古川勝也 こんにちは、古川喜大(よしひろ・6才)の父親です。生後4ヶ月で心臓手術をし、在宅酸素治療を長い間していましたが、今は元気な悪ガキです。春から小学生、ほんまかいなという感じです。 そんな喜大ですが昨年末、「忠臣蔵」を演じるイベント「子ども歌舞伎」という舞台へ出演しました。 私の住む山科では、大石内蔵助ゆかりの地として毎年12月14日に山科区をあげて「義士祭り」が盛大に開催され、赤穂浪士のいでたちの大人義士隊、子ども義士隊、子ども音楽隊、消防士たちの吹奏楽団等の大行列が町を練り歩きます。その一環として、「子ども歌舞伎」は大石神社境内で開催され、区内の幼稚園児から選抜された3〜4名だけの園児が出演します。 これまで「子ども歌舞伎」の事は知ってはおりましたが、私はまったく興味もないし、ましてやダウン症の喜大には何の関係もない事と気にも留めていませんでした。ところが、機会均等にといちおう喜大も園からオーディションに呼ばれテストを受け、なんと、所作や言い回しが独特の雰囲気を掴んでいるとして、うまくしゃべれもしないのに異例の抜擢となりました。歌舞伎の劇そのものへの出演ではありませんが、トップ・バッターとして1人最初の舞台に上がり、口上を述べ見得を切るという重要な役目です。 雅楽をしている妻の影響もあるのか、よしひろは和モノが大好き。NHKの能、狂言など伝統芸能の動画を毎日何時間も見ている変わった子どもです。神仏も大好きで、本屋の仏教フェアなんかの山積みされた仏像の本のコーナーを通りかかると、座り込んでお経を唱え始めます。扇子を一本与えると急に「なんば歩き」をしながら舞い始めたりもします。 そんな個性が認められ採用されたのはいいのですが、とても厳しい稽古が待っています。ダウン症だからこの位の出来で仕方ないか・・・という事はなく、真剣に稽古を付けて頂きました。私はビデオでお稽古を見たのですが、最初の頃はへなへなで、セリフはおろか、ちゃんと座ることも立つこともおぼつかず、こらやっぱりあかんわと思いました。園や関係者の方に迷惑がかかるのでは・・・と心配したのですが、先生方の熱血指導と家での「かげ練」の成果が出て、短期間で見る見る上達していきました。しっかりした健常のお友達は昼夜の猛練習で泣き出すことがあるのですが、喜大は泣きません。怒られてもにらみ返すような目で食らいついていきます。 そして本番。控え室ではさすがに喜大も大舞台へのプレッシャーを感じているようでした。失敗してもええやん、と覚悟を決めていた親も気が気でありません。へたりこんでしまわへんやろか・・・。場内のしんとした空気の中、かみしも袴姿の喜大が花道から拍子木を打ち鳴らしながら登場。動作、セリフ、見得、今までで一番の出来でした。大勢の観客の方もひとりひとり固唾を呑んで見守って頂きました。事前に新聞に載ったことで友人・知人が公演に駆けつけてくれたり、何人もの見知らぬ障がい者の方もお見かけしました。「ぼく、ようがんばったなあ」と終幕後声をかけてくれた人もいました。 トライアングルのクリスマス会でも披露させていただき、場が子どもを育てるということを実感しました。小さな喜大が動かした大きな出来事ですが、そんな支えてもらえる環境があればこそです。 本当にありがとうございました。 |