京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(2005年12月号 掲載)
積み重なった20年、とこれから

立命館大学社会学研究科  中根成寿

 京都ダウン症児を育てる親の会、トライアングルの皆様、ご無沙汰しております。そして20周年、本当におめでとうございます。記念パーティに出席させていただき、皆さんの元気な姿とそしてこれまでの20年の時間の重みを再確認することができました。僕がトライアングルに出会い、遠巻きながら見守ることができたのはその長い時間のほんの数分の一ですが、その出会いや時間の中から学んだことをすこしお話しさせていただこうと思います。

ケアする気持ちにあふれる父親、母親
 僕が「ダウン症児の親の会で話を聞いている」と人に話すと、多くの方の反応は「障害を受け入れるのに苦労しているんだもんね」「差別に苦しんでいるんでしょ」というものが多いです。確かに、障害をもつ子どもに突然出会えば、とまどい悲しみます。驚かなかったという親御さんを僕は知りませんし、ショックを受けなかった親御さんも知りません。ですが「ショック」や「差別」だけでダウン症児の親を語ってしまうことはあまりに表面的です。話を聞いてくれる人や周りで支えてくれる人がいれば、そういう時期はやがて過ぎていきます。子どもを愛せるかどうか不安だった人も、だんだんと子どもとの関係ができていくことにより、親と子になっていきます。 ともすれば、ダウン症の子どものいない家族よりも強い家族になっていきます。母親は子どもの直接的ケアに向かい、父親は育児や家事に協力したり、または家族のために仕事をがんばったりします。子どもを中心に父親はより「父親」らしく、母親はより「母親」らしく、子どもは「子ども」らしく、なっていきます。

過ぎていく時間と共に歩む人の存在
人生の節目には、学校をどうするか、親御さんの仕事や本人の進路など、課題をこなしながら家族が年を重ねていきます。か細かった体が、いつのまにかちょっとぽっちゃりになったり、友達が増えたり、地域に顔なじみの人ができたり、子どもの成長に伴って親の世界も子どもの世界も広がっていきます。そこで家族と共に歩み、支えてくれる人との出会いも増えていきます。20周年パーティに集まった人たちは、その中のほんの一部なんでしょうね。

そしてこれからの時間
 ただ、20年という時間は、一つの家族の歩む人生に比べれば、まだまだ短いものです。家族がさらに20年、30年という時間を重ねれば、また違う課題がでてくることになります。だんだんと家族は子どもが生まれたときとは逆の課題をもつことになります。親になることに不安を抱えていた親御さんは、いつしか親であり続けることへの不安を抱えるようになります。自分が一番子どものことを愛しているし、理解している、でも自分はひょっとしたら先にいなくなるかもしれないし、介護が必要になるかもしれない。子どもの袖口を引っ張って歩んでいたはずなのに、いつしか先を歩もうとする子どもの袖口を親がしっかりとつかんでいる・・・。頭ではわかっていても体がすっかりと「親」になっています。ケアすることで人はその考え方や体の感覚まで変化するものです。

 ただ、トライアングルの先頭を走り続ける家族たちにはその矛盾した課題への答えが見え始めているように思います。20周年パーティのロビーにあった、一生懸命に働くトライアングルの若者たちを捉えた写真はその手かがりになりそうです。そのためには、もっともっと共に歩む人々の手助けが必要です。顔が見える人、名前を知っている人だけではなく、顔も名前も知らないけれど同じ社会に生きている人も、少しずつの理解と支援が必要です。

 ともすれば、顔の見えない相手には想像力が及ばない、目の前のことで精一杯という人が増えてしまった時代です。顔の見えない人、名前の知らない人は存在しない、自分たちと違う考えや属性をもった人に想像力を働かせず、ひどいときには排除しようとさえする。今の社会は「想像力」と「寛容さ」を失いつつあるのかもしれません。
 ですが、トライアングルは紡ぎ直そうとする人たちの集まりだ、と僕は思います。

なにはともあれ次の10年、20年を
 課題や葛藤のない家族は存在しません。悩みのない人生も嘘っぽいです。大事なのは、課題や葛藤を正しくつかみ、人の力を借りながら、そこそこに生きていくことだと思います。

 20周年パーティでの皆さんのあの日の笑顔をうれしく思いました。そして先に歩いていった人と、今ここにいる人、これからここに来る人、全員にとってトライアングルがすばらしい「出会いの場」であったこと/であること/になることを再確認しました。10年後、20年後を、また皆さんと一緒に笑顔で迎えられることを信じています。そしてその時々の悩みや課題をまた教えてください。多分答えは出せませんが、一緒に考えます! 積み重ねた20年を尊敬、そしてこれからのトライアングルにも大きな期待をしています!

中根成寿(naruhisa@pob.org


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