京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)データベース


ダウン症を考える


(1995年2月号 掲載)

「青年期・成人期ダウン症者の心理的変化」について

佐々木和子   

 1月28日、東京こやぎの会のヘルパーワラ研修会で「青年期・成人期ダウン症者の心理的変化」をテーマに講演会があり、参加してきました。元気に過ごしていたダウン症の人が10才台後半〜20才台前半に突然、元気をなくしてしまうという大変、気になる内容でしたので皆様方にご報告したいと思います。講師は東京学芸大学特殊教育研究所の菅野敦先生です。今回のテーマの研究はまだやり始めて日が浅く、現状では問題提起されている段階で、原因が解明されているとか、治療や予防の方策がみつかっている訳ではないということを理解していただいた上で参考にしていただきたいと思います。

 菅野先生の所に相談に来たダウン症者の症状は、失禁、会話の減少、独り言、不眠、動作緩慢、食欲不振、情緒不安定、作業低下などで、発症年齢は10才台後半〜20才台前半。この突然の『元気喪失』は早期老化か?と外観的老化徴候測定検査用紙を用い20〜50才、40名を対象に調査した結果、(白髪など)25名が外観上はまったく老化徴候がみとめられず、また30才台までは外観上老化徴候は少なかった、ということで老化と考えるには年齢が若すぎるのではないかという結論に達した。

 それではどうしてそうなってしまったのか。ダウン症候群の行動特徴から考えてみると、まず学校生活で困った性格、行動では、心身両面で「疲れやすい、集中力、持続力にかける」という課題があるが、疲れやすいため「気の向かないことは続かない」「すぐに飽きてしまう」等の課題が生じると考えられるのではないか。また一方で「理解力の弱さ」がある。そこから、行動面での「取りかかりが遅い」「一斉指示では理解できない」「ルール遊びに参加できない」等の行動が引き起こされるのではないか。さらに「気持ちの切り替えがうまくできない」「がんこ」という印象をうけるのではないか。友達との問題もこの「理解力の弱さ」と少なからず関係があるのもと考えられる。どの行動も、養護学校に通う子どもより普通学級の子どもにおいて問題があるとされた。従って、問題行動とは、知的能力よりは、その子がどのような環境に属しているかによって異なるものと考えられるのではないか。

 次に大人になって困った性格、行動では、「決められたことに遅れたり、さぼったり」「指示や要請、命令にしたがうことを拒む」ことがあるとされている。しかし、これはもともと動作の遅い彼らの行動特徴を反映したものかもしれない。そのような彼らの体力的問題や理解力の問題を考慮に入れずに接していくとどうしても「指示や要請、さらに命令」が多くなってしまう。日常場面で「はやく、きちんと、しっかりと」がなかなかできず黙って立ちすくんでいると「引っ込みがちで、はずかしがり」「欲求不満をうまく処理しない」ととられるか「(反抗的で)従うことを拒んでいる」「注意を素直に聞かない」と受け取られるのではないか。

 これらの特徴は、ダウン症候群に特別に備わった性格、行動というより、このような(体力や能力の)状態で、それ以上に要求される環境に置かれたり、立場に立たされたら、誰でも、もちろん私達でもとる行動ではないでしょうか。

 突然『元気喪失』した人たちの生活を聞いてみますと、環境が変わったり、学校の中で先生とうまくいってなかったり、家庭の中で孤立していたり、仕事が厳しかったりと『元気喪失』になるきっかけではないかと考えられることがありました。しかし、どんなにストレスのある環境におかれ、そのなかで特定の行動パターンを採る傾向があったとしても、突然『元気喪失』し、様々に症状が複合して出現すると考えるのは非常に乱暴な考えです。ただ、他に考え得る原因や、気持ちを癒す糸口が浮かばなかったので、周囲の人たち全員が次に上げる「4つの心得」を持って接することにしました。
1)本人の意思を無視して強要したり、むやみに制止しない。
2)発達水準は低くとも、大人として本人のプライドに配慮し接する。
3)作業所では厳しい指導や処遇を改め、能力に応じた作業目標をたて、対応する。
4)余暇の時間を位置づけ、音楽を聞くことなど本人が好きな活動に積極的に関わらせる。
 その結果、改善の方向に向かったように見えました。みんながみんな改善したというわけにはいきませんでしたし、時間も年単位で取り組んでいきました。整備したのは、活動面では仕事の量を配慮し、対人面では基本として母子関係(幼児期とは違う密なかかわりが大人になっても必要)、兄弟の関係、生活面では余暇の利用の仕方、指導、課題の遂行により達成感、目的意識、効力感(計画→実行→結果)を持つ等で、情緒面の改善から入って動作面の改善へと移っていく順序で取り組みました。また、医学的治療として最低の薬物療法を用いる場合もあります。

 以上の例を参考に成人ダウン症者の生活の原則を作ってみました。
1.慣れ親しんだ人や場には、急激な変化を加えないようにしましょう。
2.やり慣れて得意なものは、今後も継続してできるようにしておきましょう。
(日記、電話、旅行、発表、勉強等身についたものは常にやり続けておきましょう。)
3.毎日の課題は、ある程度一定に保ち、決まった活動は繰り返しさせるようにしましょう。
4.その人に必要なことは、簡単にパターン化し、目の前に示しながら、繰り返し丹念に教え続けましょう。
5.よりよい刺激や経験は、少しづつでも絶えず与え続けましょう。
(生活の中で人との関係を重視し、話かけること、仕事や手伝いなどの活動、リクリエーション等を、これまで身につけてきた能力、馴染みのこと、体験したことへの刺激として絶えず与えましょう。)
6.家庭の話題の中にいつも参加させましょう。
(本人が一人でいたい時間と、やむをえず一人にしている時間とを区別し、孤独に放置したり、寝込ませたりしないようにしましょう。)
 以上がいただいた資料と講演内容をまとめたものです。お話の中で、突然「元気喪失」するダウン症候群のタイプとして、とても生真面目でなんでもに一生懸命取り組むタイプが多いというもの興味深かったところです。ダウン症候群としての行動特徴をしっかりと持ち、余り真面目でなく、なんでもにあまり一生懸命に取り組まないわが子は将来どんなふうになるのかはなはだ混乱してしまった半日でした。しかし、大変、重要な問題提議でもあったと思います。これからも継続して情報交換していきたいと思います。


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