ごった日記2000 12月21日〜31日


【12月21日(木)】
真木武志『ヴィーナスの命題』(角川書店)。
 賛否両論の作品ということは最初から分かって構えて読んだわけだが、結論からいうと「ミステリ仕立ての青春小説」としては楽しく読めた。読みにくい、と聞いていたが文章が読みにくいというよりも、すべてが断片的に提出されるのでそれを繋ぎ合わせながら読んでいかなければいけないという読みにくさ。一旦キャラ、作者の狙いを読み取ってしまえばさほど苦労はない。随所に光る描写や会話を楽しめばよい。
 ただ、これを「本格ミステリ」としていいか悪いかと言われると、どうかと思う。
 パズルの最後のピースがはまった時、その意外な絵柄に感嘆するのがミステリの醍醐味だとすれば、そのピースは小さければ小さいほどいいし、それまで見えていた絵柄と本当のそれとのギャップは大きければ大きいほどいい。この作品では視点も時間軸も自由自在に作者が操作して、データは小出しにしか出てこない。いってみればほとんどデータは出さずに最後にぽんと大きいピースをはめてみせるようなもの。
 特に、あるひっかけについては、文句を言いたい(以下、ネタバレではないものの勘のいい人はヒントになる可能性あり)。解決編で、ある人物がある人物に告白したというエピソードが紹介されるのだが、そこをリアルタイムに描写することを作者は避けている。実はこういうことがあったんですよ、と後で言うのではなく、きちんと描写した上でなおかつ騙し通してくれていればより驚いたろうに、と思うのである。

【12月22日(金)】
●今日はミステリ研のクリスマスパーティ……といっても近年は忘年会と大差ない飲み会。今回は送り迎えをしてもらえるということになって、心置きなく飲む。
 綾辻・法月・麻耶・我孫子と珍しく全員揃ったのも、実は来年1月14日に行なわれる関ミス連の打ち合わせもあってのこと。何でも色んな作家に講演を断られ、困り果てたところへ綾辻さんが助け船を出した結果、今回のゲストは我々4人ということになったのだった。詳しくはこちらで。
 何だかえらい広いホールを確保してしまったようなので、皆様ふるってご来場ください。
●二次会後、若者数人と綾辻法月と勇んでカラオケへ。最近キリンジばかり聞いている(聞かされている?)ので、何となく世間的にも流行っている気がしていたのだが、一曲たりとも入っておらずがっくり。「エイリアンズ」ぐらい入ってると思ったがなあ。どこかで「グッデイ・グッバイ」が入っていたことは覚えているのだが、それがどこだったかは覚えていないのだった。
 数曲歌った後、作家三人は河岸を変えることに。

【12月23日(土)】
●ジョイを選択したものの、やはりキリンジは入っておらず。あれ? そんなに人気ないの?
●一時間でさくっと出て、帰宅を急いでいるらしい法月綸太郎と別れ、お迎えコールを家にして綾辻さんと二人でお茶を飲みながら待つこと一時間。
 五時頃には帰宅。

【12月24日(日)】
●先日本格ミステリ作家クラブから送られてきた会員名簿には、新聞などで紹介された記事のコピーが同封されていたのだが、そこに実は「噂の真相」の記事も入っていたと教えられて見てみたら自分の名前も出てたので驚いた。
「島田荘司に勘当された我孫子武丸」?
 中途半端に業界の知識を持っている人間が情報を提供しているのだろうが、ちょっとはウラを取ってみたらどうなのかね。「島田嫌いで有名な笠井潔」とかウソばっかり。
 しかし、ミステリ業界のことってこの本には結構載るようなのだが、そもそもそんなことに誰か興味あるのかね? 推協と本格ミステリ作家クラブが対立関係にあろうがなかろうが、普通の人はどうだっていいでしょうに。
 まあ、芸能スキャンダルと一緒で、それを見たがるゲスな人間がいる限り、こういうのはなくならないんだろうなあ。
 しかし、「なかよしクラブ」という指摘は予想通りで、そんなふうに思われないようこれから執行部だけでなく各人が肝に銘じておいてもらいたいものだ。

【12月26日(火)】
●「安楽椅子探偵の聖夜」解決編。
 尺の問題もあるのかもしれないが、前回までと比べると、論理的に甘い気がする。
 結論は手がかりと矛盾しないが、それが唯一のものかというと疑問が残るのだ。手がかりから演繹的に結論に到達するのは無理で、「こうである蓋然性が高い」という論理の積み重ねでしかない。
 解決編の演出は相変わらずのノリで(同じ人か?)、楽しい。
グレッグ・イーガン『祈りの海』(ハヤカワ文庫)。
 解説で瀬名さんが評価しているらしい近作よりも、「貸金庫」や「放浪者の軌道」といった初期作品の方が好み。全体に素晴らしい短編集であることは間違いない。実は長編はSFマガジンの瀬名さんの文章を読んで二の足を踏んでいたのだが、この評価の食い違いを考えるとやはり読むべきかも。大森さんは90年代ベストにもあげているようだし。
●……やれやれ。三日がかりでようやく「最果て」をクリア。前半のアイテムの出方は非常にバランスが良く、浅い階で黄金の間に。ドラゴンキラーは手に入らなかったがマンジカブラとドラゴンシールドをゲット(それ以外収穫なし)。その後も絶体絶命の危機はほとんどなく、無事99階へ。残念ながら深い黄金の間には行けず、変わったものは手に入れられなかった。すべてを通じて白紙は一枚しか手に入らず、シハンをねだやしにしたのみ。
 とりあえず喉のつかえは取れたが、もののけ王国といいあかずの間といい、やることは数限りなくある。今世紀中はもうやらんぞ、っと。

【12月28日(木)】
●毎年恒例のイベントのため、相方は東京へ。
●テレビで、見逃していた古畑のスペシャル「黒岩博士のなんとか」をやっていたので一応見る。基本的な設定があれのパクリであるということは知っていたので、そういった部分以外に何かあるのかと思って見ていたら、そこそこ楽しめた。ファミレのウェイターがよい。

【12月29日(金)】
●地上波でやっていた「ネル」をつい見てしまう。何となくそういう映画があることは分かっていたが、これはなかなかいい。言葉が重要な映画なので、もう一度字幕で見たい気がする。

【12月30日(土)】
乙一『失踪HOLIDAY』(角川スニーカー文庫)。
 乙一初の他社本はスニーカー文庫。担当者が力を入れるだけのことはある傑作。最長という二〇〇枚超の表題作もいいが、併録の短編「しあわせは子猫のかたち」に脱帽。
 二作ともストーリー的には予想の範囲内なのだが、とにかくその書きぶりが素晴らしい。

【12月31日(日)】
●世紀末気分、というのは年末気分の巨大なものなのだと思っていたが、年末気分さえない。21世紀、という言葉の響きにはいまだに特別な感覚が伴いはするが、ただそれだけ。
 世間の人々はこの年末に特別な気分を抱いているのだろうか?


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