〜第6回全国運営委員会の承認にしたがって、ユネスコの財政支援のもと1998年の初めからパイロット・ベースで二つのコミュニティ学習センター(CLC)の建設がはじまった(ルンツェ・ゾンのDomkhar村のCLCは1998年12月に完成、PanbangのCLCは6月完成予定)。CLCの設立はNFEプログラムの実施にとってだけではなく会議場・集会所や職業技術訓練にも有用である。

8.    リテラシー資料センター(LRC)の設立〜ブータンはユネスコのACCU(アジア太平洋文化センター)の1999年〜2000年にLRC設立のメンバー国のひとつになった。LRC設立提案は1999年6月東京で予定されている計画会議で完成する。LRCで実行される主要な役割はプロジェクトを刷新しリテラシープログラムを促進する戦略を開始すること、すなわちリテラシー教材を開発し、トレーニングを行ない、情報センターを準備し、国内外のネットワークを設立することである。

9.    NFE評価・調査〜学習者・コミュニティ全般へのNFEプログラムの影響を調査するため昨年6月からNFE調査が実施されている(第]学年の生徒が調査に協力)。14県(ゾンカック)の調査が終了しパロ・ハ・ティンプーで調査中である。データの集計と評価の分析は6月に実施され8月には報告される予定である。

10.              国外でのワークショップ・セミナー・スタディツアー〜識字者の視察(中国・ラオス・ベトナム、1998年11〜12月、NFE一名・DEO二名、ユネスコ/PROAP?提供)、CLC設立計画会議(ダッカ)、1998年9月、NFE・DEO各一名)、南アジアにおける非識字者への基礎リテラシー教材の開発に関する地域ワークショップ(テヘラン、1998年10月、JHS教員2名、ACCU提供)、アジア太平洋地域における農村部の継続教育教材の準備についての地域会議(ウボン・ラチャタニ(タイ)、1998年11月、PS教員一名、ACCU提供)

11.              UNFPAのプロジェクトの下でのリプロダクティブ・ヘルス・プログラムのスタディツアーへの派遣〜UNFPAのプロジェクトのもとNFE部局はスタディツアーの計画を作成し1998年8月に同事務所に提出した(未だ返答なし)。

   3)ソナムさん(ユースセンター)へのインタビューから〜NFE設立について(GYT・DYTの手順・地区委員会の設立…)、指導員の確保について(ゾンカ語ができる地域の有識者や学校教員に手当を払って、2〜3週間の訓練はおこなうが方法確立はしていない・不足、質のよい人材の不足・若いと尊敬されない…、ゴムチェンや元教員など)、開催時期・時間の問題(冬季の農閑期・夕方以降でなければ労働の厳しさによってドロップアウトが多いので参加者にあわせた工夫が必要)、地方での困難(学校を基盤にすることができないので黒板・照明などが少ない、学校との協力)、ポストリテラシー・クラスの内容、家族の反応について(反対するというより、家族・コミュニティ・社会によって(NFEが)それほど価値のないものと考えたり自分には不可能と悲観的になることが多い)、学力差の問題(学習者によって学習の早さには差があり遅い人もいるが、より優秀な生徒にのみ注目するのではなく全体に気を配りジャンプしない、進級試験などはない)、ゾンカ語が母語でない人々の場合(抵抗はない、シャチョップ(東部・人口多い)などでかえって「書き文字」の習熟が早い場合も)、設立の経緯(WABとDDCから教育局へ…)、

★評価について

1)B.S.Gupta "Bhutan :Towards a Grass-root Participatory Policy"から

   4章「政治経済」〜第8次五か年計画のもとでの人的資源開発マスタープランについて、ノンフォーマル教育と女性の位置付け(pp80〜84):「第八次五ヵ年計画では『基礎教育への完全なアクセスと、男女間格差の縮小を強調したフォーマルな学校教育と同等の学習水準をもったノンフォーマル教育を通じた小学校年齢の子ども(学童)の少なくとも80%の初等教育の達成』を見込んでいる。学校へ通う子どもの数は顕著な増加を見せている(数値略)。世界銀行・スイス開発機関(SDC)・ユニセフの協力で1988年〜1997年の初等教育プロジェクトが総計1360万ドルの資金で1988年に開始された。…第八次五ヵ年計画は1997〜2002年の五年間の人的資源開発マスタープランを含んでいる。これは官民双方でのブータンの人的資源開発・訓練の枠組みを示した包括的な文書である。農業・工業分野での行政に従事するブータン内外の人材と、天然資源の保護・インフラの開発と運営・マスコミュニケーション・データ処理・統計の民間での人材のトレーニングを提供する。…成人のリテラシーのためのノンフォーマル教育は、第七次計画(1992〜1996)のもとパイロットプロジェクトとして紹介されたが、第八次計画で拡大される。1996年までには約4000人の人々がこのプログラムを利用しており、その多数は女性である。初等教育でも男子女子の比率は急速に平等化してきている。現代の開発において、ジェンダーの要素は先鋭的な課題sharp edgeとされてきた。健全な政治経済は男性と同等の地位と機会が女性に与えられなくてはならない。ブータン政府は国の開発事業の最前線に女性を位置付けてきた。ここでは他の南アジア社会と異なり仏教の文化的伝統が役立つとわかってきた。第八次計画では、『ブータン女性は人口の48%を占め発展において大きな役割をもつ。彼女たちは農民、企業家entrepreneur、意志決定者、医者、エンジニア、主婦として経済的・政治的・社会的なすべての領域で活発に参加する。ブータン女性は法のもとでは男性と同等の地位と同じレベルの自由をもってジェンダーによる差別を受けない。実際、支配的な相続法では特に女性に有利であり、所帯主の大半は女性である。女性たちのZomdus(コミュニティの会合)のような意志決定の場への参加は、草の根レベルでは70%にものぼる。県・郡の開発委員会のような意志決定の場での女性の参加も活発に促進され増加している。政府など高い位置でも、まだ適切に代表されているとはいえないが、両性に開かれており、政府の上層での女性の配置は引き続き促進される。…』…全国ブータン女性協会(NWAB)とブータン開発財政公社(BDFC)は女性が政治経済でより大きい場を占めることを促進している。小学校での女生徒の割合は43%で南アジアでもっとも高い国のひとつである。リテラシーだけでなく開発関連の問題について活発な関心を持つ女性が70%いることがわかった。…」(→Upreti「にもかかわらず、理想や期待と現実や実践には極めて大きな違いがある。女性はすべての局面で差別に直面している。貧困と非識字がこの重荷を増している。…実際にはブータンは男性が支配的な社会であり、様々な形で差別をこうむっているのである。」)

   第8章「参加型草の根民主主義をつくる」〜地域開発の構造(GYT/DYT)、「参加型政府」、開発の挑戦、(発達した民主主義の分析・選挙と人権・ヨーロッパの政治発展・帝国主義資本主義における矛盾・民主主義の理論と実践…)

   ※(参考)地方行政について(今枝『ブータン・変貌するヒマラヤの仏教王国』から)〜「…こうしてみると、国のサイズが小さいからであろうが、ブータンは非常に中央集権化されたコンパクトな国家であることがわかる。ところが、各地方の実情に即し、需要に応じた開発計画・事業を進めるためには、中央政府と地方住民との密接な協議が必要である。それゆえ、地方住民が開発計画とか政策の決定過程に積極的に参加・関与できるように、全国的に二つのレベルで設置された地方機関がある。ひとつはゾンカック(県)レベルでの県開発委員会(DYT)で、もうひとつはさらに下の、ゲオ(郡)レベルの郡開発委員会(GYT)である。前者は1976年から1981年の間に徐々に、さらに後者は1991年に全国196のゲオに一斉に設置されたものである。中央政府の行政機構がほぼ整備され、現在の主力が地方行政の充実、県・郡レベル、草の根レベルでの開発計画・事業への国民の参加といった方面に移っていることがよくわかる。ゲオ開発委員会(ゲオ・ヤルゲ・ツォクチュン)は、ゲオ内の村から選出される村長とか村の長老15名ほどで構成され、ガップがその委員長を務める。三ヶ月に一度会合を持ち、そのゲオでの開発等について話し合い、要望とか問題点を県開発委員会に計る。全国平均で一ゲオの人口は約3000人であるから、200人に一人が委員を選出していることになる。政府の意図するところは、こうして一般民衆の意見・要望ができるだけ直接国の開発計画に反映されるようにし、一般民衆の意見・要望ができるだけ直接国の開発計画に反映されるようにし、一般民衆の国政に対する参加意識を高めることにある。…」(補足:「GYTは社会・政治・宗教・文化・国の主権と安全といった広い問題を扱う。…小学校長・農業拡張官・厚生官・畜産官はGYTのオブザーバーである。全国レベルでも国家National Assembly議員もこのブロック(ゲオ)から選ばれる。…過去二十年間、1961年に始まった五ヵ年計画によって地方民選官の重要性と責任は(ガップや中央のそれと比べ)増大している。…」(第三章)「実際、DYTとGYTは国会より重要である。開発意志決定は国王と民衆がともに決める。これがブータンの参加型社会建設のスタイルの核なのである。国王はいわば触媒の役割を演じる。…国王はしばしば王族とともにDYTを訪問する。この会議でGYTのメンバーは直接コミュニケーションをとるよう招待される。」(第8章))

2)Ramakant & R.C.Misra "Bhutan :Society and polity"から

   「ブータン女性の地位」(S.Upreti)〜「女性と教育」(pp53―54):「…女性の識字率の低さが収入増かプログラムへの参加とともに健康や衛生の問題の重要性を伝えるプロセスを妨げている。ユネスコのレポートはブータンにおけるそのような現象を『開発途上社会の苦悩、伝統社会の文化的規範、教育システムの不足』と結び付けている。学校と女性教師の不足、過密で貧しい教室施設、未熟練な教師、交通手段の不足によって学校へ行けないこと、制服と厳しい学校行事とカリキュラムのジェンダーバイアスといったものが、女性の教育を取り囲む障壁である。状況は『貧困の女性化feminization』、すなわち女性がより多く食べられず、早く学校をやめ、多く学べず、収入が少なく、早く結婚し家族の貧困の影響をより強く受ける、といったことによってさらに深刻化している。…女性のリテラシープログラムの重要性が認識されてきている。このプログラムは教育を奪われてきた女性に便宜を図ろうとするものである。「地方分権化decentralization」政策は人々の参加を促進し新しい学校のインフラを整備するだろう。県(ゾンカック)での初等教育の10年を達成して、教育局は2000年までにすべての子どもへの初等教育への道へと踏み出したが、これは女性を様々な面で助けるであろう。」

   同「女性の開発への参加を確保する政策」(pp58−59):「ブータン政府は女性の社会での不平等な位置と社会的経済的政治的位置機会の不公平な配分に次第に関心を寄せはじめている。政府は女性の生活の質を大きく向上させるであろう開発戦略とプログラムに懸命に努力している。第53回国会は1981年4月9日、全ブータン女性協会(NWAB)を設立する決議を可決した。NWABははじめ非政府組織として設立され、1985年から1991年まで省外部局?として機能し、1991年からNGOの地位に戻った。NWABは女性が直面し適切な解決を示唆する問題を識別することでブータン全体の女性の社会―経済的状況の改善への施策を実行する。NWABの活動の大半は首都と各ゾンカックの両方の女性協会のボランタリーなメンバー(全体で407人)が実行し、事務所のスタッフが政府部局とゾンカック、各女性協会を結びつける活動を行なう。NWABは女性が関連するプログラムやプロジェクトに参加することを保証するよう政府部局と密接に協力してはたらく。たとえばリーダーシップ・トレーニング・プログラムは"Facts for Life"のブックレットの作成を通じた健康・衛生の促進と開発における女性の潜在的役割の意識の向上のために着手された。トレーニングを受けた女性は他の女性をトレーニングする。このプログラムは全国的な開発の主流に女性が参加するのに効果がある。第7次五ヵ年計画で、政府とNWABは開発プロセスへの女性の参加を促進しつづけ、進歩の利益を平等に受け取ることを保証するとした。NWABが女性の利益を促進する主要な役割を担いつつ、すべての政府省庁・部局がその目的のひとつに女性の参加を含めることになった。これによって経済のすべてのセクターでの女性の参加が保証される。次のような戦略が政府部局によって実行される。a女性は健康・教育サービスの供給の主要なターゲットグループのひとつになる、なぜなら彼女たちの就学率が低く女性の健康がより危険な状況にあるからである。成人教育は女性の識字率向上をターゲットとし健康と衛生の向上を容易にする。…」

   「ブータン:30年間の計画開発」(Dasho Yeshey Zimba)〜U第7次五ヵ年計画と目的(pp173―175)「第7次五ヵ年計画は過去三十年間の開発計画を振り返り、なされてきた成果を強固なものにすることを目指している。資源は現存するインフラ、とりわけ社会サービスの改善と(国家)収入増加のための工業と水力発電への投資に向けられる。2268万Nuの予算をかけた七ヵ年計画の主要な目的は次のものである。1国際的資源動員を強調した自立、2環境保全を強調したサステナビリティ(持続可能性)、3民間セクター開発、4分権化と人々の参加、5人的資源開発、6すべてのゾンカックのバランスのとれた発展、7国家安全保障。…[分権化と人々の参加]シグメ・シンゲ・ワンチュク国王のイニシアティブで、政府は行政と計画の分権化のプロセスに乗り出した。1981年の第五次計画から計画が自らのニーズと能力を反映するように草の根レベルで人々が計画と意志決定に活発にに参加するようになってきた。これは県開発委員会の設立によって開始され郡開発委員会の設立で加速された。」

   同W計画と地方分権化のプロセス(pp182−184)DYTとGYT…(略)

3)その他

   H.N.Misra "Bhutan: problems and policies"〜教育の統計資料(古い)

   R.S.Kharat "Bhutan in SAARC"〜地域開発・開発と女性(補足)

   P.P.Karan "Bhutan :Environment,culture and development strategy"〜開発戦略(補足)

   今枝由郎『ブータン・変貌するヒマラヤの仏教王国』・山本けいこ『はじめて知るブータン』〜教育全般についての論述

                     「開発と文化」(「開発」と自立)を考えるために

   J.C.Bock & G.J.Papagiannis "Nonformal Education and National Development"

   「識字」について〜小沢有作『識字を通じて人々はつながる』(とくに第三章)、菊池久一『〈識字〉の構造』(第一章)、永田佳之「発展途上国における識字教育に関する一考察:内発的発展論の視座に立って」、矢野泉「多文化教育としての識字」、森実「リテラシー研究の動向と課題」、笹川孝一「『識字』における国際協力の動向と課題」、など

   岩波「講座・開発と文化」から〜T恒川惠一「従属・開発・権力」、山内昌之「開発主義と文化」、V小田亮「発達段階論という物語」、綿貫礼子「脱開発に向かうひとつの思想」

   NGO・開発教育〜T.ヴェルヘルスト『文化・開発・NGO』、J.フリードマン『市民・政府・NGO』(エンパワーメント)、「女性と開発教育」、開発教育推進セミナー『新しい開発教育の進め方』、国際協力推進協会『開発教育ガイドブック』など

                     今後の研究の深化に向けて(課題)

                     主要参考文献(単行本のみ)

・青木保ほか編集委員1998『岩波講座文化人類学12 思想化される周辺世界』

   J.C.Bock,G.J.Papagiannis 1983 "Nonformal education and national development"

   J.フリードマン1992/訳1995『市民・政府・NGO:「力の剥奪」からエンパワーメントへ』

   P.P.Karan 1990 "Bhutan :Environment ,culture and development strategy"

   R.S.Kharat 1999”Bhutan in SAARC: Role of a small state in a regional alliance"

   今枝由郎1994『ブータン・変貌するヒマラヤの仏教王国』

   川田順造ほか編集委員1997『岩波開発と文化1 今なぜ「開発と文化」なのか』

   川田順造ほか編集委員1997『岩波開発と文化3 反開発の思想』

   H.N.Misra 1988 "Bhutan: Problems and policies"

   T.ヴェルヘルスト1987/訳1994『文化・開発・NGO:ルーツなくしては人も花も生きられない』

・山本けいこ1991『はじめて知るブータン』

 


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