京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(2014年10月号 掲載)
視力と視機能について

 

林彩純:中学一年生 母 林純子

 彩純は今年の4月、地元の中学校の育成学級に入学し、元気に通学しています。弱視の彩純にとって、とても良いと思える出来事がありましたのでご報告をさせて頂く事にしました。同じように視覚に問題がある方の少しでも参考になれば嬉しいな・・・と思います。
 
 「生まれてから一度も明瞭に見えたことがないので、見えるということがわからないのです。ご両親の顔もはっきりとはわかっていないでしょう。」これは、4月に盲学校の指導支援の先生が彩純の中学校に来てくださり、支援のために視覚テストをされた結果、私たちに伝えられた言葉です。これを聞いた時、ショックな気持ちと、心のどこかでそうかもしれないと思い続けてきた疑問が晴れた気持ちとがない交ぜとなり複雑な心境でした。
 
 彩純は両眼が先天性白内障で生まれました。右眼は生後2ヶ月で手術。濁った水晶体を除去し、ハードコンタクトレンズをいれています。左眼は5年前、小学校2年生の時に手術をし、こちらはコンタクトではなく眼内レンズを縫い付けました。水晶体を除去したということは、眼のレンズがないわけで焦点が合わなくなり弱視となります。そのレンズの代わりがコンタクトであり、眼内レンズなのです。
 
 彩純の眼がどんな風にみえているのか?これまで3回病院を変わり、そのたびに先生に聞いてみましたがはっきり応えてくれた先生はいませんでした。先生にも、水晶体を除去したらどんな風に見えるのかは、医学的に焦点が合わないことはわかっていても実際の見え方はわからないのです。なので、焦点を合わせて見ることが出来るか、視力が出るか、最初の手術以降定期的に診察・検査を受けてきましたが、彩純が理解して視力検査を受けることが出来るまでには時間がかかり、実際に数値で結果が出たのは小学校に入ってからでした。
 
 年に何度か検査を受け数値に変動はあるものの、左眼の手術以降の検査で彩純の視力は両眼で約0.4。近くは見えているし先生が動かすペンライトの明かりにも反応して眼球が動くので、追視もできていて視力・視野ともに問題ないと言われ続けていました。この結果に毎回安心する一方、日常生活で見る彩純のちょっとした気になる行動に「もしかしたら、本当はよく見えていないのでは・・・」との疑問を感じながらも、視力検査の結果なのだから見えているのだと思ってこれまで過ごして来ました。
 
 でも・・・、やっぱりよく見えていなかったのです。では視力検査の結果は何? 彩純はいったいどんな風に見えているのか? その答えが、今年の8月にハッキリとわかりました。
 
 彩純と同じように弱視の子供さんを持つ私の友人が、大阪にはビジョンセラピーを行っているところがあると教えてくれたのです。
“どんな見え方をしているのか。よく見えないことでどんな困りごとがあるのか”それを調べて指導や訓練をしてくれるのです。盲学校の支援のことも、この友人が教えてくれました。ずっと知りたくて知る術がなかったこと。すぐに予約をして8月に受診をしてきました。そこでは、これまで病院で受けて来た通常の視力検査に加え、色々な種類のテストを休憩を挟みながら丁寧に進めてくださり、約1時間あまりじっくりと調べてくださいました。
 
 結果は、*視力*眼球運動能力*両眼視機能*視知覚*眼と手の協応動作にわかれており、そのいずれもが5段階の評価で表され、彩純はすべてが最低で、出来るだけ速く対処・支援を行う必要があるとの報告がされました。視力は確かに0.3〜0.4ですが、相応の視機能がなく1点を見つめるのが難しい。ゆっくり動くものを追視したり目線をすばやく動かす能力が弱い。両目のチームワーク力が弱い。視覚情報にあわせて、手や指を操作する活動が苦手。図形や文字を正確に捉え、書き写す力が弱い。など、詳しい評価説明を受けました。
 
 これまで、ふらふら歩いていたのは脚力が弱いのではなく、視覚が定まらなかったから。国語の授業でひらがなや漢字を正しく書き写せなかったのは、注意力が欠けていたり雑に書いていたのではなく、そう見えていたから。例えば、「馬」の横線を三本書いたり点を五つ書いたり、文字のバランスが悪いのも彩純にはそう見えていたからなのです。教具などが上手く使えないのも眼から入った情報が上手く処理されないためで、指先が不器用なだけが原因ではなかったのです。
 
 これまで、視力が文字通り見える力だと思っていました。でも実際にはそうではなかったのです。発達の過程で「見る力」が適切に身についてこなかったために視力相応の機能が出せないのです。通常彩純が受けている視力検査は、先生が図形のカードを持っていて、それと同じ物を選べば見えている。例えば○なら、彩純にはそれが楕円に見えていても、線が波打って見えていても、同じカードを指し示せば視力は出ていると判断されて来たのです。この評価報告に、正直言って唖然としました。やっぱり・・・の思い以上に、これまで彩純が、学校や家・外出先でいかに頑張ってきたかがよくわかり、本当に申し訳なく胸が痛みました。
 
 今、彩純は近くの見えにくさを少しでも軽減するために3ヶ月の試用期間で眼鏡をしています。効果のほどはまだわかりませんが、これまで机に突っ伏して文字を書いていたのが眼鏡をすることで顔が机から離れ、見えやすくなったように思います。何より彩純が眼鏡を嫌がらず嬉しそうにかけているのでホッとしました。また、視機能を少しずつ高められるように遊び感覚で訓練できるキットを貸してくださり、家でやっています。
 
 学校では、盲学校の先生が視覚は姿勢の矯正でも改善されるとのことで、立派な書見台を作ってくださり、椅子への座り方の工夫を担任の先生に指導してくださったりと、定期的に学校に来て様子を見ては、その都度教具の改善など少しでも彩純の状況が良くなるように工夫をしてくださっています。担任の先生方もとても真摯に取り組んでくださり、彩純は今すごく良い学校環境で毎日を過ごせています。“見えるということがわかっていない。”と言われた時はショックでしたが、知らなければビジョンセラピーも受けていず、疑問を感じながらも見えていると思って彩純に頑張らせ続けていたと思います。
 
 彩純は盲学校の先生が大好きで、学校に来られたら帰られるのをあの手この手で阻止しているようです。好きなピアノも眼鏡をはめて以来、楽譜に顔を近づけて音符を読むことが少なくなり、少しずつですが状況が改善しているように思います。これからは本当にゆっくりゆっくり、彩純らしく進んでくれたらと思います。眼鏡をかけた彩純もとても可愛いです!
 

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