渡辺 恵 その劇団は、身体障害の人達がつくっているもので、当日は彼女のソロ公演でした。下半身は動かないらしい、舞台の上を転げているらしいとだけ聞いて見に行った。 そのとおり、最初は全身をぴったり包んだ衣装で、ゆっくり下半身をひきずりながら、だらんとなった足を手でひきよせ、転げたり、はいつくばるようにして両手で前進したり…。 こんなふうにして動かはるんやなあと見ていた。 次の場面は、大きなパラソルを頭につけ、上体をうまくくねらせ、パラソルと一体感のある動き、とても不思議な感じ。 次の場面は、チョゴリを着た金さんが黒衣によって中央に運ばれ座る。上半身はしっかりしているので、その姿はよくみる韓国の人…が、そこから圧巻のはじまり。腕も指先もそんなに自由には動かないのに、指さきの動きの繊細なこと。目の玉の動きひとつとってみても、シャープであったり、力強かったり、そして彼女自身の存在が、なんと威厳のあるもの…それらがどんどん私の中に伝わってきた。 最後の場面で彼女は龍になった。そこではじめて、彼女のなまめかしさを見た。1時間ずーと目をみはる想いで、彼女にひきつけられていた。細かいことはわからないけれど、彼女の心と感情に寄りそっていろんな時空間を旅した。心は震えていた。 帰りの電車の乗り換えをプラットホームで待っていると、私の腰のあたりで移動するものが視界に入ったので見ると、車イスを押された金さんが通り過ぎて行った。何か言わなければと追いかけ、「あのう、先ほど舞台を見せてもらいました」と言うのがやっと。「あら、どなたから?」ととてもやさしい彼女の声。 「どなたからでもないんですが…」と変な返答をしていると、私の心情を察してかどうかわからないけど、手をすっと私に差しのべられ、私は両手でその手を包みこんで握手をした。その手はとてもやわらかく、あたたかかった。「また舞台見せてもらいますね」金さんはにこっとしてエレベーターの中に入って行った。 |