京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(1999年8月号 掲載)

トライアングルに来たメールより

 今回は、染色体に関する質問に巽さんが答えられているメールをご紹介します。

質問メール−(略)私は、減数分裂時に染色体が過剰になるのは、一方的に卵子にのみ起こるものだと考えていたのです。この(多分)誤った考えの根拠は、「高年齢出産になるとダウン症の発生率が高くなる」というようなことを、どこかで読んだか聞いたかしたためだろうと思います。よくよく考えれば、減数分裂時に染色体の移動がうまくいかないといった現象が、一方的に女性にだけ起こるなどと言うことがあるはずはないのですが、私は何故かそう思いこんでいました。
 このあたりをもう少し説明していただけないでしょうか?

ご質問にお答えして:
 卵子、精子の双方を呼ぶ名前として、配偶子という言葉を使います。配偶子は、体を作っている細胞(体細胞)のちょうど半分の数の染色体しかもちません。ヒトなら2本づつ対になって、23対46本の染色体を各細胞は持っているわけです。ところが、生殖細胞である配偶子は、各染色体1本づつ23本しか持ちません。例えば、第1染色体は、父親から貰った染色体、第2染色体は母親から貰ったもの、第3染色体は、父親と母親の染色体が途中で組換えを起こし、大半は父親方であるが、1/5ほどは母親からの染色体になっている、とか、23本がいろいろな組み合わせの配偶子ができます。その配偶子を作るには、精巣や卵巣内にある特別な体細胞が染色体の数を半分に減らす減数分裂という細胞分裂を2回しなければなりません。それを、第1減数分裂、第2減数分裂と呼びます。

 普通、体細胞分裂では、1個の細胞が2個になるとき、できた細胞が全く同じ染色体の構成を持たなければならないので、細胞が分裂前に染色体量を2倍に増やします。つまり、全く同じ染色体をもう1本作りだすため、よく観察されるような染色体の形(やっとこ型)で、真中付近(着糸点)で2本がくっついたような形をとっています。染色体としては1本と数えますが、実はDNA量としては2倍に増えていて、それぞれが全く同じもので、1個1個を姉妹染色分体(1本の染色体を2本の染色分体で構成する)と呼ばれています。そして、分裂時に分体をつないでいる真中の部分が外れて1本づつになり、別々の細胞へと分かれていきます。

 ところが、配偶子を作るときの第1減数分裂では、姉妹染色分体が着糸点でくっついたまま1本づつの染色体となり、2個の細胞に入っていきます。つまり、父親からの染色体、母親からの染色体が別れ別れに別々の細胞に入ります。各染色体については、父方と母方の2本が対になっており、同じ番号のついた染色体を相同染色体と呼びますが、第1減数分裂では、相同染色体が分離します(体細胞分裂では姉妹染色分体が分かれていくので父方と母方とはそのまま保存される)。すると、染色体の数としては半分の23本に減ったことになります。そして、第2減数分裂で姉妹染色分体が分かれてさらに2個の細胞に入っていきます。

 ですから、1個の体細胞から4個の配偶子(それぞれが持つ染色体数は23本)ができることになります。これは、精子の場合には、そのままですが、卵子の場合はちょっと違っていて、第1減数分裂の時に2個になった細胞のうち1個しか次の第2減数分裂にすすめず、またその第2減数分裂でも1個しか卵子となり得ないので、結局1個の体細胞から1個の卵子しか作られません。

 ところで、まだ卵子と精子の形成で、異なるところがあります。第1減数分裂の途中まで(まだ完全には2本の相同染色体が別れてはいない状態:分裂前期という)は、いっせいに胎児期の間におこり、出生前までにその段階で、ストップしています。

 細胞は、思春期になり、生理(排卵が始まること)が始まるまでその状態で待っています。ですから、早いものでも、最初の生理が始まる10年ぐらいの間、ストップしているわけです。そして、排卵ごと、つまり1ヶ月に一つづつ(通常は1個づつ)減数分裂が動き出し、後1回の減数分裂(第2減数分裂)を経て、精子が受け入れられる状態の卵子になります。20代で生んだ子供であれば、それは20年以上減数分裂の途中で待っていた細胞が卵子になり、受精したものなんです。そう言う風に考えれば、40台で産んだ子供は、40年待っていた細胞がもとになってる卵子の受精の結果なのです。

  それで、女性の場合、高年齢になればなるほど、相同染色体が2本ある細胞のままで待っていた期間が長くなるからかもしれないけれども、減数分裂で完全に相同染色体がわかれずに、2本くっついたまま1個の配偶子に分配される(不分離という)確率が高くなります。1個の受精卵には精子から貰ったその相同染色体が1本ありますから、不分離が起これば、全部で3本の相同染色体(通常は相同染色体は2本づつ)が1個の細胞内にあることになります。それが21番染色体で起これば、21トリソミー(トリとは3を意味する)と言い、ダウン症です。それで、ダウン症児の出生率は、妊婦の年齢が高くなるほど、高くなるわけです。

 ところが、精子の場合、約3ヶ月でターンオーバーします。つまり、精原細胞から3ヶ月の間に第1減数分裂、第2減数分裂と続き、配偶子になります。したがって、卵子のように途中の不安定なところで待っていることがありません。いわば、いつも作られたばかり新鮮なものなんです。  一生の間に排卵すべき元もとになる細胞(卵原細胞)は、女性がお母さんのお腹に居る間に、つまり胎児期に形成されてしまいます。あとは、月々待つのみです。

 こうした違いで、ダウン症の原因は、女性側にあることが多いですが、最近の統計では、全ての標準型21トリソミーのうち5分の1は、男性の配偶子の方の21番の1本過剰が原因であることがわかってきました。

巽 純子   


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