京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(1998年4月号 掲載)

第6・7回厚生科学審議会先端医療技術評価部会、傍聴からの報告

佐々木和子   

 2月16日に第6回、3月18日に第7回の厚生科学審議会先端医療評価部会(以下、部会という)が開催され傍聴してきました。この部会は厚生科学審議会(以下、審議会という)の審議事項の一つである「先端医療技術等の評価に関する事項」を審議するために設置された部会です。同部会においては、遺伝子治療臨床研究を始めとする先端医療技術の評価を進めていくこと、遺伝子治療以外の先端医療技術では、当面、生殖医療に関する分野について検討を進めることとしています。

 厚生科学審議会は厚生省の組織令が設置根拠になり、法令に基ずく審議会という位置づけで、厚生大臣の諮問に応じて、厚生省所管行政に関する科学技術に重要事項を調査審議することを目的に組織されたものです。

 第1回の審議会は1997年5月19日に開催され、第1回の部会は1997年7月10日に開催されています。審議会も部会も議事録の公開を基本とし、特に案件により会議自体を公開することが適当な場合には、審議委員の了解のもと会議を公開するという運営の方針があり、議事録は厚生省のホームページで公開されています。興味のある方はぜひ見ていただきたいと思います。

 第5回〜7回は会議の公開でした。今、私の手元には、第1回〜3回の審義会、第1回〜4回の部会の議事録があります。

 第1回の審議会か開催された後から、「母体血清によるマーカー検査」や「出生前診断」「着床前診断」に取り組んできたメンバ一は、審議会や部会が本当に先端医療技術が一般生活者や障害を持つ人達にとって利益を得るものになるよう審議されているのか、時には質問状を送る団体もあり、目を離すことなく情報を得てきました。

 部会も審議を進めるにあたり、医療技術や医療現場に関する資科の収集だけでなく、当事者団体や女性団体からも広くヒアリングを行うことになったようです。それには、今までのトライアングルや日本ダウン症協会、他の女性団体や障害者団体の厚生省や医療関係団体ヘの度重なる意見書の提出があったからだと思います。

 第3回から医療関係団体を対象にヒアリングが始まりました。その中で、立ち消えになっていた「胎児条項」のことが審議されていることを知り、改めて意見書の作成を考えていた時、2月か3月頃に、障害者団体と女性団体に対して、ヒアリングを行うとの情報がはいってきました。

 厚生省のホームページに「生殖医療に関する障害者団体・女性団体の意見の募集」要項が載ったのは1月24日、〆切りは2月4日という時間のなさに唖然としながら、超特急で、「胎児条項」に対して強く反対の意見を盛り込みながら意見書を書き上げ、提出しました。厚生省から、ダウン症の親の会として、トライアングルか日本ダウン症協会か、何方かがヒアリング団体として参加するよう要請があり、要望することは同じ内容なので、日本ダウン症協会が2月16日の部会で意見を述べることになりました。

 募集から〆切までの時間が無さ過ぎた上に、ホームページという、まだまだ一般的でない媒体を使っての募集に、たくさんの団体か応募することが出来ず、これが政治的意見徴集なのかと納得したり、しなかったり・・・。

 当日のヒアリングの対象は以下の6団体でした。(発言順)
○全国重症心身障害児(者)を守る会
○全国精神障害者家族会連合会
○全日本手をつなぐ育成会
○日本筋ジストロフィー協会
○日本ダウン症協会
○日本脳性マヒ者協会、全国青い芝の会
 前もって提出されていた意見書は、すべて資料として部会の委員および、ヒアリング団体、傍聴者に配布されます。各団体は提出した意見書に補足する形で直接、意見を述べていきます。私は前日に日本ダウン症協会の玉井理事長、加辺、石黒両副理事長と意見の調整をし、当日は傍聴しました。

 この日のヒアリング団体で当事者団体は、全国青い芝の会だけで、あとは親の会です。当然、親の思いと本人の思いは違ってくるだろうし、親が代弁するには、限界があり、親の会同士でも統一した意見を出すのは無理があります。その違いをまざまざと感じさせられ、問題を残した意見発表だったと思います。

 その中で日本ダウン症協会は、今の先端医療技術の持つ問題を社会的側面からきちっと捉えた内容で、傍聴していた女性団体や当事者団体からも高く評価されました。

 用意された時間は2時間。各団体15分の意見発表で残りを質疑応答の予定が、意見発表に時間を取られ、委員からの質問を受ける時間もなく、あっさり時間切れ。

 今までの医療関係団体に対するヒアリングは、1回につき3〜4団体だったのに、今回は6団体と多くなっているのも、本当に聞く気があるのかと思わずにはいられませんでした。3月の部会のヒアリングは、女性団体が対象となっており、2月に問題を残してしまったことを3月に操り返さないように、大阪の『優生思想を問うネットワーク』と連絡を取り合いながら、当日を迎えました。

 3月18日のヒアリングの対象は以下の5団体でした。(発言順)
○からだと性の法律をつくる女の会
○SOSHlREN 女(わたし)のからだから
○DPI 女性障害者ネットワーク
○フィンレージの会
○優生思想を問うネットワーク
 障害を持って生まれてきたことは、決して不幸なことではなかったこと、不幸は社会的圧力の中で起こってくること、社会的性差別が強い中で女が主体的に出産にかかわれていない実態、その上、「自己決定」という言葉で女に責任を押しつける理不尽さを訴え、一般の人々が参加できる議論の場を恒常的に設けること、胎児の障害を理由に中絶できる「胎児条項」は、障害者差別を助長するゆえ、絶対に作らないこと等を要求しました。

 各団体、活動している内容は少しずつ違っていますし、少し前までは、女性団体と障害者団体は胎児を巡って対立することが多かったのですが、議論を繰り返す中で調整していき、この日の言わんとするところは、殆ど食い違うことなく意見発表ができたと思います。さすがに本人からの意見だけあって、迫力があり、聞いていて胸の痞が取れ、晴々として帰って来ることができました。

 前回時間切れになったことに対して異議があったのか、今回は30分多い2時間30分の時間が用意されていたので、かなり議論らしいものでした。

 しかし、聞いていた委員の人達に、この日の意見の内容の深さと重さが伝わったかどうかは甚だ疑わしい限りでした。

 「胎児条項」を作ることを前提に部会の審議を進めていることは、議事録を読んでいてわかりますし、この日の委員の質問を聞いていてもわかります。審議会や部会の委員の構成も、あまりに一般とは馴染みがない人達であることに問題を感じますし、委員の発言を聞いていても、一般社会の医療現場を何も知らないと思えるものです。意見書を提出する時に参考資料として、トライアングルのアンケート結果報告書と『237通の答え』を添付したけれど、読んでいるのでしょうか。

 部会は、今年の7月に、それまでの「まとめ」を出す方向で動いています。どんな「まとめ」が出るのか、こちらも大きく動かなければならない状況があるかもと待機しているところです。


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