■素晴しき体外離脱の世界■By ラジャ・ライオン
 
 誌上で何度か話題になっている体外離脱現象ですが、その多くはいまだ
不可思議な超常現象として捉えられているように思います。
 ですが私は自身の体外離脱体験から、それが誰にでも起こり得る日常的
な現象であると確信しています。しかもこれほど楽しく安全で金もかから
ない娯楽は他にはありません。
 ではそれ程までに素晴らしい娯楽としての体外離脱とはどんなものなの
か、私の体験を通してその全容を明らかにしたいと思います。

 私は中学生になった頃から就寝中によく金縛りに遭うようになりました。
初めて金縛りに遭った時は恐怖でパニックに陥り、声が出せないので頭の
中で必死にでたらめな念仏をくり返し唱えるだけでした。
 しかし何度も経験するうちに、動かない身体のまま電源を切り忘れたラ
ジオの笑い話に耳を傾け、心の中で爆笑するという余裕さえでてきました。
 そして唯一動く眼で周りを観察するうちに面白い事が解りました。たと
えば前の日に取り外したはずのカレンダーが壁にかかっていたり、閉めた
はずの扉が開いていたりするなど、金縛り中に見えるものは実際の状況と
少し違っているのです。
 つまり唯一動かすことができると思っていた眼も現実には閉じていて、
その間見えている映像は、入ってこない視覚情報に代わって脳が記憶から
作り上げた幻覚だったわけです。
 ある日金縛りから覚めたとき、本当は周りを見ることができないうつ伏
せ寝状態だったというエピソードがなければ、私もそれが幻覚だったと気
付くことはなかったかもしれません。幻覚など薬物常習者が見るものと思
っていた私にとってそのことは驚くべき事実でした。
 それから金縛り中にはたびたび幻聴がともないました。大抵は日常でも
よく耳にする扉を開け閉めする音や階段の昇降音などですが、時にははっ
きり友人や肉親の声として聞こえたり、あるいは美しい音楽として聞こえ
ることもありました。かつて金縛り中に聞いたトランペットのソロで奏で
られた「科学特捜隊のマーチ」のクリアな音色は生涯忘れられません。
 そしてそれらの音の特徴は後述する体外離脱体験中と同様、耳で聞くと
いうより頭の中に直接響いてくるという表現がぴったりで、人の声など、
もしテレパシーというものがあればこんな風に聞こえるのではないかと思
ったりします。よく聞く金縛り中に幽霊や宇宙人に遭遇したという話は、
ほとんどこれで説明がつくのではないでしょうか。
 もし金縛りを初めて体験した人が幻覚の自覚もなしに幻覚の人物を見て
しまったら、それを幽霊だと思ってしまうのは仕方ないし、もし異形の者
が何かを語りかけてきたら、それを宇宙人の意志と受け取ってしまうのも
仕方ないでしょう。
 事実私も金縛り中、何度か幻覚の人物を目撃していますが、その人物が
友人や肉親であった場合は彼らが就寝中の私を訪れる可能性の低さからそ
れが幻覚だと分かります。しかし見も知れぬ人物が現れた場合、幻覚だと
分かっていても、もしかしたら・・・と考えてしまって怖い思いをした事
が何度かありました。
 金縛りを体験したことのない人には信じられないことかもしれませんが、
なんとなく幻覚っぽいという以外は幻覚と現実を見分けるのは極めて困難
なことなのです。

 高校生になり、すっかり金縛りが日常になったころ、また別の発見があ
りました。動かないはずの身体が、手の先だけ少しづつ動かせるようにな
ってきたのです。
 始めのうちは動かせるといっても手には殆ど力が入らず数センチ動かす
のもやっとでしたが、次第に腕全体、そして身体全体へと可動範囲が広が
っていきました。
 しかし不思議なことに、どんなに身体を動かしても金縛りが解けた後は
最初に寝ていた時の姿勢に戻っているのです。どうも動かしているのは現
実の身体ではないようでした。
 「幽体離脱」、私はそう思いました。
 肉体とはまた別の、俗に言う霊魂に相当する幽体というものが身体を抜
け出しているのだと当時は本気でそう考えました。
 けれどすっかり身体を抜け出し辺りを散策できるようになったころ、そ
の考えも変 わりました。
 たしかに離脱中の身体はふわふわと宙に浮くし壁もすり抜けられます。
それはまさに人が抱く幽体のイメージそのままで、自分は幽体離脱してい
るのだと錯覚させてくれます。
 ですが離脱中の体験は金縛り中と同様に様々なことが現実と違っていた
のです。
 たとえば自室の本棚の本の配置が変わっていたり、知らない本が置いて
あったりします。またその本を読むこともできるのですが、内容はどこか
で読んだ話のつぎはぎだったりします。
 あるいは居間のテーブルの上に、我が家にあるはずもない大きな釜に入
った炊き込み御飯がおいしそうに湯気をあげていたこともあります。
 自宅を離れ友人の家に行き、友人と会話を交わしたことも何度かありま
したが、後で友人に確認を取っても出会った事を肯定されたことは一度た
りともありませんでした。
 つまり体外離脱体験も幻覚だったのです。
 金縛りの時にすでに体験していた幻視と幻聴に、幻触ともいうべき触覚
の幻覚が加わることで、その幻覚の世界に驚くべきリアリティーをもたら
したのです。超リアルな幻視の中で自分が見たいものを見、自分が触りた
いものを触ることができたなら、それを幻覚と考えるより体外に離脱した
特別な体験と考えるのは自然な事といえます。
 幸い私は金縛りから段階を踏んで何度も体外離脱を体験することができ
たので、その過程ですべての事が幻覚であると自覚することができました。
しかしもし金縛りの体験もなく一度か二度の体外離脱体験しかなかったな
ら、それを幻覚だと自覚するのは不可能だったでしょう。

 最近は金縛りは入眠時レム睡眠が引き起こす症状で、脳は起きているが
身体は眠っている状態というのが定説になっていますが、体外離脱・・・
正確には体外離脱感現象というべきこの現象もその延長線上にあると私は
考えます。
 つまり金縛り中、身体は眠っているため実際には眼を閉じているのに、
脳は起きているためそうとは認識せず、眼を開けているとの認識のもと入
ってこない視覚情報に代わり自身の記憶から視覚情報を再現し、動かない
身体に代わって動く身体と触覚を記憶から再現しているのです。しかし本
来は骨と筋肉でしっかり受けとめなければ得られない地球の重力感だけは
再現できないのか、離脱中は独特の浮遊感を伴うことになります。
 まあ体外離脱感現象のメカニズムについてはあくまで私の仮説で科学的
根拠は何もなく体験にもとづいた憶測にすぎません。ただ私が主張したい
のはこの現象がオカルト的要素のまったくないタダの幻覚だということで
す。
 そして幻覚と分かった以上その世界でおおいに遊ぶことを提唱したいの
です。なにしろ幻覚なのですからその世界では何でもできるのです。
 たとえばその世界では空を自由に飛ぶことができます。民家の屋根から
屋根へと飛び移り、ビルの屋上からダイビングし、美しい街並を遥か眼下
に見下ろしながらの遊覧飛行は現実世界では決して味わうことのできない
至福の時間です。ただ飛ぶには多少のコツがいり、ときには落下すること
もありますがもちろん死にません。
 現実世界ではしばしばハンググライダーなどの超軽量エアプレーンの墜
落事故が報じられたりしますが、高いカネを払ってそのあげくに墜落死で
はやりきれません。私は空を愛するすべての人に体外離脱を薦めたいです。

 それからこれが一番重要なことなのですが、幻覚世界ではなにをしても
いいのです。
 超リアルな幻覚世界の超リアルな美少女をゴーカンしても現実世界で裁
かれることは決してありません。幻覚世界の警官に追いかけられたことは
ありますが、武器が欲しいと念じればたちまち手には鉄パイプが現れ、次
の瞬間超リアルな手応えとともに超リアルな血を流して警官は倒れていま
した。
 幻覚世界の私は無敵です。ケンカは連戦連勝で対戦相手は皆リアルな血
肉を撒き散らして倒れて行きます。この世界では私は痛みを感じないとい
うのも無敵の要因の一つですが、何より自分は無敵だと思い込むことで状
況を有利に運ぶことができます。
  幻覚世界は現実世界の記憶をもとに自分が創りあげた世界ですから、自
分の願望に素直に反応します。無敵でいたいと思えば無敵でいられるし、
プラス思考でいる限り世界はどんどん居心地よくなっていきます。
 しかしその反面、恐怖や弱気などにも敏感に反応し、よくないことが起
こると考えれば必ず考えた通りのよくないことが起こるので、この世界で
はいつも迷うことなく自信をもって行動しなければなりません。
 私の幻覚世界での最大の楽しみは美少女をゴーカンしまくることですが、
ある時、この少女は男かもしれない・・・と思ったばっかりに私のよりも
立派なイチモツを拝むはめになったこともありました。
 えっと・・・それから、さっきから血肉を撒き散らすだとか美少女をゴ
ーカンだとか、読んでて不快になった方もおられるかもしれませんが、こ
れはあくまで幻覚世界での話だということをご了承ください。
 私はもちろん現実世界でそのようなことをしたことはないし、しようと
も思いません。暴力で人間の人格を踏みにじることは人として最低の行為
であると私は考えます。
 ただ・・・まったく願望がないわけでもないので幻覚世界にこのような
形で表れるのです。もっと想像力のある人ならこの世界をメルヘン調にも
SF調にもできるのかもしれませんが、私には暴力とSEXの欲望を満た
してくれるだけでこの上ない至高の世界となるのです。
 なによりこの世界のSEXで得られる快感は現実世界の比ではなく、延
々と終わらない射精が続いているようなオーガズムといえば男性には解っ
てもらえるはずですが、これを体験すると現実世界のSEXなどカスに思
えてしまいます。 
 そして驚くべきは幻覚世界では性転換も可能で、私自身が美少女になっ
たこともあるのです。鏡に映った長い髪の可憐な少女が自分だと解った時、
今まで醜い男でいたことが幻覚で、これが現実だったらよかったのにと思
ったくらいです。
 もちろん身体がどうなったのか興味のあるところですから股間に手を触
れてもみましたが、いつもそこに存在するはずのモノはなく、代わりに小
陰唇や陰核まで再現された女性のモノがありました。ただ残念なことに陰
核に触れても膣の奥まで指を入れてみても、女性特有の快感などはまった
く感じられませんでした。
 しょせん幻覚は自分の記憶の再現なのですから、女性になったことのな
い私が女性独自の触覚を再現するのはやはり無理だったのです。
 ともあれこのように体外離脱(感現象)には多くの可能性があります。現
在の私は臭覚や味覚の幻覚も体験しました。まさに究極のバーチャルリア
リティーはコンピューターではなく幻覚世界が実現するのです。

 最後にこれから体外離脱を始めようとする人にコツをお教えしましょう。
 とにかく昼寝の時間をたっぷり取って夜の眠りが浅くなるようにします。
後はうつらうつらしながら金縛りになるの待ちます。
 初心者はさらに重い布団をかぶるとか寝苦しい姿勢で眠るとかして眠り
が浅くなるようにすれば金縛りに遭いやすいでしょう。
 金縛りに遭ったなら、そのままなにも考えないでリラックスしていると、
身体がフッと楽になる瞬間があるのでそこで抜け出してください。慣れれ
ば金縛りを経ずとも抜け出せるようになります。
 では史上最高の娯楽を存分に楽しんでください。

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