近畿大学理工学部
芸術学 ――視覚文化研究入門――
教科書:ウォーカー&チャップリン『ヴィジュアル・カルチャー入門
──美術史を超えるための方法論』(晃洋書房、2001年)
評価基準:出席、授業への参加度、および試験
ヴィジュアル・カルチャー・スタディーズという新たな学問潮流を、イギリスの大学で使用されている教科書を基に概観する。「視覚文化」には、いわゆる美術のほか、写真、映画、テレビ、広告、マンガ、ファッション等、幅広い対象が含まれる。私たちを取り巻くこうした視覚文化の数々を読み解くための方法を、さまざまな実例をもとに提示することが本講の目的である。
講義概要
A. 概説:視覚文化研究とはどのような学問か?
B. 視覚とはどういうものか?
ヴィジュアル・リテラシーと視覚のレトリック:イメージにはどのような文法や仕掛けがあるのか?
「ヴィジュアル」について:「見ること」=視覚の基礎概念について
視線・まなざし・監視:「見ること、見られること」の権力関係
C. 文化/社会の中のヴィジュアル・カルチャー
「カルチャー」とは何か?:固定した文化観を乗り超えるために
「ヴィジュアル・カルチャー・スタディーズ」の扱う対象
生産・流通・消費:メディアとしての視覚文化/社会の中での視覚文化
視覚文化と文化産業:イメージは商品でもある
規範と価値:良いイメージ、悪いイメージはどのように決定されているのか?
さまざまな制度について:美術館、文化財制度、美術史など
ヴィジュアル・カルチャーの快楽:何が私たちを惹き付けるのか?
テクノロジー:インターネット、ヴァーチャル・リアリティ、デジタル・イメージ
D. 理論と分析
理論/方法論とのつきあい方:イメージを見るのになぜ理論が必要か?
さまざまな分析方法:人々はどのようにイメージを分析するのか?
A. 概説:視覚文化研究とはどのような学問か?
視覚文化研究とは?
美術→視覚文化(ヴィジュアル・カルチャー
Visual Culture)
歴史→研究(スタディーズ Studies)
研究対象:いわゆる「美術」にとどまらず、広く視覚に訴える物品の全てを研究対象とする。
(「視覚文化の諸領域」参照)
方法:「美術史」の方法も踏まえながら、文化を研究するための様々な方法論(記号論、フェミニズム、精神分析、様々な視覚論・認識論などなど)を取り入れる。特に美術が自律的であるとする本質論には反対し、視覚文化が社会の中でどのような機能を果たしているかに注目する
→文学研究、心理学、社会学、人類学などと共同=studiesの意味
(「視覚文化研究に関わりのある学問」参照)
視覚文化の諸領域
美術・アート
絵画、彫刻、版画、素描、インスタレーション、写真、映画、ヴィデオ・アート、パフォーマンス、建築
工芸/デザイン
ロゴとシンボル、インダストリアル・デザイン、プロダクト・デザイン、陶磁器、自動車デザイン、
イラスト、グラフィック・デザイン、タイポグラフィー、宝石、金工、衣裳とファッション、靴、
ヘアスタイル、身体装飾、刺青、都市計画、ランドスケープ・デザインと庭園設計、家具デザイン、
上演芸術(パフォーミング・アート)
演劇、身振り/身体言語、楽器演奏、ダンス/バレエ、ファッションショー、サーカス、
カーニヴァルと祭、行進とパレード、公的儀式、面白市、テーマ・パーク、ヴィデオ・ゲーム、
花火、イルミネーションとネオン・デザイン、ポップおよびロック・コンサート、クラブやレイヴ、
パノラマ、蝋人形、プラネタリウム、スポーツ・イヴェント
マス・メディアと電子メディア
写真、映画、アニメーション、テレビとヴィデオ、ケーブル放送と衛星放送、携帯電話(i-modeなど)、
広告や宣伝、地図、絵葉書、イラスト本、雑誌、マンガ、コミックス、新聞、マルチメディア、CD-ROM、
インターネット、ヴァーチャル・リアリティ、コンピューター・イメージ
視覚文化研究に関わりのある学問
美学/人類学/考古学/建築史・建築理論/美術批評/美術史学/ブラック・スタディーズ/批判理論/
カルチュラル・スタディーズ/脱構築/デザイン史/フェミニズム/映画研究(映画理論)/
文化財研究/言語学/文学批評/マルクス主義/メディア・スタディーズ/現象学/哲学/写真研究/
政治経済学/ポスト・コロニアル研究/ポスト構造主義/近接学/精神分析/知覚心理学/クィア理論/
受容理論/ロシア・フォルマリズム/記号論/社会史/社会学/構造主義
視覚文化を理解するための参考書
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ウィリアム・アイヴィンス『ヴィジュアル・コミュニケーションの歴史』白石和也訳、晶文社、1984年
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ジョン・A・ウォーカー、サラ・チャップリン『ヴィジュアル・カルチャー入門──美術史を超えるための方法論』岸文和、井面信行、前川修、青山勝、佐藤守弘訳、晃洋書房、2001年(教科書)
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岸文和、中村興二編『日本美術史を学ぶ人のために』世界思想社、2001年
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島本浣、岸文和編『絵画の探偵術』昭和堂、1995年
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島本浣、岸文和編『絵画のメディア学──アトリエからのメッセージ』昭和堂、1998年
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ジョン・バージャー『イメージ──視覚とメディア』伊藤俊治訳、PARCO出版、1986年
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ジル・モラ『写真のキーワード──技術・表現・歴史』青山勝、小林美香、佐藤守弘、前川修監訳、昭和堂、2001年
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