【9月12日(水)】
●昨夜は「ニードフル・シングス」を見ていて、そのまま「騎馬警官」とかいうドラマを流しっぱなしにしていたら綾辻さんより電話。「アメリカは凄いことになってるねえ」「はあ? アメリカがどうかした?」
というような経緯でテロを知り、それから数時間チャンネルを切り替えつつニュースを見る。一旦寝て起きてもまだずーっと特番である。
もはや新しい情報もないようなので、ずっと前から壊れていたCDプレイヤー二台を修理に出すため市内へ。ラーメンを食って帰宅。当然またニュース三昧。
●丸一日経ったが、どうにも普通のテロに対するような怒りが沸いてこない。元々、無差別テロに対しては人並み以上に怒りを掻き立てられていたものだが……。「人を殺すのはどんな場合でもいけないことです」などと無邪気に言えなくなった現在、「テロは絶対に許せない」という言葉も同じように絶対の真理であるとは思えなくなってしまったということと、これはテロというよりはむしろ戦争だなあと思うからだ。
軍隊を持ち、核兵器を持ち、時折気にくわない国に空爆などをしながら「テロは自由に対する挑戦」と言える神経は一体何なのだろう。無差別テロと原爆投下の違いはどこにあるのだろう?
もし今回の犯行が本当にパレスチナ解放組織によるものなのだとしたら、恐らく彼らにしてみればこれは宣戦布告などではなく「長い長い戦争の新たなる一ページ」に過ぎないだろう。「これは戦争だ!」というブッシュの言葉に、彼らは「今頃何言うとんねんこのおっさんは」と思ったに違いない。ぼくは別にイスラム教徒でもパレスチナ人でもないし、それらに親しみを感じる理由は何一つない。が、中東で憎しみを掻き立て、たくさんの血を流す争いの火種を生んだのはアメリカだ。その責任を感じもせずに自分たちこそが正義だと言わんばかりのブッシュの顔と犯人と目されるビン・ラディンとかいうおっさんの顔を見比べていると、何だかあのおっさんに同情したくなるのはぼくだけだろうか?
●……しかしもちろん、テロは許せない。何よりテロが駄目なのは憎しみの連鎖を増殖させ続けることだろう。どちらかを殲滅させない限り、この連鎖は終わらない。アメリカの言う「報復」が首謀者を殺すことだとしたら、その連鎖に組み込まれるだけだ。テロを厳しく断罪するのは結構だが、同時に和平の努力をしない限り、ブッシュはさらなる憎しみの対象になるだけだろう。
●それにしても相変わらずの「邦人安否」報道にはむかつく。関係者だけが知ればいいことを何度も何度も電波で流すな。
【9月13日(木)】
●石崎幸二『長く短い呪文』(講談社ノベルス)。
ぱらぱら見ていて微妙に外した(時々つい笑ってしまう)ギャグの連続に興味を覚え読み始めたのだが……前半3分の2はとにかくツラい。ギャグの連発も最初だけで後はただ大した謎も事件ないのに非論理的な推理(?)と無内容な会話が繰り返される。
そこで唐突に、きわめて面白いネタが出てくるのだが……もったいない。ちゃんと書きさえすれば傑作になったかもしれないのに。難しいネタなので「ちゃんと」書けるのかどうかは分からないが、ギャグっぽく書くにしてもこれはないだろう、という最悪の扱い。ただでさえ枯渇しつつある限られた資源を無駄遣いするのを見せつけられている気分。
【9月14日(金)】
●吉川良太郎『ペロー・ザ・キャット全仕事』(徳間書店)。
ここ最近の日記を振り返ると他人の本をけなしてばかりいるようで、自分の心が狭いのかと思い始めていたのだが、文句なしの傑作と言える作品に出会ってちょっとほっとしている。24歳でこんなにも軽々と洗練されたSFを書ける人が出てくるとは。とにかく隙がない。センスがよい。もうちょっと長く書いてくれてもよかったとは思うが、このコンパクトさはこれで好ましい。脱帽。
昨年のSF新人賞にしても佳作にしても、ほとんど30代やその後半だったりして、やっぱり日本SFの未来は暗いのかもしれんなあと思っていたのだが、こんな人がまだいるのだから大丈夫。
エフィンジャーのプロットを村上春樹のセンスで……というとオリジナルなものがないみたいだが、もちろんそんなことはないのでまだ読んでない方は期待してお読みください。
【9月16日(日)】
●時間帯を日曜7時という激戦区に移して奮闘していた「スクープ21」だが、突然終わってしまった。鳥越氏の言葉からは視聴率が取れなかったことが問題なのか、視聴率を取ろうとして番組が変質してしまったことが問題なのか、その両方なのか(多分これ?)、分からないのだが、とにかく残念。桶川ストーカー殺人などでは相当の功績があったので、それなりの人気があるのだと思っていたのだが……。
長野智子なんてにぎやかしの女子アナと思っていたら、パレスチナへ飛んで石と銃弾が飛び交う中、原理主義者などへのインタビューを敢行。なかなか根性あるのかも。
パレスチナの子供たちは、テロについて「ぼくだって死ねる」と口々に聖戦を認める発言。「無関係なアメリカ市民がたくさん死んだけど」と問われて「ここでは毎日殺されてる」ともっともな答。廃墟のような街の若者たちがイスラエル国境で投石するのに対し浴びせられる銃撃。アメリカのマスコミはこういう光景をこれまでちゃんと報道してきているのだろうか?
イスラエル人は一体どう思ってるのかなあと思ったら、そっちもちゃんとインタビューしてくれていた。お隣の廃墟とは別世界としか思えない、スターバックス風オープンカフェのテーブルでコーヒーを飲むお姉ちゃん二人。もちろん「テロは許せない」と口を揃えるのだが……。分からん。この人たちの神経は分からん。
【9月17日(月)】
●ブッシュの口からは中東和平に関する言葉は一つも出ない。上院では全員一致、下院ではかろうじて一票の反対票があっただけで、武力行使に賛成だとか。国民の85%も賛成。多民族、多宗教の国家でこの数字は異様に高くないだろうか?
充分な証拠もなしに、当然裁判も行なわず、さらには無関係な人間を巻き添えにしても構わないというその態度はまさにテロリスト。
15%の良識が機能することを期待したいが……無理かな。
【9月19日(水)】
●アメリカのラジオ局で自粛曲のリストを作っていたらしいのだが、「イマジン」とか入ってて、戦意を削ぐようなことをしたくないのが見え見え。
●CSで「39」。
「ライアー」みたいな虚々実々の駆け引き、って感じを予想してたら狙いはだいぶ違うところにあった。わりと大きなネタを早めに割ってしまうのでその後は少々退屈だが、ラストはまあまあ。江守徹の怪演がみもの。
【9月20日(木)】
●CSで「ラウンド・ミッドナイト」。実話系の映画(「バード」みたいな)かと思ったらそうではなかった(多分)。全編通じてどうということはないのだがつい見てしまう牽引力のようなものがある。主役の存在感だろうか?