京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(2000年10月号 掲載)

「いでんいんふぉめーしょんUP SHOP」の御紹介

巽 純子   

<「いでんいんふぉめーしょんUP SHOP」の名前の由来>

 「いでんいんふぉめーしょんUP SHOP」というのは、なんだか意味不明の名前だなんて思われる方も多いと思います。 最初に日本ダウン症ネットワーク(JDSN)委員会の設立の経緯を簡単に説明して本題に入ろうと思います。JDSNホームページ(http://jdsn.gr.jp)は、ダウン症に関する情報の提供を目的に、 1995年7月にインターネット上に開設されました。さらに、親や兄弟姉妹と各領域のダウン症に関連する専門家(小児科医や療育の専門家、言語療法士や心理指導員、障害児教育者など)が学際的に協カし、1996年12月に日本ダウン症ネットワーク(JDSN)委員会(委員長:武部啓(当時は京都大学医学部教授))を設立しました。現在、JDSN委員会(2000年9月現在のメンバー数:161名)はJDSNホームページの企画、編集を行い、国内の親、親の会、専門家、機関の情報ネットワーク化を行っています。この委員会は、また一般の人々に対してダウン症に関する正確な情報の提供と社会啓発をすることも目的としています。

 その1つとして毎年1回日本ダウン症フォーラムを各地で開催しています。フォーラムはどちらかというとダウン症を持つ当事者を前面に出した取り組みですが、さらに多くの人々に、障害を持ってうまれてくることが特別異常なことではないことを生物学的な知識を元に理解してもらおうと言う取り組みが、「いでんいんふぉめーしょんUP SHOP」の展示です。「いでんいんふぉめーしょんUP SHOP」は、主に遺伝や染色体の変化に関する知識の普及と啓発広報を進める情報センターの役割を持っています。

 私は、JDSNの活動を通して、はじめてダウン症のお子さんを持った方からダウン症って何?原因は?と聞かれることがよくあります。説明をするたびに染色体や遺伝子について、一般の人がいかに知らないか、また、知らないことによる、偏見や差別があること痛感してきました。そこで、そのような情報を必要としているより多くの人や一般の人々(コンピュータを使える環境にないごく普通の人)にも気軽に情報が手に入る「店」を開設したいと考えました。その発想の元となったのは、イギリスのマンチェスター空港内に人々が気軽に立ち寄れる「ジン・ショップ(gene shop :遺伝子の店という意味)」です。そこでは、遺伝子や遺伝性疾患に関する情報(遺伝学についてのみでなく、その背後にある人権や倫理問題、福祉サービス、遺伝相談できる場の紹介などを含む)を提供する「店」が、EUの出資のもと運営されていました(武部啓JDSN委員長の報告)。近い将来、出生前診断が簡便に精度よく行われたり、個人の遺伝情報が簡単にわかる時代が来ることが想定されています。そうなると、遺伝子による人権侵害、差別が行われないとも限りません。そのような倫理的な問題はすでにダウン症など、出生前診断でわかる染色体の異常の疾患について論議されていますが、なかなか一般の人々には身近な問題とは考えられていません。しかし、実は根本的な問題は同じです。

 そこで、ダウン症をはじめとする染色体の変化による障害や遺伝性の疾患について、また一般的に遺伝とは何か、遺伝子とは何か、生命とは何か、遺伝学的な諸問題、だれもが遺伝子の変異を持っている、遺伝をタブー視しないようにPRするための、しかし難しくなく、平易なもので気軽に見てもらえる展示スペースを「店」として開設しました。その名前はダウン症ネットワークの運営する店ではありますが、一般の人々の遺伝に関する意識がUPする期待を込めて「UP SHOP」と名付けました。

<お店での展示内容>

 お店では、以下のような内容のパネルを用意して、オリジナルキャラクターの「キンメラーちゃん(絵は中2の長女の瑛理がコンピューターグラフィックで描いてくれました、名前は三女の5歳になる晴香がキメラをもじってつけてくれました)に進行役をしてもらっています。

    1)いでんいんふぉめーしょんUPSHOPとは?(プロローグ)
    2)生命の情報の流れ(横の流れ:情報の発現=個体を作る、縦の流れ:情報の伝達=遺伝)
    3)遺伝子ってどこにあるんだろう?(モデル的細胞の内部の絵)
    この先、4)から13)までは縦の流れについてのパネルです。
    4)どうやって子どもに遺伝情報が伝わるんだろう(生殖細胞の分裂)
    5)性の決定:男と女はどうしてできるの?(生殖細胞の形成)
    6)同じ親から生まれたのに、どうして違うの?(染色体の組み合わせは64兆通り)
    7)ヒトの染色体の核型
    8)染色体の変化と遺伝子の変化
    9)鎌状赤血球貧血症について(遺伝子の変化の例)
    10)だれでも平均的に4個から7個の生命に重大な影響をおよぼす結果になる遺伝子の変化を持っている
    11)みんな何か遺伝病の保因者なんです。
    12)多因子遺伝病とは?(ひとつの遺伝子の変化だけで病気にはならないものが多い、例えば生活習慣病など)
    13)遺伝子ばかりで決まらない(遺伝子によらない、環境にも依存)
    この先、14)から20)までは横の流れのパネルです。
    14)DNAの構造(アデニン、シトシン、グアニン、チミンのつながり方)
    15)DNAamRNA(メッセンジャー)atRNA(翻訳)aアミノ酸への流れ
    16)どうやってDNA(設計図)からタンパク(からだの部品)は作られるのか?
    17)遺伝の暗号のしくみ(メッセンジャーRNAは3文字でできている言葉でアミノ酸のそれぞれを表している)
    18)アミノ酸をつなげてタンパクを作る
    19)ヒトは身体を作るための設計図として全DNAのうちたった3%しか使っていない
    20)遺伝子とは?(エンハンサー、プロモータ、エクソン、イントロンのしくみ)
    パネル21)から23)まではまとめです。
    21)かけがえのない地球の上で生物はダイナミックに形を作ってきました。
    22)地球1年暦(地球の誕生から現在までを1年に表すと、人類の出現は3時間15分前でしかありません
    23)まとめ
その他のトピックスとして遺伝Q&A、新聞記事、遺伝子治療のことなどをパネル展示しました。

<過去二回の展示>

 第一回:平成12年5月11日(木)?22日(月)
     京都市左京区一乗寺「ギャラリー ホーリーランド」
 第二回:平成12年8月4日(金)?6日(日)
     京都市中京区丸太町七本松京都市生涯学習センターアスニー
 第一回は、約100名の見学者、第二回は、約120名の見学者がありました。(なお、これらの展示に関する費用は、三菱財団より福祉研究助成金を受けて行いました。)



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