私達は、京都でダウン症を中心に染色体異常の子どもを育てている親が集まり、子ども達にとって、今、何が必要なのか、そして将来の為に何をしていかなければならないかを考え、療育、医療、生活についての情報を集め、提供していくことを目的に活動してまいりました。1985年に発足して以来、11年間、多くの情報を集めると共に、子ども達から学ことも多々ありました。
昨年春頃より「母体血清による胎児スクリーニング検査」が手軽に採血だけで出来るため、産婦人科の窓口を受付にして検査会社の商業ベースに乗り、一般妊婦を対象に普及する話を、マスコミを通じて耳にしました。「母体血清による胎児スクリーニング検査」の対象は、私達が毎日とてもかわいいと思いながら育てているダウン症の胎児であることに驚くとともに、まるでダウン症の子どもが生まれなくなることが、朗報であるかのように言っている検査会社の報道に怒りを禁じえませんでした。そこで、私達は親の会の会員を対象に「出生前診断」及び「母体血清による胎児スクリーニング検査」についてのアンケート調査をしました。その結果、産婦人科の医師の中には、障害を持つ子どもを取り上げることはあっても、その子がその後どんなに元気にかわいらしく、親から愛され生活しているかを知らず、〔障害を持つことは不幸なことである〕という間違った認識を持っている方が少なくないことがわかりました。その結果、そのような子どもや家族が幸せに生活しているという情報は妊婦には全く伝わっていません。
私達は今回のアンケート調査の集計結果より、「母体血清によるスクリーニング検査」を現時点で全ての妊婦に適用しようとすることには、問題があるのではないかと考えております。
理由は、私達の調査から、窓口となる産婦人科医は「出生前診断」について、又、「障害」について、あるいは障害を持つ子や家族の生活の実態について、妊婦が自己決定できる程、公平な情報を提供できていないという結果を得たからです。現在の日本社会では障害を持つ人が十分に受け入れられていないこと、障害を持つことが劣るとか、悪いことであるかのように考えられていることなどから、検査により陽性を得た妊婦は大きな不安をかかえることになりますが、その不安は一通りのカウンセリングでは取り除けないと私達の経験で思うからです。その結果、子どもがほしいと思っているにもかかわらず、ダウン症であるという理由で中絶されていく胎児も多くなることにもなりかねません。現にある大学病院では 100%に近い数字で中絶されている事実が私達の所に届いております。出産後、カウンセリングや医療的ケアが充実していれば、障害を持っていても何ら問題なく子どもを育てることができます。現に私達はダウン症の子どもを産んで良かったと思っていま
す。子どもからやさしさや、人としての生き方など多くのことを学びました。
私達、親の会は障害をもっていようとも、健常児と同じ生活が保証されるように、又、社会の中で障害についてより理解が進むように、活動を続けてまいりました。しかし、まだまだ障害を持つ子のことが理解されていない事実も今回のアンケートで出てきております。
そういう状況の中で、過日、新聞報道により、母体保護法の中に「胎児条項」を盛り込むことを貴会が検討されていることを知りました。これは私達が問題と思っている「母体血清によるスクリーニング検査」をより一層、普及させる結果になってしまいます。
以上のことを踏まえまして、「母体血清によるスクリーニング検査」に関しては、従来の「出生前診断」と同じ扱いとし、「スクリーニング検査」にはしないという合意を戴きたいと思っております。又、「胎児条項」を盛り込むことは、より一層、障害者差別を促進し、命を軽視することにより、社会に歪みが起こると考えます。
私達は、現在、貴会で検討されております「胎児条項」を含む、「母体保護法改革案」の具体的内容について、御教示いただきたいと願うと同時に、今後の取組にあたっては、私達、親の会や当事者団体を含めて、関係者との幅広い話し合いの機会を設けて戴きたいと思い、要望いたします。