京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)会報


(2018年10月号 掲載)
待望の自立生活を始めました。2

佐々木 和子

 体調が落ち着いてきて元治が再び一人暮らしを言い始めた時、私は挑戦するのも良いかも、と思ったものの、実現するためには何からどうすれば良いんだろう?状態でした。部屋を借りて、ヘルパーさんをお願いしてetc.、でも、ヘルパーさんはどこに頼めばいいんだろう?ガイドヘルパーさんは二十歳前から利用していたけれど、居宅となると何処に頼むのかもわかりません。部屋もダウン症の元治に貸してくれるんだろうか?
 
 総合支援法を利用しての生活になることくらいはわかっていたので、とりあえずは障害区分認定の申請のため福祉事務所へ行き、ついでに、自立生活するための練習をしてくれる所は?と聞いたら「ショートステイ」とのことで短期入所の時間をくれることになりました。が、私はショートステイが自立の訓練にはならないだろう、と思っていたので、「いえいえ、そうではなく、買い物行って、調理をして、掃除の練習を」「う〜ん、連続した支援はねぇ」「連続した支援のためにガイヘルの拡大解釈は?」「大元に言ってもらわないと、ここでは・・」で終了。
 
 あかん!どこか別の所に相談しなくては・・。
 日本自立生活センター(JCIL)が重度身体障害者を施設から地域生活への移行を支援してきたのは知っていましたが、知的障害者の地域での自立生活支援をしているとは耳に入ってきていませんでした。そろっと「元治が一人暮らしをしたいって言ってるんだけど」と言ってみたところ、即、「自立体験室があるからやってみたら」との返事。あんまり簡単に返事をもらえたので、ちょっと引き気味になった気持ちを奮い立たせて具体的な相談に入りました。
 
 まず釘を刺されたのは「自立生活を決めるのは元治さん。何をどうしたいかを決めていくのも元治さんです。お母さんではありません」。JCILが当事者主体で活動してきた歴史は知っていたし、その活動に準じていきたいと常々思っていたし、自立生活はそうであるべきと思っていたので、うなずくことしきり。その後、支援の担当責任者に廣川さんが決まり、本格的に自立に向けて動き出しました。
 廣川さんは元治の小・中の同級生のお兄さんで、元治のことも知っていてくれていました。以前、ピープルファーストで出会っていたこともあり、元治も安心したようです。練習する部屋を元治と廣川さんと私とで見学。元治はもう明日からでも一人暮らしができそうな顔をしてルンルン。
 部屋の説明、これから進んでいく生活の説明など、元治に向かってとても丁寧に説明してくれました。
 
 一回目の練習は2017年10月31日。
10時に自宅まで迎えに来てくれ、帰ってきたのは16時30分。
 
☆連絡ノートより抜粋
昼食に佐さん(元治)はお弁当を希望。買い物をして部屋へ。部屋の中の物を確認、佐さんはお茶をわかし、コップとお箸の準備、食後は洗い物、台拭き、目薬を入れて、掃除機かけ。帰りにカラオケ。
 
 ◎今日、ちょっと大変だったこと
佐:ないんやな〜
廣:カラオケで通路にバケツが置いてあった。僕は気づくのが遅れて佐さん、けとばしてしまった。こぼれなかったけど、ゴメンナサイ。
 
 ◎今日、おもしろかったこと
佐:廣川さんのお喋りがおもしろかった。
廣:僕もおしゃべりがおもしろかった。同級生の思い出話になって、僕も何人か思い出した。フジタマコトくん・・いたかな〜?と思ったら、仕事人(テレビ)だった。時間差でわかって、ウケた。
 
 ◎母の感想
いよいよ始まった元治、自立に向けた体験。本人はやる気満々で今日を迎えた。
すぐにでも一人暮らしができそうに張り切っているが、できないことはできなくてOK。できることを積み上げていけば何とかなるかも、と期待している。今日はとても楽しかったと嬉しそう。でも、肩が凝ったと消炎剤を塗ったのがおかしい。
良い緊張だったのではないか。初めから楽しいだけではあかんやろ。
 
二回目は11月21日。二回目なので、部屋で過ごすのも慣れている様子。
カレーを作ったので1時間かかり、食べるのが15分との記録。
この時点で「この調子だと、早い段階で自立生活できそう」とのことで、暖かくなったら宿泊の練習をしようということになりました。
 
三回目は12月19日。四回目は2月27日。次回は宿泊の練習というところで、元治と廣川さんで「こんどは自立体験室に泊まる」いろいろ相談して決めよう!
 
☆記録より抜粋。
3月19日(月)ドラムの練習の後、自立体験室へ。
廣:晩ご飯は、何を食べようかな?
佐:ラーメンは どう?
廣:いいなあ! ラーメンの材料は何があるかな?
佐:めんと、焼き豚(チャーシュー)、もやし、ゆで卵、ラーメンのスープ、メンマ、ネギ。
廣:こんなもんかな?
佐:今度は、おかずなしで、ラーメンだけでいい。デザートは何にしよう?
廣:スーパーで果物のところを見に行って、その時の気分で選んだらいいんちゃう?
佐:ウメッシュは?
廣:いいんちゃう!?
佐:コップにいれてなー
廣:半分こしようか
佐:ウメッシュ飲んだら、お水のむ。ビールは?
廣:ビールでもいいよ◎
佐:おつまみも いるなぁ!
晩ご飯の後の過ごし方(お風呂も入って)、朝ごはん、片付け、洗濯、掃除、昼ご飯は食べてもよし、帰宅まで決めて、相談終了。
 
 ◎母の感想
佐々木家の晩酌がまるわかり、の会話で笑ってしまった。こんな風に常に元治が決められるように会話をしてくれているのがとても嬉しいです。。
 
 ◇ここで、母はハタと考えた!
自立体験室が遠すぎて(車で30分はかかる)、「もし、夜中にSOSが来たら・・」
どうせ自立生活をするんだったら、自宅近くに部屋を借りて自室で練習するのがいいのではないか、と思い切ることにしました。実際、一人で寝られるようになるのに2ケ月かかったので、この判断は大正解ということになります。失敗するかも、は想定内だったし、失敗を恐れてはこの計画はありえないですもんね。
 
 宿泊訓練は自室ですることを廣川さんに伝え、そうだね、ということになり、部屋探し。京都は学生の街だし、左京区には、京大や府立、同志社等がありワンルーム満載で、不動産屋は乱立状態ですが、はたして障害者に親切なんだろうか? 用事で出かけた時、不動産屋があったのでフラっと入り、「障害があるんですけど一人暮らしをするのに部屋はありますか?」、窓口にいた若い男性は少し探してくれて物件をプリントアウトし、上司に相談。なぜか、上司の指示でどこかに電話をし、返事の様子からトラブルのあったことを聞いている様子。電話を切って、やんわりと「ここは学生専門なので」と断られた。ああ、やっぱり、一筋縄ではいかないんだなぁ、と。特に怒りはなく、予想通りという感じ。そのことを廣川さんに伝えたら、「僕が何軒か行って感触の良い所を見つけてきます」とのこと。こういう支援者に出会えることが元治の運の強いところかもしれません。
 元治は体験室での練習を始めてから「僕の部屋は?」と聞くようになっていました。あまり待たせては時期を失いそうと思いながら、廣川さんの結果待ち。
 
 今出川通りにはホントにたくさんの学生相手の不動産屋があり、廣川さんはとりあえず3軒当たり、不愉快な2軒を外して一番感触の良かった京都ライフに3月15日に行きました。ここはとても親切に対応してくれて、「自宅から歩ける範囲で1階、ダウン症で35才、ヘルパーが毎日来ること」等の条件で、オーナーに電話を掛け、交渉を続けてくれました。何軒断られたか、数えてなかったのですが、4、5軒は断られたでしょうか。内覧まで行った所も契約をする日に断られ、次の物件でようやく決まりました。元治の足で歩いて15分はギリギリだったけど、金曜日の仕事先に近かったし、内覧した部屋より明るくて結果オーライでした。
 
 部屋が決まると、契約、入居日の決定、家具や日用品を揃えるなど、超忙しくなりました。日用品って、普通だったら引っ越してから揃えることもできますが、入居後、即、初めてのヘルパーさんが来て、晩御飯を作り、お風呂に入り、寝る、をやるわけですから、やっぱり迷惑の掛からないようにと思うじゃないですか。
 
 細かい日用品をそこそこ揃えるって、買っても、買っても、あっ、あれ足らん、となるのです。100均で15,000円買うって、何買ってんのん、ですよ。洗濯ばさみからクリップ、小物入れまで、きりがないのです。便利グッズ等種類の多さも感動ものです。ニトリにコーナン、D2とはしごをしての買い物を続け、揃えていきました。元治が付き合った日もありますが、目まぐるしく買い物をするものだから、ゆっくりと元治に確認なんかしてられません。
「元治さんが決めるのです」という釘が抜けてしまった日々でした。
冷蔵庫、洗濯機、電気釜はリサイクルです。さすが、学生の街、3月になるとリサイクルのお店には選り取り見取りに並ぶのです。
こうして準備を進め、いよいよ自立生活をスタートさせました。

つづく


会報No.198のindexへもどる
会報バックナンバーのindexへもどる

homeへもどる