あまえたねこ

              きもとけいし

 

 あるひとの家の中で今夜、子猫が産まれました。

 子猫は四匹産まれました。

 母猫は四匹の子猫のからだを順番にやさしく舌でなめてやりました。

 四匹のなかの一匹は特にねんいりになめてやります。

 その子猫は満たされた気持ちでやさしくごろごろ喉を鳴らしています。

 その子猫はじつは前世は人間だったのです。 ここで時間はその人間の生きていた時代に戻ります。

 子猫は治郎と言う人間でした。

 裕福な家庭に治郎は産まれました。

 治郎は幼いころから利発てきな子供でした。 学校に上がるようになって学業で優秀な成績を収めました。

 両親とにも仲が良く、良い子で世間に評判でした。

 しかし、思春期を迎えた治郎はある日、突然に学校に行かないようになりました。

 両親はその原因がわからなく、ただ欲しがる物を与えておろおろするばかりでした。

 そしてそんな時、治郎は両親に対して暴力をふりました。

 びっくりした両親は屈強な男たちに頼んで無理やり治郎を精神病院に入院させました。 治郎は保護室という独房に監禁されます。 それからの治郎にはいろいろなたくさんの嫌なことや辛い仕打ちが待っていました。

 そして身体もこころもぼろぼろになってしまった治郎はそれから十年後原因不明の死を迎えました。

 ある人は自殺だと言い、ある人は治郎は何者かに殺されたのだと噂しました。

 治郎の魂は純白な世界、天国にありました。 治郎は神様の前に座っていました。

 神様は治郎に優しく語りかけました。

 「辛かったろう、苦しかったろう、治郎よ、よく、苦難や困難に立ち向かって行きましたね。もうお前は休んでいいのだよ。安心してここでお休み・・・」

 治郎は神様に言いました。

 神様は治郎の言葉に応えました。

 「治郎よ、お前は優しさに飢えているのだね。生きているときにお前は優しさに恵まれていなかったのだね。周りのもの達から本当の優しさや愛が与えられなかったのだね。よし、お前を愛のいっぱいある世界へ行かしてやろう。愛や優しさをたくさん得られる場所へ行かしてやろう・・・」

 気がつくと治郎はかわいい子猫になっていて母猫からたくさんの愛を与えてもらっていました。

 子猫の治郎は母猫にたくさんたくさん甘えました。

 それから一ヵ月後、子猫の治郎は優しい飼い主にもらわれていきました。

 治郎は飼い主からいっぱいいっぱい愛を貰いました。

 そして幸福な一生が過ぎて猫の治郎は天国へ上りました。

 人間の時に与えられなかった愛を治郎は猫のときに、その数十倍も与えられました。

 猫は甘えるのが仕事なのです。

 治郎のような猫は愛や優しさが欲しいのです。

 またそれが猫のありかたなのです。

 不幸な魂だった生まれかわりの存在なのです。

 天国に戻った治郎に神様は言いました。

 「たくさんあまえてきたかい、治郎」

                 おわり

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