遠くの星から来た男

                       きもとけいし

「ほら立てよ」
「弱虫野郎」
「この馬鹿」
三人組にいじめられている小学生の光景。
三人組のいじめっこにやられていめのは彰という小学四年生。
みるからにひ弱な体格だ。
いじめているのはいずれも体格の良い小学五年生の連中。
彼らはぱっとみいいずれも小学生に見えない。
三人は彰を殴る蹴るつき飛ばす。
額にあお痣をつくり唇が切れて血が滲んでおり服は土ぼこりで汚れ至る所破れている。
彰はボロ泣きだ。
彰がまったく抵抗しないので三人の暴力による嗜虐嗜好がますますエスカレートしてくる。
「おらおら」
彰は泣きながら叫んだ。
「やめてぇ、止めてください」
「阿呆が」
三人のリーダー格が冷たい微笑を浮かべる。
「裸にしてやろうか」
「パンツを脱がせ」
「それ、ひんむけぇ」
彰は無理やり服を脱がされ始める。
「やぁめぇてぇ」
「止めなさい、君たち。そんなことをして恥ずかしくないのか」
声の方向に巨体の姿があった。
三人は初めその巨体におののいたが、そこが現代っ子の違いである。
「なんか文句あんのかよ」
「引っ込んでな」
「反吐がでるぜ、正義の味方きどりやがって」
「ぺっ」
唾を吐くとリーダー格はその巨体の顔面に見事な小学生らしかぬパンチをたたき込んだ。
見事なストレートパンチである。
巨体は凄い勢いでうしろにひっくり返った。
巨体は立ち上がろうともがいていると三人が襲いかかる。
暴力の嗜虐の流れは彰から巨体に移る。
三人は巨体に好きなように殴る蹴るの暴行をくわえた。
その時は彰がその場から遁走するチャンスでもある。
彰がそろっと遁走しようとしたとき、目の前にダークシルバーの特殊車両が停車した。
ドアが開いてグレーの隊員服に身を包んだヘルメット姿の二人の青年が出てきた。
そのうちの隊員の一人は二枚目だ。
その隊員と巨体の視線がほんの一瞬ぶつかった。
その瞬間火花が散ったように空気が焼け爛れたような匂いがした。
「なにしてんだ、君たち、限度ってものがあるだろ。いいかげんにしなさい」
「やべっ、TDFだ。行こうぜ」
三人はいっきにその場を駆け出した。
二人の隊員がぼろぼろになってしまった彰と巨体に歩み寄る。
「派手にやられたな。まったく近ごろのガキときたら」
巨体は丁寧に二人の隊員にお礼を言った。
彰は気が動転して何が何やらわからなくなっていた。
「病院に今すぐ連れていってあげたいのだが、緊急事態なので、すまない」
「任務なので」
特殊車両は金属的な排気音を残してその場から走り去った。
「君、病院へけがの手当をしに行こうか」
彰は巨体を見上げる。
「僕も弱いけれど、おじさんも弱いんだね」
巨体は苦笑する。
「へへっじつはそうなんだ。弱いんだ。見掛け倒しってやつさ」
「僕は彰、おじさんは」
「彰君か、僕は太郎ってんだ」
「この近くに病院あるかな」
「あるよ」
二人は病院に向かって歩き出した。
ぼろぼろの二人の姿をまわりの通行人に奇異な目で見られている。
「あいつらがさっきTDFって言っていたけれど・・・」
「太郎さんTDF知らないの、テレストリアル、ディフェンス、フォースって言うんだ。地球防衛軍のことだよ」
「知らなかったよ。今の人たちがそうなんだ」
「太郎さん年がいっているわりには物事を知らないね」
「こりゃまいった」
二人は気が合うらしく、体の痛みは忘れてはいないけれど、初対面とは思われないほどだ。
彼らは病院へ徒歩で向かった。
彰によると歩いて行ける距離に病院があるらしい。




治療を受けた二人は病院を後にした。
その時いきなり天が割れたと想われるほど轟く爆発音がした。
爆発音のした方向からたくさんの人々が駆け出して来た。
爆発音の中心にビルよりも巨大な姿があった。
その巨大な姿は忌まわしい異形の姿そのものである。
閃光が閃き閃光が走る。
都市は一瞬に瓦礫と紅煉の炎つつまれた。
都市は被害にあった人々の阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
それは巨大な異形のものを中心とした地獄絵図であった。
くすぶった空気と瓦礫の山の中、太郎は彰を捜した。
「彰君どこだ」
「ここだよ。太郎さん」
側に黒焦げの遺体が転がっている。
二人ともボロボロの衣服が焼け焦げている。
「よかった」
「お父さんやお母さんは大丈夫かな」
彰は泣きそうだ。
「大丈夫。彰君のご両親は無事だ」
「なんでそうわかるの」
「わかるんだ。僕には」
二人がその場から安全な所に避難しようと急いでいると瓦礫の中から助けを求める声がした。
聞き覚えのある声だ。
それは三人のリーダー格の声だった。
彼は瓦礫に足を挟まれて身動きできない。
ほっとけば迫り来る炎に包まれるのは時間の問題である。
「助けてくれ」
いじめのときと違い弱々しい声だ。
「太郎さん、早く逃げよう」
「まて、こいつを見捨てていくのか」
彰の瞳に冷たい光が宿る。
「助けてくれよ、彰、もういじめないから、お願いだ彰、助けてくれよ」 「おまえなんか死んでしまえ」
「助けて・・・」
リーダー格はぼろぼろ泣き出した。
「死にたくないよう」
「死んでしまえ、おまえなんか。馬鹿が。太郎さん早く逃げよう。炎にやられちゃう」
太郎は凄い目つきで彰を睨む。
「それは違うぞ。彰君。ここは彼を助けるべきだ。さあ、手伝って」
彰は太郎に増悪の感情を抱いた。
「なにを偉そうに。僕と同じ弱っちいくせに。おおきな体をしていてもてんで弱っちいくせに、正義感ぶって」
「彰君、正しい心を持て」
「説教か、おまえに言われたくない」
「助けて、痛いよ、助けて・・・」
瞬間、三人の方向に炎が猛烈な勢いで迫る。
・・・もう、だめだ。おとうさん、おかあさん、・・・・
瞬転、三人は眩い光に包まれた。
彰とリーダー格は巨人の手のひらの上にいた。
それは光の巨人の神々しい姿であった。
二人はそっと安全な場所に降ろされた。
「太郎さん、太郎さんはどこ」
太郎の姿はない。
彰は光の巨人を見上げた。
光の巨人は太郎に体型が似ている。
あれは太郎さんだ
彰の思考がなぜかそう閃いた。
肥満体の光の巨人。
太郎は光の巨人。
宇宙人だったのである。
地面に強い衝撃が走る。
光の巨人がシコを踏んでいるのである。
それはまるで相撲取りの不知火型の土俵入りだ。
そしていきなり光の巨人は素早い動きで異形のものに張り手をかました。 爆発音をともない異形のものは粉々に砕け散った。
光の巨人の圧倒的なパワー。
光の巨人の圧倒的な勝利である。
彰は光の巨人の勝利の勇姿を感嘆の想いで見ていた。
「すげぇ」
リーダー格は彰に頭をさげてお礼を言った。
「助けたのは、太郎さんだよ」
その光の巨人は天空を仰ぎ、彼は空に向かって飛び立った。
「光の巨人。本当にいたんだ。伝説なんかじゃあなかった」
「・・・うん・・・」
二人は長い時間、天空に飛び立った光の巨人の姿を追っていた。



半壊している小学校の廊下で彰とリーダー格が話している。
二人はいつのまにか親友になっていた。
「おい、TDFの隊員のあの二枚目があの異形のものだったんだって。これはTDFからの公式発表だ。あのときのあいつがあの凶悪な異形のものだったんだ」
「人は見てくれで判断したらだめだな」
しかしTDFも間抜けだな。身内に侵略者がいたのがわからないんだってな」



彰はあれから夜空を眺めるのが好きになった。
星星を見つめる。
太郎さんの星はどれなんだろう。
会って礼を言いたい。
自分が間違っていたことをあやまりたい。
彰は想うのだ。
またいつか会える。
光の巨人に会える。
太郎さんに会えると言うことを。
そのときまでに自分を強い人間なって会えることを。
星が流れた。
そして星星はきらめいた。
光は永遠かのごとく。
夜空に星星がまたたく。


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