京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(2000年2月号 掲載)

循環器病センターでの集団検診受診者からの血液採取・
遺伝子解析、保存に関する説明会に参加して

佐々木和子   

 昨年11月8日付けで、国立循環器病センターあてに「国立循環器病センターで実施予定の集団検診受診者からの血液採取、遺伝子解析・保存に関する公開質問状」を提出しましたところ(1999.11.15付通信参照)、なんと、なんと、ちゃ〜んと返事がきました。
 今まで、いろんな所に質問状や要望書を出してきましたが、こんな素早い反応ははじめてではないでしょうか。妙に感動してしまうのは、普段、あまりに逆境になれすぎているんだなぁなんて思いながら、12月6日に説明を聞きに国循に行ってきました。
 国循から3名の出席があり、主に企画部の村上氏が説明、及び私たちの質問に答えてくれました。6時30分から8時まで、みっちり丁寧に説明してくれました。
 説明内容は疑問だらけだったけれど、何回も同じことを聞く、おばさんのひつこさに嫌な顔もせず(絶対、ええかげんにせい!っておもてるで)答える村上氏が印象的でした。
 説明の内容は、何回も聞き直さなければならないほどややこしいのです。
 まず、国循では1979年(昭和54年)から集団検診をやっていて、1987年(昭和62年)から都市部住民の疫学研究を開始しています。目的は吹田市における循環器疾患、およびそのリスク・ファクターに対するサーベイランスと因果関係の検討、および循環器病を中心とする成人病の予防活動の方法論の研究で吹田研究というものです。
 検診の対象者は吹田市の住民台帳から性・年齢で層別化して任意に抽出。選んだ対象者に手紙を送り、検診に参加してもらうよう勧奨。承諾した人に対して改めて検診日程を知らせるという手順で、1989年に5000人を対象として開始し、1996年〜97年にトータルで5000人になるように受診者を追加しています。
 追跡検診は2年に1回実施し、非受診者は老人保健法に基づいた一般検査と循環器病に関する検査、食生活や生活習慣に関する問診など。費用は研究費で自己負担無しです。
 問題の中心は、この集団検診受診者から、通常の検診以外の目的で血液採取を2種類していて、一つは、厚生省のコホート用血液を10ml、採取、保存しています。1回目は1993〜94年、2回目は1998〜99年。厚生省コホートとは厚生省がん研究助成金による指定研究。ある集団の5年後、10年後の発病をみる疫学調査。今は保存のみ、解析はしていないとのこと。遺伝子検査をするにあたり、厚生省が新たにガイドラインを作成中。それができあがるまで解析はせず(できない?)保存しておく。
 もう一つは、国循集団検診部と阪大第4内科との共同研究で1996年5月〜98年2月に集団検診を受診した人に対して遺伝子検査用の血液の提供を依頼し、阪大で解析、検体も保存している。この遺伝子検査はアンギオテンシン変換酵素タイプ(心筋梗塞・狭心症に関係している)の測定で、測定結果は検診者個人に通知しています。
 そして、残った血液を用いて、5種類の高血圧に関する遺伝子検査(プロスタサイクリンに関する遺伝子検査・血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子検査など)を実施しているのです。この結果は、もちろん、検診者には通知していません。質問している私たちにすら、はっきり教えてはくれませんでした。まだ研究中で論文としても発表されていません。研究結果が出次第、順次、発表していくので、それを読んで下さい、だと。
 しかし、このアンギオテンシン変換酵素タイプの測定が遺伝子検査であるということも残った血液で5種類の遺伝子検査をしていることも検診者に知らせらてはいないのです。
 国循が今回の説明会のために用意した書類のなかに、検診を受けるにあたっての説明の書類があります。その中の<アンギオテンシン変換酵素タイプの測定についてのご案内>にも厚生省コホート研究用に使われる<生活習慣病予防のための調査への血液・健康診査結果提供のお願い>にも、この検査が遺伝子検査であるということは書かれていません。
 また、<アンギオテンシン変換酵素タイプの測定結果の見方について>という説明書が特別にあります。 その説明は「アンギオテンシン変換酵素は循環器疾患と関係の深い酵素で、血液型のようにタイプがあり、II、ID、DDという3つのタイプに分類されます。これは、血液型と同様に各人が持って生まれたもので、一生変わることがありません。例えば、O型の血液型の人に消化性腫瘍が多いことが知られていますが(へ〜そんなん知らんかったなぁ)、 最近の医学の進歩により、DDタイプの人に心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患がやや多いことが解ってきました。」 また、「DDタイプだからといって病気になるとはきまってはいないけれど、自分が病気にかかりやすい遺伝素因を持っているかを認識し、規則正しい生活を普段からして病気を予防し、健康で充実した毎日を送られることを願っています。」と書かれています。
 遺伝子検査の結果がこんな簡単に紙1枚ですますもんなん???希望者には丁寧に説明しているというけれど、希望者だけって??なにさぼってんねん!
 検査を了解した時から、自分の組織が何に使われたか100%わかっていて、どんな結果がでても「ハイハイ、了解、なんでもOKよ」なんて言える人がいるのだろうか?
 また、検診の結果は一般のカルテに記載、集団検診部のコンピューターで管理。遺伝子検査の結果はカルテには記載しない。残った検体は、個人を特定出来るデータをはずして、検診結果と検体を阪大に送り、他の5種類の遺伝子検査を実施しているとのこと。
 個人情報・検体・遺伝子情報がどのような形で保存され、登録されているのか?
 国循は、プライバシーは完全に守られるよう、配慮されているというが、情報流出の事件をみてもはなはだ、危なっかしい限りです。
 気軽に受けた国循の集団検診で取られた血液が、厚生省の研究に使われたり、大学に持ち出されて遺伝子検査されているなんて、誰が考えるでしょう。一般の人は、遺伝子がどのように研究され、今、どんな現場をかかえているかを系統だって知る機会は全くといっていいほどありません。マスコミを通して伝えられる先端医療技術についても、その技術が自分の生活にどのような影響を与えるか、市民サイドに立った記事の書き方はされてはいません。
 遺伝子というのは、説明にあるように一生変わりませんし、病気の一因となるものです。そして、ある人の遺伝子の情報は、家族や血縁者もその情報を共有するという特徴があります。遺伝子が解明されるにつれ、それを利用しようとする企業があります。生命保険の加入時の選別に使われたり、雇用差別につながったりする可能性もあります。今はアンギオテンシン変換酵素タイプの測定結果だけが知らされていますが、すでに、5種類の遺伝子検査が遺伝子検査と知らされないままされているわけですから、それらの遺伝子の研究が完了すれば、当然知らされることになるでしょう。
 そうなった時に、本当にプライバシーが守られ、その後の生活に不利益や混乱が起こらないよう、一人一人に納得ができる説明がされるのでしょうか。
 それ以前に、遺伝や遺伝子に関する知識が一般に広まり、この研究に協力するかどうかの判断ができ、「私の組織を研究には使用しないこと」と言う機会が、当然のように与えられる状況をつくらなければなりません。
 今までの経緯を知るかぎりでは、用意されていた書類をみても、直接、説明を聞いてもなにも知らない市民を利用しているとしか思えず、問題だらけです。
 現在、厚生省では「遺伝子解析による疾病対策・創薬にかんする研究」と題して、国立高度医療センターや国立試験研究機関において、多くの人から生体試料を採取し、遺伝子を解析して遺伝情報を登録するデータベースを整備し、同時にこれら生体試料を使って、人の組織・器官の培養・保存の研究をすすめようとしています。
 今回の国循の研究計画は、厚生省のプロジェクトの一環で、この厚生省ミレニアムプロジェクトの実施が決まったら、非常にバカデカイ話になるそうです。村上氏曰く「ある意味で、工場のようなものですから、解析や情報・検体の保存もプロジェクト独自でやる体制をつくることになるかもしれない。今、そのスペースを検討中」だって・・・。
 国循ですらいう、厚生省が計画いているバカデカイ話は、生体試料提供者である一般生活者にどのように伝えられ、どのような手順で進められるのでしょう。
 なんか、頭がくらくらしてきました。
 今までも、着床前診断や出生前診断など、先端医療技術を利用することに対して、情報公開と一般生活者を交えた議論をすることを各方面に要求してきました。
 しかし、またまた、山のような問題を残したまま、どんどん、事はすすんでいます。
 あ〜ぁ、とため息をつきながら、あきらめることなく、ひつこく、「おかしい、どういうことやねん、私はいやや」と言い続けなければならないと、新年を迎えて、思っているのです。
 説明会の最後に、「今後もこのような説明会を開いてもらえるか」の質問に「う〜ん、どうでしょう。このような会はとても緊張しますし、疲れますからねぇ」と答えた村上氏。何を聞いてもすらすらと答えていた彼も、疲れていたのか・・・・・。 

−「優生思想を問うネットワーク」の会報より転載−




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