学術論文を書くために(2012年改訂版)
主に美学/芸術学/美術史向けの代表的ルールです。
文責:佐藤守弘
論文とは、ある問題についての、自分の主張をなんらかの調査に基づいて、
合理的な仕方で根拠づけようとする、一定の長さの文の集まり
(小林康夫、船曳建夫編『知の技法』東京大学出版会、1994年)
「はじめに」を書く
学術論文(学位論文、研究論文)における「はじめに」あるいは「序文」とは、読者に対
して論文の概要を簡潔に示す機能を持っているもののことです(「まえがき」とは違います)。これを読めば、その論文がどのような問題に対してどのような結
論を提示するのか、その問題に関してこれまでどのように語られてきたのか、そしてどのような手続きで結論に至るのかがすべて分かるようになっていること
が、読者に親切なのではないかと私は思っています。言い換えれば、これが上手く書けていない論文は、どれだけ内容が素晴らしくても、全部を読んでもらえな
い可能性だってあるんじゃないかと。「読者に親切に」。これが大切です。
色々な書き方があるでしょうが、代表的なパターンを二つ挙げておきます。
*ちなみに短いレポートでは、「はじめに」を付ける必要はありません。
第一段落:【前提】 →論ずる対象についての最低限の情報の提供。
第二段落:【問題提起】 →論文の課題。どのようなことを知りたくて論文を書くのかを明確にする。
第三段落:【先行研究の批判】 →上の問題に対してこれまでどのようなことが言われてきたのかを紹介した上で批判。
第四段落:【仮説の提示】 →論文の結論を先取りして提示。必ず第二段落の「問題」に答える形で。
第五段落:【手続の紹介】 →論文の概略の説明。「第一章では……。第二章では……」。
- 先行研究で言われてこなかったことを見つけるパターン
第一段落:【前提】 →論ずる対象についての最低限の情報の提供。
第二段落:【先行研究の批判】 →研究対象に関して、これまでどのようなことが言われてきたのかを紹介。
第三段落:【問題提起】 →先行研究で言われてこなかったことを指摘して、問題を提起する。
第四段落:【手続の紹介】 →論文の概略の説明。「第一章では……。第二章では……」。最後に結論を提示する。
ちなみにこの「はじめに」の書き方は、私の博士論文指導員であった
岸文和教授が整理されたもので、
私のまわりでは「キシ・メソッド」と呼ばれております。
目次
論文を書く上でのいくつかのルール
これは一例です。研究領域、学会、出版社などでそれぞれのルールがあるので、
詳しくは指導教員などに訊いてください。
人名の表記
- はじめて人物名を書くときの一般的ルール
- 人名の後には生没年を必ず付ける
- 漢字圏以外の人名には、原綴をつける
- フェリス・ベアト(Felice Beato, 1834〜c.1903)
- 漢字圏の人名には、原語での読みを付ける
- 日本人名の略称(二回目以降)
- 近代以前は名前や号
- 近代以降は名字
- 但し近代でも雅号の場合は、号で書く
- 西洋人名の略称(二回目以降)
- 近代以降は基本的には名字
- 古い時代は名前で呼ぶこともある
- レオナルド(ダ・ヴィンチ) ミケランジェロ(ブオナローティ)
- 二つ以上繋がった名字は、全部書く
- (フィンセント)ファン・ゴッホ (アンリ・ド)トゥールーズ=ロートレック
- 西洋人名を日本語に直すときのルール
- スペースはナカグロ
- ハイフンは等号
- Jean-Luc Godard →ジャン=リュック・ゴダール
約物の使い方
- 「 」カギカッコ → 引用文/論文・章の題名/シリーズ名/展覧会名
- 論文:ヴァルター・ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」
- シリーズ:歌川広重の「東海道五十三次」
- 展覧会:「進化する映像」展
- 『 』二重カギカッコ → 書名/マンガ単行本名/映画の題名
- 書名:ミシェル・フーコー『言葉と物』
- マンガ単行本:つげ義春『無能の人・日の戯れ』
- 映画:『羅生門』
- 《 》二重ヤマガッコ → 作品名(絵画、彫刻、インスタレーションなど)
- 〈 〉ヤマガッコ → 強調(カギカッコでも代用可)
- 〔 〕キッコウ → 訳註、引用元にない付け足し
- 日本美術とは、いわゆる国家のイデオロギー装置〔ルイ・アルチュセールによる概念〕でもあり……
- 英文を日本語に翻訳するときの約物の使い方
- 原文がクオーテーション・マーク → 「 」カギカッコ
- 原文が強調のイタリック体 → 〈 〉ヤマガッコ
- 原文が書名のイタリック体 → 『 』二重カギカッコ
- Culture and Anarchy → 『教養と無秩序』
- 原文が作品名のイタリック体 → 《 》二重ヤマガッコ
- 原文がイタリック体でも外国語を示すときはそのまま
- 原語の意味が日本語では二重の意味を示すとき → 等号(=)でつなぐ
註に何を書くか
- 本文中で引用したり、述べたりしたことの原典を明示。下の書誌情報の書き方に従い、さらに当該ページを表記。
- (註15) 今福龍太『クレオール主義──The Heterology of Culture』青土社、1994年、155頁。
- 註の文章内で言及するときは、著者名、題名のあとは、カッコでくくる。
- (註16)ジョン・アーリ『観光のまなざし──現代社会におけるレジャーと観光』(加太宏邦訳、法政大学出版局、1995年、8頁)によれば、旅行体験の視覚化は……
- 本文中で言うと流れを邪魔するけれど、言っておきたいこと。
- (註17) tourismという単語が、英語の語彙に登場したのは、1811年頃であったという。
書誌情報の書き方
- 註に書くパターン
- 和書:著者名「論文名」編者名『本・雑誌の題名』翻訳者名、出版者名、出版年
- 北澤憲昭「文展の創設」『境界の美術史──「美術」形成史ノート』ブリュッケ、2000年
- 港千尋「伝神絵」小林康夫、松浦寿輝編『イメージ──不可視なるものの強度』東京大学出版会、2000年
- 佐藤守弘「都市とその表象──視覚文化としての江戸泥絵」『美学』202号、2000年9月
- スーザン・ソンタグ『写真論』近藤耕人訳、晶文社、1979年
- カルロ・ギンズブルグ「徴候──推論的範例の根元」『神話・寓意・徴候』竹山博英訳、せりか書房、1988年
- ジョナサン・クレーリー「近代化する視覚」ハル・フォスター編『視覚論』榑沼範久訳、平凡社、2000年
- 洋書:著者名, "論文名," 編者名, ed(s)., 本・雑誌の題名, 地名: 出版者名, 出版年
- 単著
- James R. Ryan, Picturing Empire: Photography and the Visualization of the British Empire,
Chicago: University of Chicago Press, 1997
- 本の中の論文
- Daniel J. Boorstin, "From Traveler to Tourist: The Lost Art of Travel," The Image: or, What Happened to the American Dream, New York; Atheneum, 1962
- アンソロジーの中の論文
- Allan Sekula, "Reading an Archive: Photography between Labour and Capital," Jessica Evans and Stuart Hall, eds., Visual Culture: the Reader, London: Sage, 1999
- 雑誌論文
- Judith Adler, "Origins of Sightseeing," Annals of Tourism Research, vol.16, 1989
- 註に書くときは、上記のあとに引用・参照ページ数を書く。
- James R. Ryan, Picturing Empire: Photography and the Visualization of the British Empire,
Chicago: University of Chicago Press, 1997, 25-27
- 一度註に記した文献が再び出てきたとき
- 直前の註を繰り返すとき
- 間に別の文献が入ったとき
- 同一著者による文献を複数参照した場合
- Ryan, Picturing Empire,
32
- 参考文献表を利用するパターン
- 和書:著者名、出版年「論文名」編者名『本・雑誌の題名』翻訳者名、出版者名
- 洋書:著者名 出版年. "論文名." 編者名, ed(s). 本・雑誌の題名 出版者のある都市名: 出版者名
- Ryan, James R. 1997. Picturing Empire: Photography and the Visualization of the British Empire. Chicago: University of Chicago Press
- 参照文献表(著者名アルファベット順、あるいは50音順)を論文末尾に付けた上で、本文中で引用、参照した部分のあとに、[著者苗字発行年:参照ページ]と書く
- [木下 1996:10]
- [Ryan 1997: 25-27]
- オンライン(ウェブ)文献の引用法
- 著者名「ページ・タイトル」URL、最終アクセス日
- 佐藤守弘「学術論文を書くために(2010年改訂版)」http://web.kyoto
-inet.or.jp/people/b-monkey/howto.html、2011年3月30日アクセス
図版キャプションの書き方
- 作者名《作品の題名》制作年、メディア、サイズ、現存地、所蔵者(出典)
- ディエゴ・ベラスケス《ラス・メニーナス》1656年、カンヴァスに油彩、318×276cm、マドリッド、プラド美術館蔵
- ウジェーヌ・アジェ《ゴブラン通りの衣料品店(マネキン)》1900年頃、ゼラティン・シルヴァー・プリント、22.7×16.9cm、京都国立近代美術館蔵
- サイズの記述法
- メディアの記述法
- 絵画=支持体+絵具
- 版画=版の技法
- 印刷(ポスター等)=刷りの技法
- 写真=プリント技法
- ゼラティン・シルヴァー・プリント、ラムダ・プリント
- 映像=記録メディア
- 彫刻、立体=素材〔時に技法〕
- 陶芸・漆芸=技法+器形〔これがそのままタイトルとなることもある〕
- テキスタイル=技法+素材
- その他
- 出典=どの本あるいはウェブサイトからか
校正をする
論文が出版物(研究紀要、学会誌など)に掲載される際には、論文を入校した後、「校正」、すなわち文字の誤りなどを訂正する機会があります。校正紙(「ゲラ」といわれるもの)が送られてきますので、以下のサイトを参考に校正してください。
資料を検索する
学会で情報を得る
学会とは、同じような対象を研究している研究者たちが集まって結成された一種の業界団体です。学会は、研究会や年次大会を開いて、研究者に口頭発表の機会を与えたり、研究論文が掲載された学会誌(多くは一般書店では買えない)を刊行したりしています。以下では、美学芸術学などの研究者が集まっている学会を、大雑把に傾向別に紹介します(コロン以降は学会誌のタイトル)。漏れがあればご連絡ください。
- 理論
- 美術
- 映像
- デザイン
- 工芸
- 建築
- ポピュラー・イメージ
- 音楽
- 服飾
- 教育/マネージメントなど
- 隣接諸学
- 哲学、歴史学、考古学、社会学、メディア研究、人類学、地域研究などの領域の学会でも美学芸術学系の研究が行われています。探してみてください。
他にも地方学会や大学の研究室が中心となった学会もあります。
文責:佐藤守弘(京都精華大学デザイン学部教員)
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