京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(2009年8月号 掲載)
児童館の子ども達と対話して

渡辺 恵

 ことの発端は、亮についてくださっている学童のボランティアさんのひとりが連絡ノートに「子ども達から時々、心無い嫌な事を言われたり、からかわれる事があります。亮くんは傷ついていると心配しています。」と書かれてありました。そんな事はこれまでも多少はあったけど、亮はもう4年生で他の子達は1年〜3年生。亮の印象だけで、そんなことがたびたび起こるのなら、みんなに知っておいてほしいことを夏休み前にきちんと話しておこうと、児童館でその時間をとってもらうことにしました。

 あまり広いとはいえないスペースに、4、50名の子ども達がいて、いつも職員の方が大声をだして仕切っておられる中、はたして私の話など聞いてくれるのか、少しの不安と作戦を練って臨みました。

 当日、私の持ち時間は30分足らず、子ども達が集合して5分くらいたっても、騒然としています。持ち時間がなくなる‥‥作戦開始! カウンターごしのとなりの部屋で鉄琴を一音鳴らしてみました。が、全然聞こえません。「あかんわぁ〜」とあきらめかけていたら、横にいた職員の方が「お母さん、続けてみて」と言われ、とにかく「たなばた」の曲を鳴らしはじめました。すると「え?」と自分でも驚くほど、スーっとざわめきがひいて、鉄琴の音だけが部屋の中に響いていました。子どもの耳ってなんて敏感なんやろうと感心するとともに、作戦大成功! とニンマリしている私がいました。

 これはトライアングルの会の由来で、子ども達にトライアングルの一音を鳴らした時、彼らがしーんとして耳を澄ましたというところから、ならば私もとそれに習うことにしたのです。
 そして静かななか、子ども達との対話を始めることができました。 「渡辺亮ってどんな子?」と私がたずねると、たくさんの子が手を挙げ、「好き!」「嫌い!」「育成いったはる!」いろんな答えが返ってきます。 「キライって言った人、どんなところが?」とたずねると、思ったとおり出るわ出るわ、いろんな苦情! 「遊んでたらじゃましに来る」「○○取られた」「苦労して作ったもんこわされる」「ボケ言われた」「水かけられた」。
 「あなたたちが何も悪いことしてへんのにそんなことするんかぁ。そら悪いなあ! 亮に注意しとくわ。」と私も子ども達に共感してしまいます。

 ひとしきり聞いたあと、「何でそんなことするんやろ?どう思う?」さっきの活発さはなくなり、答えてくれる子はポツリ、ポツリ。「自分ができひんし‥」「私たちとかかわりたいし」。それを聞いて、「そうやなあ、私もそう思う!」と言って、みんなに聞いてほしいことを話し始めました。
 ダウン症であることと、そのハンディ‥‥。みんなと友達になりたいけど、うまくかかわれないこと。みんなと同じようにできないということがわかっていること。いろんなことで、みんなとテンポがずれ、ちぐはぐな行動になってしまうこと。成長も勉強もとてもゆっくりであること。全て、具体的に例をあげて話しました。
 けれども、嬉しいこと、悲しいこと、楽しいこと、くやしいことなど、感じる心はまったくみんなと一緒であること。
 どの子もみんな真剣に神妙に耳を傾けてくれ、子ども達の素直さをひしひしと感じました。
 そして亮と話をする時、イヤなことをされた時、亮にとってわかりやすく受け入れやすい話し方も伝えました。

 「今日はみんな話を聞いてくれてありがとう。」と終わりにしようとしたら、子どもから「何か弾いて」と言われドキッとしましたが、「何がいいかなぁ?」「ドラえもん」「ムリ!」「○○レンジャー」「ムリ!」「ディズニーの○○」「ムリ!」
「これ7音しかないし、もう1回“たなばた”にしよう。」と、また下手な手つきで鳴らしてみました(こんなことなら、しっかり練習してくればよかったなぁ)。
それなのに、曲が終わると拍手までしてくれ、どっと冷や汗がでてきました。

 図書館で帰る支度をしていると、亮が1年の時からずっとついてくださっているおばあちゃんのボランティアさんが来て私の両手を握って、「おかあさん、こんなことならもっと早く話してもらったらよかったわ。」と涙ながらに話され、長い間の御苦労と心労が伝わってきて、私も涙がこみあげてきました。

 結局はこんなタイミングでしかできなかったのですが、子ども達も亮の存在を少し広い目で見てくれるように思います。そして何よりもよかったことは、私の子ども達に対する気持が、とても清々しいものになったことです。

P.S.
 翌日、たまたま公園で、話を聞いてくれていた子が亮に私の伝えたとおりの接し方をしてくれているのを見て、思わず「OK」とサインを出しました。
 そして、はたと大事なことを忘れているのに気づきました。他の子達に話をしたのに、我が子に“今後の注意”をしてなかった!!


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