シリーズ アナログ印刷(I)

保存版・コロタイプの製版と印刷の実際     記 山口須美男

  印刷の特徴と歴史

  今年5月12日の京都新聞連載の「双曲線」に、“1枚の絵はがきから”の記事の中に、コロタイプ印刷についての特長を説明し,また、それを象徴するような大変的確に示された一文があったので、ここに紹介させてもらいます。

「明治・大正の写真絵はがきは「コロタイプ印刷」という方法で印刷されていることが多い。現在の印刷だと、虫眼鏡で拡大していくと次第に網点が大きくなって写っている景色がぼけてしまうのだが、コロタイプ絵はがきだと、遠くの通りを歩いている人の帽子の形、看板の文字まではっきり読み取ることができる。その通りのどの位置に何屋があったかが分る。活動映画館のノボリの文字からどんな映画かかっていたかが分り、昔の新聞広告で上映日を確かめれば何年の何月に撮影されたものだということが分る。人の影から陽射しの方向が分り、何時ごろかというところまで推定できる。」と滋賀大の細馬広道氏が記しています。

 観光地の土産物として大流行したコロタイプ印刷による絵はがきの特長をもっとも端的に言い表しています。また、拡大しても画像がしっかりしていることを特に強調しています。

 コロタイプは、約150年前にフランスで生まれた印刷技術で、ガラス板を刷版に使用することから、かつては「玻璃版」と呼ばれていました。撮影・製版・印刷といずれも大変手間ひまのかかる技法であります。しかし、連続階調による滑らかで深みのある質感や印刷に和・洋紙を選ばない特性や耐久性の高い特殊なインキとの融合によってできる、印刷表現は他の版式では決して得ることの出来ないものであります。インキの退色性にすぐれて変色が無いことが特色であります。

コロタイプ印刷の最大の特長は、撮影したネガフィルムがそのまま印刷する原板になるという点です。写真の階調を忠実に再現できて、しかも独特の味わいを持っていること、撮影者の意向を最も正確に反映させることができる印刷技術であります。

大量には作れないオリジナルプリントの限界をカバーできる表現方法として、コロタイプ印刷が持つ特性は、その写真の撮影者の意向を的確に伝えています。

 1855年(安政2年)、フランス人ポアテパンはゼラチン液に重クローム酸を混ぜ、ガラス板に塗布して感光版をつくり、ネガを焼き付けて印刷インキを付着させ、写真の印刷をつくることに成功したのが、コロタイプ印刷の初めであります。

 ほとんど同時期に、チェコのフスニック教授もこの研究をおこない、その印刷物をドイツの写真雑誌に発表しました。その後、ドイツ人のアルバートも研究を進めながら、フスニック教授の工場を買収してその実用化をはかりました。また、1873年(明治6年)にコロタイプ印刷機(手刷機)を設計して大いに進歩発展に貢献しました。コロタイプの別名をアルバートタイプというのはこれによります。

 日本のコロタイプは、明治16年(1883)内閣印刷局三枝守富氏などによって糸口が開かれ、次いでボストンで留学中の小川一真は、岡部長職氏の援助を受けてコロタイプの製版印刷を修得しました。帰国した一真は、京橋に小川製版所を設立しました。また、明治22年には星野錫がアメリカでアートタイプと呼ばれていたコロタイプの技術を習得して帰国し、深川で東京印刷会社の名でコロタイプ印刷を営業しました。こうして日本のコロタイプは始まりました。

 この版式はゼラチン版であるので小部数で精巧な製品をつくるに適しています。優れた製品は写真印画に近く、これまで石版の描版しかなかった時代に出現した技術はまことに驚嘆すべきものでありました。また、書画の複製に他の製版法に比べるまでも無く良い製品をうることができました。これが小川一真の光筆画、大塚稔の工芸画となって広く流布して行きました。また、木版の掛け合せ刷りで応用木版として東洋絵画の複製にその威力を発揮しました。

 印刷の初期には手刷りといって石版の手刷機が利用されていましたが、明治35年(1902)には、石版の平台動力機が輸入され、これをコロタイプ印刷機に改造しました。そしてこの機械によって、書籍の口絵、絵はがき、写真帳の印刷に利用され、手刷機は図録、色紙、日本画の複製などが印刷されました。

  製版・印刷の実際

 【刷版のなりたち】

  ゼラチン液に重クローム酸塩を混合し、厚ガラス板に塗布して50度C〜60度Cで乾燥させると感光性を持った膜面に不規則な皺(レチキレーション)が出ます。この微小皺は約250分の1吋位の大きさで、インキのひっかかりとなる重要なものです。こうしてできた感光板をあらかじめ用意した写真ネガを重ね、しっかりと密着させ、焼枠にアーク燈で7分ほど露光し、つぎに裏焼といって焼枠より取り出し裏面より全面露光します。これにより版面の硬膜をうながします。

 焼付けがすむと重クローム酸をとるための水洗をします。竪型流水バットが使われますが、約1時間でゼラチンに取りこまれている重クローム酸塩は水に流出、硬化されたゼラチン膜面が残りネガのイメージが微かに認められます。次ぎに通風乾燥してコロタイプ刷版が出来上がります。

 印刷の手順は、この刷版を再び水につけ約5分で取り出して、グリセリンと水を混合した湿し水を約10分版面に盛り湿潤します。これを取り去って版面の余りの湿し水を、水取りローラーで除き、印刷機版盤にのせ着肉に移ります。

 ここでコロタイプ刷版の版面を少し詳しく観察をして見ると、湿し水を吸ったゼラチン面は膨らんで、顕微鏡で見ると明らかにそのシワと着肉の状態が観察されます。刷版の黒い部分は最暗部のインキのついた状態で、シワの低い谷の部分より山の上に向かってインキは付着しています。刷版の白い部分は未感光部でシワの状態がよく分ります。焼付けによって出来たゼラチン膜の硬化は、ネガの濃淡の度合いによって出来ています。暗部は最も硬く深くみえ、明部にしたがって浅く柔らかくなっています。湿し水は柔らかい部分ほど多く吸収され、硬い暗部は最も少ない水を含んでいます。

 着肉(インキング)は、通常裏革ローラーにより、暗部にまず肉盛し次いで膠ローラーで中間部より明部に肉盛りします。平台動力印刷機の場合は、圧胴の左右に裏革ローラーと膠、またはゴムローラーで、交互に機械の往復運動により肉盛りされます。そして湿し水を含んだ度合いにしたがってインキの付着量は異なり階調を構成します。湿し水は印刷中50枚から100枚ごとに繰り返しあたえて、階調のつぶれを防ぎます。

 【コロタイプの感光液】

  感光液の処方

 製版で一番大切なのは感光液であります。その要素を分けてみると3つに区別することができます。

1、 ゼラチン

2、 感光主材  重クローム酸カリ

       重クローム酸アンモニア

3、補助剤  安息香チンキ(ゼラチンの硬化)

       アルコール(泡止め、安息香チンキと混和、延展)

       硝酸鉛(クローム塩と化合してクローム酸鉛を形成)

       クローム明礬(硬化剤)

       炭酸マグネシア(硬化剤)

  主体はゼラチンで感光剤を添加してクローム酸ゼラチンとし、印刷時の耐刷力を増すことと、ゼラチンの硬さを調整するために安息香チンキ、クローム明礬などの硬化剤を加えます。硝酸鉛は重クローム酸と化合してクローム鉛を形成します。版膜は黄色をつけ焼付けの度合とインキの付着量を見やすくします。クローム明礬と炭酸マグネシアは現在あんまり使用されていません。

 感光液の処方、作り方には7通りありますが、各社工房によって独自の処方があります。処方の量はゼラチンの濃度と気温や湿度を考えて作るのがベターであります。夏季は硬ゼラチンを、冬季は中硬あるいは軟ゼラチンを使用し、クローム塩の量も夏は若干減量します。重クローム酸カリと重クローム酸アンモニアの性質を比較すると、カリはアンモニアの2分の1くらいの感光速度しかありません。逆にいうとアンモニアは2倍の感光速度を持っています。それとともにクロームゼラチンゾルのさいの自然硬化は、同じように作用します。

 硬膜剤の量は感光剤の量とも関係が生じます。安息香チンキはインキの付着量に影響し、多量になればインキは多く付着しますが、暗部の階調をつぶす傾向があり、感光剤の量と見合わせてなるべく少ないほうが安全です。

 クローム明礬はインキの付着量には影響が少ないですが感光液が不溶解になります。現在製版技術者のほとんどは、安息香チンキの量を調節して使用し、クローム明礬は用いていません。

 硝酸鉛は先に述べたように焼度、インキの付着状態をみる目的と若干の硬化作用をもっています。製版作業の焼付け後水洗するとカリとアンモニアは水洗によってゼラチン膜より水に溶解されてしまいますが、クローム鉛は粒子が大きいために膜中に抱かれて残ります。感光液はレモン黄色を呈します。

 アルコールの使用には、安息香脂は樹脂をアルコールで抽出したもので、これを感光液の調合のさいに添加すると局方のままでは濃く、充分に混合しないと小さな粒状になることがあります。そこでアルコールで薄めてよく混合するようにするとともに感光液の泡を消すことです。その次にはガラス板に流し引きしやすくなる効果もあります。インキの付着量や階調などには影響はありません。

【感光液の作り方】

 ゼラチン、重クローム酸塩の計量を行い、まずゼラチン溶液を作る陶製のビーカーに所定の水とゼラチンを入れて、ゼラチンが吸水するまで(膨潤)放置します。水の温度によりますが約1時間ほどかかります。水温が高くてゼラチンの粒状あるいは板状の上皮の形がくづれるようでは不可です。また長時間放置しておくことも注意が要ります。膨潤が終った時に湯煎にかけます。湯煎の温度も沸騰しないように過熱します。また完全に溶解するまで攪拌しない。こうしてゼラチンゾルができたならば感光剤を加えます。ゼラチンはあまり急激にかきまわすと泡立ちがひどく良い結果はえられません。

 ついで安息香チンキを通常等量のアルコールで薄めて、かなり速い速度で掻きまわしつつ注加します。硬膜剤としてクローム明礬を入れる場合に飽和液を使用すると、滴下したままゼラチンゾルとともに固まって全体に混和しなくなります。5倍ぐらいに薄めて掻き回しながら注加します。終りに硝酸塩を30ccほどの水に溶いて同じように掻き回しつつ注ぎます。調合を終った感光液は冷暗所に入れて10時間前後放置し、ゼリー状になると同時に熟成がされます。調合直後に製版することは通常は行ないません。時間をおき夏季は要冷蔵であります。

【版ガラス】

 版ガラスは8〜10mm厚の磨きガラスを使用します。凹凸や反りのあるものは、印刷時に割れてしまいます。そして表面を窓ガラスより細かい曇りガラスを使用します。素ガラスでも使えますが下引き(感光膜とガラス面を密着する工程)が複雑になることで一般的には曇りガラスにしています。勿論キズものは不可です。版ガラスの寸法は、用紙の規格に合わせています。

  B4版用  30cm×40cm

  A3版用  36cm×48cm

  B3版用  45cm×60cm

【刷版の洗い方】

 板ガラスは清浄でなくてはいろいろと故障の原因となります。感光膜が印刷中剥がれることがあります。また印刷を終った版は感光膜を落とし、綺麗にしてつぎに使える準備をします。一般に苛性ソーダを用いて落とします。

  苛性ソーダ  1000g(10kg)

  水      500000cc

を溶いて、陶器かコンクリートなどの苛性ソーダに耐える性質の水槽に貯え、常時新しい板ガラスや使用済みの版も感光液が溶けるまで漬けておき、使用時取り出してよく水洗をします。冬は微温湯が適しています。通常5時間くらいですむように苛性ソーダを濃く溶いて時折補充します。

 ガラスを洗う時に、まず苛性ソーダを水洗いしてから、タワシに磨き砂をつけて表面のみ磨いたのちよく水洗してから、大型の掛枠に移して乾燥します。

【下引きの方法】

 下引きは支持体の板ガラスと感光膜を密着するのに絶対必要なことであります。いろいろな方法がありますが最も実用的で簡単な方法は、

 ビール下引液

   ビール   30cc(腐敗するまで使用できる)

   珪酸ソーダ 3cc(50%)

   水     30cc

 手順としては洗い終わった版ガラスを乾燥機にかけて40度C〜60度Cに加温し、これを水平台にのせ下引液を流しびきします。一端を少し高くして低いほうにビーカーなどを当て余液をもどし、掛枠にかけます。下引液はくり返しつぎのガラス版に使用します。

 下引液が乾いてから水を流しながら木綿布で軽く洗って水を切り、乾燥箱に戻して加温し、感光液流布の工程にかかります。

【感光液の塗布の方法】

  流布量

 流布量は感光液の濃さと関係します。薄い液は比較的少量ですみますが、濃い液はやや多く引くことになります。各々限度があり、それをこえると乾燥後の版面に小さな波状を生じ、印刷画面にでてきます。したがって波状の起きない最大限度に量を決めなければなりません。

およその平均量は

板ガラス面積      感光液の量

 30cm×40cm   50cc〜60cc

 36cm×48cm   80cc〜110cc

 40cm×60cm   130cc〜160cc

 

 流布量の引き方として、軟ゼラチンの感光液を厚くひくと光輝部の出ない憾みがあり、粗い目の用紙、布地の印刷には、ゼリー状強度の高い硬ゼラチンの感光液を少し厚めにひくなどの加減が必要であります。

【感光液のひき方】

 乾燥箱の保管室内は作業にあたって20度C〜30度Cに保たれた室内で行ないます。室温が低いと流布中に感光液が凝固して失敗します。また、室温を補うのには板ガラスを良く温めておきます。このさい熱くてガラスが手に持てないようではいけない。また、作業室内は清浄にしておかなければならない。なぜならば、印刷物のスポット(白点、繊維のクズの小さな白線)はこの工程で出るもので充分注意しなければならない。

【感光版の作成】

@ 感光液を湯煎にかけて溶解(途中で掻き回すと気泡の原因になる)します。

A 下引きの終ったガラスを乾燥機に入れて加温します。

B 加温中に水平器で確認します。(版ガラスの厚さの不平均などがあるからその都度水平をはかる)

C 室温を整え、室内のホコリを静めます。

D 溶解された感光液を綿布を三重にして1000cc計量カップに濾しながら移します。(こし布が粗いと          気泡が出てスポットの原因を作る)

E 板ガラスを乾燥機内よりとり出し水平台にのせ、あらかじめ計量した液を流しびきします。

F 流しびきが終ったならば気泡、ホコリを細かい尖った棒で除いて乾燥機内にもどします。  

  これらの作業のポイントは、液を均等に流しびきすること、気泡などを出さないことであります。

【乾燥機の構造】

 乾燥機の部屋は他の作業場と区切られていることが肝要で、また、乾燥機は次ぎの要点を備えている必要があります。

@ 排気が防塵用の布をとおして完全なこと。

A 外気(風)が直接入らないこと。

B 開放、密閉が出来ること、暗くすることが出来る。

C 機内の温度は50度C〜70度Cの範囲で加温が出来ること。

D ホコリの入らぬように震動のない場所を選ぶこと。

  熱源には電熱を使用します。過去にはガス・木炭を使いました。乾燥所要時間は感光液の流布を終え、  扉を閉めて電灯を消し、1時間程度で検視窓からみて80%程に乾いた頃合をみて熱源を切り、自然に常温に近くなるのを待ちます。その時間は約2時間程度であります。版の保存性は自然硬化で短く、翌日に残すことは冬季を除いて避けたほうがベターであります。

【焼き付け作業】

 感光版の冷却がすんでから焼き付けに移ります。焼き付けはネガと感光膜面を合わせて画面の焼き付けを行なうことを素焼きといいます。それが済んで焼き付け枠からはずし裏焼き枠に膜面をふせてガラス面より全体に曝光することを裏焼と云っています。

 焼き付け枠は、手焼き枠を用いるか平版と同じ真空焼き枠を使用します。焼き付け時間は、網点ネガの場合はおよそ一定していますが、連続濃淡(階調)のネガは適当の焼度を得にくいので焼き枠の裏から締木を一方だけもどして調べ、覆い焼をします。この操作は手焼き枠の方が便利であります。

 焼き付け時間のおおよその時間は、通常の濃さで曇りガラスを掛けて太陽光で3分〜4分の範囲であります。アーク燈で45cmの距離をおいて5分〜6分行ないます。焼き付けの場合線画、網ネガを除いて曇りガラスで焼き枠面を覆い、散光にして焼き付けを行ないます。柔らかい光りのほうが暗部の階調をよくするとともに、ガラスのキズなどが出ないなど好結果をもたらします。

 焼き付けの作業場はあまり明るい所では組み込み作業中に感光する憾みもあり避けたほうがベターであります。焼き付けの組み込みは画面外の周りに黒紙をめぐらしてマスクします。ネガは上向きに入れ版面を下に向け、それから白紙を1枚のせて裏板をかぶせ平均に締めます。このさいの白紙は締めるときのズレと焼き枠のガラス面から、ネガの濃さのおおよそをみるに便利な役目をします。

 裏焼き板は平らな板に黒ラシャを貼ったもので、周りはガラス板のズレないように15mmの枠をつけます。要は浅い箱のようなものであります。曝光時間は10分くらいで日陰かアーク燈でおこないます。

 裏焼きの効果は感光膜の硬化であって、版の柔らかいときは時間を多めに、硬いときは少なくしますが、一般には感光液で調節して裏焼きは一定にします。

 裏焼きの度合(時間)が少ないと階調の明部は出ません。反対に多すぎると平調となります。また、インキの付着量も焼き付けが少ないと減り、増す毎に多くなりますが限度を超えるとカブって平調になります。

【ガラス版の水洗いと再乾燥】

 裏焼きの終った版は速やかに水洗槽に入れて感光性をなくします。水洗時間は水温に比例して違います。要はクローム酸塩を抜き去ればよいのです。

 水温と水洗い時間(流水による)

    13度C   2時間

    15度C   1時間30分

    18度C   1時間

 完全に水洗された場合は、硝酸塩が入っていないと、もとの透明なゼラチン膜に感光硬化された個所のみ、少し黄味をもって版画面を見ることが出来ます。硝酸塩が処方された版は淡黄色にクローム鉛が残ります。水洗槽には20度C以上の水温は避けます。

 水洗がすんだ版は、掛枠にかけてホコリのない通風のよい日陰に置くか、扇風機により速やかに乾燥します。乾燥途中で温度或いは通風条件が極端に変化すれば印刷時に乾きムラが出てきます。

【コロタイブ写真原板】  

 感光材料には、富士複写用乾板、リス乾板、富士製版用反転フイルムを使用して表現のイメージや作業性を勘案して撮影原板を選びます。撮影済みの写真原板を受け取り、印刷面積と同寸ならばこれをそのまま右向き反転して直ちに刷版に焼き付けしますが、説明文を入れたり1頁に何点かを組み合わをおこないます。なお実際は濃度の薄いネガ、濃度過多などと多様であります。指定の原稿を参照して印画しかないものは複写、フイルムのあるものは反転複写し、説明文は写真植字からリス乾板に撮影します。これらを処理して後述の貼り込み室にまわします。なによりも濃度階調をそろえることで最終作業としての補力、減力の工程で補う手だてはありますが、それは補足作業であって、これに依存することは出来るだけ避けるべきであります。

 線画や文字の貼りこみ用に、コダリス、フジリス、コニリスを使用します。階調がないので簡単に考えやすいのですが、写真植字の明朝体の細い横線はつぶれやすいものです。露光、現像とも一定に決めておくべきで、往々にして起こる文字の太り、細り、横線のツブレは醜いものの一つであります。レイアウトを要する場合は乾板を使用し、硬膜して貼り込みをします。ストリップフイルムは膜面を細く切ると捲く性質があって使いにくいので注意します。

【膜はがし、貼り込み、塗り込み】

 コロタイプの原板は正しい右向きのネガを作ることで、そのために撮影されたネガは乾板、フィルムともいったん支持体から剥離してB4判あるいはA3判などの貼り込みガラスに、指定のレイアウトにしたがい貼り込みます。複写、反転(ネガ〜ネガ)の処理も直接撮影のものと混同するので、すべて通常の左向きに写して、説明文なども同一処理のもとに貼り込み作業をします。

 工程はまず硬膜処理を次のホルマリン溶液で5時間前後竪バットで浸しておき、取り出して水洗いを充分にします。直ちに掛枠に移し、日陰のホコリのないところで乾燥します。

   局方ホルマリン   1000cc

   水         2000cc

また急を要するときはホルマリン原液に10分間浸した後、同じように水洗い乾燥の処理をしますが、長時間かかって硬膜するほうが安全であります。フィルムは特に硬膜が完全でないと剥膜液で溶解する場合があります。ホルマリンは気体の水溶液であるので、随時原液を補充します。

貼り込みに先だって印画原稿を参照し、ネガの不要部分を切り捨てます。重合する場合は最も正確に切り込む必要があります。そして乾板は膜面のみを切り、フィルムは支持体のフィルム裏側から膜とともに不用部を切り捨てます。レイアウトの複雑な場合は下図を模造紙に書き、それに従って修整ペンあるいは片刃安全剃刀、細身の切出しナイフを使って作業を行ないます。

【フイルム剥膜】

@ 乾板剥膜液

  水     1000cc

  弗化水素酸 20滴〜30滴

 塩化ビニールかセルロイドバットを使用します。陶器バット、ほうろう引きバットは腐食されるので不適であります。同液に浸けて30秒ないし1分で剥がれるまで放置します。全体がはがれたならば硫酸紙を支持体として水バットに移し、静かに水中で水洗いをかねて正しく硫酸紙に拡げ、貼り込みに移ります。多量の場合は硫酸紙に移し、水洗い後重ねて貯めておいて貼り込むこともあります。

A フィルム剥膜液(苛性カリ法)

  第1液 苛性カリ   50g

  第2液 クローム明礬 50g

  氷酢酸        10cc

             (クローム明礬溶解後添加)

 第1液を40度C〜50度Cに湯煎で加温しつつフィルムを侵漬すると、1〜2分で剥がれます。完全剥脱後静かに箸のような棒でとりあげ、水洗いして第2液に入れます。第2液は洗浄剤であって、第1液からあげたときは膜の表面は粘っていますが、第2液でとれてしまいます。剥脱膜は非常に弱くなっているので取り扱いは硫酸紙の支持体で静かに操作することが肝要であります。

 フィルムの剥脱法は各フィルム会社の下引き法によるもので、さくら、富士フィルムとも、この剥脱法を容易にするように下引き法を研究して、苛性カリ法に一定されています。

【貼り込みの方法】

 まず貼り込みの接着糊を用意します。これは一般にゼラチン溶液を使用します。

  水    500cc

  ゼラチン 50g(膨潤してから湯煎で溶解する)

 ライトテーブル上に下図を置き、その上に下図より大きなガラスを重ねてさらに貼り込みガラス(窓ガラスの上質な凹凸のないもの)を置いて、ゼラチン液を適量ガラス部分に流して手早く硫酸紙にとった感光膜を下向きに重ね紙のみをはがします。この動作を繰り返し、全部所定の膜を移してから、ガラスと同面積の硫酸紙をふたたびガラス全面に覆い、スクイージをかけて余りのゼラチン液を去り、硫酸紙をはがして膜の貼り込み位置を正確に直して平らに置き、自然に乾燥をまちます。

 レイアウトの複雑な場合第1回の貼り込みで写真画面を貼り、いったん乾かしてから再び下図を置いて説明、見出し、カットなどリス乾板撮りのものを第2回として貼り込みます。

 貼り込みが乾いてから次ぎに塗り込み、線引きが容易に綺麗にあがるよう透明の薄いセロファンを全面に覆い被せます。貼り込み糊ゼラチン液を倍量に薄めた糊を前面に流しびきして、あらかじめ水に浸したセロファンをかぶせて静かにスクイージして掛け枠に移します。

【塗り込み】

 貼り込み、セロファン覆いが乾くと塗り込みの作業に入ります。貼込原版の不要部分は、全て光の通らないように墨かオペーク(紅柄煉製品)で塗りつぶします。

 まずライトテーブル上に下図を置き、貼込み原版を置いて位置を決め「烏口」で線引きをします。定規、楕円型、雲形定規などを使って、キレイな線で必要部と不要部の境界を描きます。ついで太筆で不要部を塗り込みます。乾板の塗り込みには主として墨をビールですったものを使います。

【修整の仕方】

 ここでの修整とは、刷版焼付けの直前に加えるもので、その目的はムラとり、スポット、ハイライトの描出、シャドウのつぶれ防止が主であって最終的な補筆であるので、このような欠点が原版に出ないよう前もって原稿からネガ撮りをするさい、充分に前修整を加えておくことが重要であります。

 染料で修整を加える部分に脱脂綿でまず唾液あるいはハイポーの薄い液で湿りをあたえ、染料を適宜の濃さにして補筆します。濃すぎた場合はアンモニア水を薄めて綿で拭きとるか、全体再修整の場合はバットで水1000cc、アンモニア水5〜10cc程に浸しておけば脱色します。技法としては薄めにして何度も補筆することが失敗を少なくします。

 広範囲にそして一時的な場合はエオシンを水とグリセリンで溶解しタンポ(脱脂綿を布で包んだもの)で原版の裏面から打ってムラ取りをします。手早い方法なので、暗部のつぶれ防止をかねて常時行なわれています。

【平台印刷機】

 印刷の作業室は直接外気が入らないようにします。できれば温度、湿度の調節装置があればベターであります。一般には印刷室は階下に設けて西日の入らない場所を選びます。冬季にはスチームかガスストーブを入れて、ホコリと乾燥を避けるようにします。室温は20度Cで湿度70%を基準として前後の差を少なくすることが大切です。限界は17度C以下30度C以上では印刷は不可能です。

 平台式印刷機で、回転数は1分間に10回転で、版盤1往復1回転と2往復1回転と踏みかえる構造になっています。印刷紙が薄い時は2往復1度刷りとし、厚物印刷紙では1往復2度刷りとして、印刷枚数より階調の豊富な印刷物を作ることが肝要であります。

【ローラーの調整】

 手刷り、機械刷りともに裏革ローラーや膠とゴムローラーを使用します。最近では合成樹脂によるローラーも用いられています。裏革ローラーは暗部に着肉することを目的とし、版面を早く往復すればインキは再びローラーに移り速度を落とすと版面にインキが付着するような硬目なインキで印刷されます。

 膠ローラーやそのほかのローラーは、階調の中間濃度より明部にかけて着肉するのに使用します。手刷りの場合はまず革ローラーで適宜に暗部に着肉して、次ぎに膠ローラーで着肉して印刷紙をのせて印刷します。機械刷りは前方(版盤側)に膠ローラーをかけ、裏側に革ローラーを掛けるようになって版盤は1往復すると交互にローラーがかかるようになります。

【インキの調合】

 他の版式の印刷インキより硬さ、粘調度ともに高いものが要求されます。現在は亜麻仁油のみをペヒクルとせずに、合成樹脂その他のベヒクルと混ざった型のインキが一般的であります。このことは印刷物の乾きの遅い問題とインキの粘度にからんで、この亜麻仁油が捨てきれず現在も使用されています。

 印刷時、革ローラー用インキは4号ワニスで適宜に軟らかくし、膠ローラー用インキはラード豚脂でのばして使用します。したがって印刷時インキ盤は機械の前後2個所に設けます。

 インキの硬さは版盤の速度と関連しますが(速ければ軟らかく、遅いと硬くする)いずれにしても肉壷からひき出すことは不可能で、革ローラーでインキ盤が作動中ヘラびきして印刷を行ないます。

【印刷用材料】

 薬品類 アンモニア水,ホルマリン、パラフィン,グリセリン、タンニン酸、クエン酸、ワックス脱脂綿、

 用 具 切出しナイフ、拭布(サラシ布、メリンス)、筆(大、小)、物差し、インキ用ヘラ、

 油 類 揮発油、マシン油、石油、グリス、

 その他 インキ類、4号ワニス、古新聞(水取りローラー用)、吸取紙、ハトロン紙(輪隔枠用)、40听中質 白紙(版下用)、

【印刷の手順】

 機械の操作には機長、助手の二名で行ないます。

(A) 刷版を水に5分間浸します。それから湿し水バット(グリセリン500cc+水500cc)に移して10分位漬けておき、引き上げて版の表裏をよく拭いて版盤に白紙(B40听)を置き版を上にのせて締金で固定します。

(B) 版盤の高低、水平を調べます。盤の左右にハンドルがあり、棒定規が付属しているので、機械の左右にかけて版の高さをはかります。

(C) 次いでインキをインキ盤にヘラびきして機械を始動させ、ちょうどよい濃さに着肉するまでインキングします。ローラーの上げ下げは印刷機の圧胴の両側についているハンドルで操作します。

(D) 見当ぎめをします。版盤の天地左右にネジがあり、それを調節しておよその位置でヤレ紙(不良紙)を通して刷り、物差しで正確に測って版盤を移動して見当を合わせます。

(E) 始めは「刷り込み」と称して正しい階調が出るまで少しずつ(10枚くらい)印刷して湿し水を含ませます。また画面の外をホルマリンで固膜補強をします。機械刷りで50枚〜100枚で画面(版面)を調整して、いわゆる刷りよく、そして正確な階調になるよう原稿を参照して作業します。

(F) 通常1回転1度刷りを2回印刷して、調子の豊富なよいものを刷り上げることを目標とします。また、薄い紙、柔らかい紙を2回転印刷することは版面がゼラチン膜の直刷りであるので少し無理がかかります。柔らかい紙の場合は、紙に「膠ドーサ」をひくか、下ニスをひいて使用し、薄い紙は台紙に天貼りして印刷します。

(G) すべて印刷用紙は使用前日までに紙干しにかけて使用します。そのままだと紙の伸縮やシワの弊害が出て良い印刷は出来ません。

 おわりに

 現在、コロタイプを単なる印刷技術として捉えるのではなく、文化財の関わりの中で培われ保持し続けてきた技術が絶えようとしています。戦前には近畿地方でも25社が営業していましたが、現在では京都に3社が生き残っています。今でも絵画や書の複製をもって、その技術の保存と、余光を伝えています。

 コロタイプの製版・印刷で述べたように、コロタイプはまさにアナログの世界です。銀塩フィルムによる原寸大撮影という特長や、手作業によるレタッチワークなどアナログ技術によって得られる雰囲気は、他の印刷方式では表現できないと考えられていたことが、最近のデジタル技術を利用することにより可能になりました。デジタルデータをもとに、それをアナログデータに置き換え、コロタイプにある特長を失うことなく、逆にデジタルだけでは表せない、手仕事によるアナログ独特の精緻で、暖かみや温もりを表現することが出来るのが、コロタイプ印刷であります。

 本編の作成には、飯沢幸太郎氏の「日本人の写真・歴史と現在」、村角紀子氏の「審美書院の美術全集に見る「日本美術史」の形成」、印刷出版研究所刊「特殊印刷シリーズ第7・8巻」などの一部を参考にしました。

 

 シリーズ アナログ印刷(II)は、原色版の製版と印刷です。