統合失調症の患者さんと家族のために

 

                        つかさき医院

 

1,まず守るべきこと

 

統合失調症の原因はまだ充分わかっていません。
決定的な治療法も確立していません。
ただ、こういうことをしてはいけないということは、はっきりしています。

 

「不規則な生活をして、食事時間や睡眠時間を守らないこと」

 

「あとでつじつまが合わなくなるおそれがあっても、その場その場の思いつきで行動すること」 「退路を断って、一本槍で行動すること」

「周囲の意見を聞かず、自分のやりかたを曲げないこと」

 「人との交際を避け、狭い人間関係に閉じこもること」などです。
 逆に、これらの行動をひかえるようにしていると、症状の悪化は避けられます。まずは、これらの原則を理解して下さい。

 

2,病気とのつきあいは長い。

 

 統合失調症の治療は長くかかると思って下さい。
思いつきで一挙に解決するというようなことはまずありません。
また、今のところ、特効薬も開発されていません。
5年単位、10年単位ぐらいでものを考えるようにしましょう。

 高い山に登ったことのある人にはわかると思いますが、あんな頂上に登れるだろうと思っても、一歩一歩歩いていけば、やがては頂上に着くようなものです。
一挙に頂上に着こうと思っても、意外と道は遠く、途中でへたばってしまいます。

 統合失調症は治らないと思っている人もいますが、それは早がけでは頂上に着けないということだと思って下さい。

 

3,治療のポイント

 

 統合失調症は、一般に急に発病するものではありません。
しかし、患者さん自身が、どうにもならないと気づいたり、家族が変化に気づいたりするのが、突然であるということもあります。
そういう時には、本人も周囲もとても混乱してしまいます。
精神的にも大きな変動があり、これまで予想したことがないような、思いがけない体験をしたりもします。
そのため、精神的な混乱がひどくなり、これまで通りの生活ができなくなってしまうこともあります。
このような状態は統合失調症の急性状態です。

 急性状態が治療によって落ち着くと、元気がない、意欲がわかない、感情が動きにくい、じっとしていたい、というような状態へ移行することが多いです。
これらを統合失調症の慢性状態と言います。
急性状態の時に目立つ症状を分裂病の陽性症状と呼び、慢性状態の時に目立つ症状を分裂病の陰性症状とよぶこともあります。

 これらの症状は、根は一つのものですが、現れ方が違うので、対応の仕方も違います。

 急性期は症状を抑えることが主です。
慢性期は意欲を引き出すことが主です。
この使い分けがポイントです。

 

4.働きかけの基本

 

 

症状を抑えるときとか、意欲を引き出すときとかでも、基本的な考え方には大きな違いはありません。

 まず、第一に本人の意思を尊重することです。
第二に身近な人として心配していること、判断していることを伝えます。
第三に具体的な解決方法として考え得る選択肢を提示します。
第四に解決までに残されている時間の見通しを伝えます。
これらを明らかにして本人の判断を待つと言うことです。

 具体的には次のようです。
「このごろのあなたの様子を見ていると、夜が眠れず、日中もイライラしているようで、話の内容が急に変わったりして、周囲もとまどうことが多いのです。とても疲れているようで、どうかなっていくのではないかと心配しています。
しばらく様子を見てきたので、もうしばらく待ってもよいけれど、できれば先生のところへ行ってクスリを調整してもらったらどうだろうか。
それもと家族に話をして解決できるものなら話をしてみたらどうだろうか。
いずれにしても、あと一週間ぐらい様子を見て、それでもよくならないようだったら、どうするか決めないといけないね。・・・」

 意欲を引き出す場合にも、基本的には同じです。
その場合は解決策を選択するというより、メニューの内容をなるべく多彩にするという方向がよいようです。
同じラーメンを食べるのでも、ラーメン一品しかないということではなく、メニューには和食もあるし、フランス料理もあるけれど、今はラーメンを食べているのだという風にしていくということです。

 

5、治るということ。

 

 統合失調症が治るということを、元の職場に復帰して、同じように仕事をすること、時には出世競争に勝ち抜くことだと考えるなら、統合失調症は治りにくい病気です。
また、そのような考え方を取る限り、再発の可能性は高いです。

 分裂病が発症したということは、過去の生き方への危険信号であると考える方がよいでしょう。
分裂病は治療によって良くなる病気ですが、それは以前の生き方にとらわれず、より柔軟で、選択の幅の広い生き方ができるようになるということです。
そういう目標を持つ限り、分裂病は回復可能ですし、実際無限に回復していくものです。

 

6,再発は避けたい。

 

 一般に急性症状の出現が繰り返されると、心のエネルギーが奪われ、後に大きな負担を残してしまいます。
できるだけ急性症状が出ないように気をつけましょう。
そのためには、無理をしないことです。
無理というのは、あせりの感情を伴うことが多いですから、自分の中に焦りが出ていないかどうかに気をつけることが有効です。

 統合失調症の病気の症状が初めて出たときは、混乱しますし、どういうときに悪化するのかもよくわかりませんから、どうしても自己流に対応し、再発してしまうということもあります。
そう言うときは、どういう風にして症状が悪くなるのか、その兆しや原因に気をつけて下さい。
再発はたいたい同じようなパターンでくりかえすので、自分の病気の性質を知るチャンスにもなります。
一番怖いのは、何度も再発をくりかえし、何が何だがわからなくなり、絶望してしまうことです。
再発を繰り返すことは避けるべきですが、再発のたびに何かをつかめていけば、災い転じて福とすることも可能ですから、悲観的にばかり考えない方がよいです。

 

7,クスリの使い方

 

 統合失調症の治療では、安定剤の服用を続けることが大切です。
状態の悪いときに嫌々クスリを服用した人が、安定してくると服薬を中止しようとすることがありますが、クスリの服用を続けることが安全です。

 病気の再発防止には、服薬継続が必要と考えて下さい。
服薬を中止すると、すぐに状態が悪化する人もありますが、中には一ヶ月、半年後などにその影響が出てくる場合もあるので、慎重になる必要があります。
服薬を急にやめたり、症状と関係なく、何かの信念で服薬を中止すると、症状の悪化につながりやすいです。
中には、症状の悪化が、服薬中止という形から始まる人もあります。
そういうパターンの人は要注意です。

 

クスリの服用はあくまでも再発の防止、予防の手段と考えて安易にやめないようにしましょう。服薬の調整は主治医と相談しながらにしましょう。

 

8,あせりは禁物

 

 分裂病の治療ではあせりは禁物です。
ゆっくりと、のんびりと、マイペースでやっていきましょう。
これまで100のことができたのだから、病気の回復過程でも80ぐらいのことはやろうと考えたくなりますが、まずは20〜30ぐらいからと考えましょう。

 

次々と先へ進むことより、その日その日の出来事をじっくりと味わうようにしましょう。
 「よく見れば、なずな花咲くかきねかな」。そういう気持ちでやりましょう。 

 

                          (1998,5,13作成)

                          (1998,5,29改訂)

Q&A

 Q:20代の青年なのに、家に閉じこもって、外へまったく出ません。
なんとかしてやりたいのですが、どうしたらよいでしょう。 

 A:健康な20代の青年に外へ出るなと言っても、数日ぐらいしか我慢できないでしょう。
何ヶ月も外へ出ないとしたら、それは病気のせいです。
精神病で元気がなくなると、表面的にはどこも悪いようには見えませんから、なまけているように思いがちですが、そうなるのは病気のせいであるということをまず認識しましょう。
また、元気が出てくれば、自然に外へ出るようになるものです。 
作為的に外へ出ることを計画しても、長
続きしないことが多いですし、心的エネルギーが不足しているのに無理に行動すると、それが失敗した場合、後はもっとエネルギーがなくなってしまうということにも注意したいです。

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