さちあ
sachia hase

関西の人・まち(15)



関西で活躍するジャズヴォーカリスト麻生優佳さん(後編)


(質問者)
アレンジは、たとえばアップテンポにしたりというのは自然に湧いてくるんですか。
(麻生)そ うですね、リハーサル中にみんなと喋ってる中で、じゃあこうしようかっていうこともありますし、あとね、私は、お風呂が長いんです(笑)、お風呂の中で ふっと頭の中に流れてきて、こうしてみようと思ったり。やっぱりよく聴きにきてくれている人は、きっと私が歌うよく出る曲は、いつも聴いてらっしゃると思 うので、毎回違った新鮮な切り口がほしいと思いますし、たくさんジャズを知ってて聴いてきている方でも、あ、ちょっとこれは面白かったって言ってもらえる ようなことがしたいなと思ってます。もちろん技術面を、向上させるということも大切なんだけど(笑)。

(質問者)楽器の編成で、今回の高槻ジャズストリートのステージではJKカフェのときと違ってドラムが入っていましたが、ドラムがあるときとないときで歌い方は違ってきたりするのでしょうか。
(麻生)ド ラムの人がいると、曲もおのずとリズミカルな曲とか、激しいパターンもいけますし、そのリズムに、ゆだねていけるっていうところはあります。ドラムがいな いと少しおとなしい感じになって、すごく激しい曲とかはちょっと難しくなりますが、全体的に少し落ち着いたムードにはなります。でもベースの人とかが引っ 張ってくれて、それぞれがドラムがいるときよりも、明確にリズムを出して行くっていう方向で、演奏して、もちろん歌もそういう風になっていくと思います。

(質問者)リハーサルは一つのステージにつき何時間くらいされるんでしょうか。
(麻生)リ ハーサルは、よっぽど条件が揃わないとできないので、ぶっつけ本番がほとんどです。ジャズはスタンダードで、みんなが何曲も知ってる曲の中で、それを ヴォーカルのキーにあわせて移動させてくれてるわけなんです。キーとリズムをこういう風にやろうっていうことと、テンポとリズムを指示すれば、それで演奏 が成り立つという、そんな感じです。で、たとえばちょっと決め事をたくさん作ったりとか、しかけをね、曲の中にいっぱい作ろうと思うと、なかなかそれでは 出来ないので、リハーサルを一回か二回はするっていう形になります。普段のライブハウスとかレストランの演奏では、滅多にリハーサルをするっていうことは ないんです。たとえばホールでやるときとか、こういうジャズストリートのステージとか、そういうときは、それに向けて、みんなでリハーサルをしようという ことはあります。しないバンドもあります。バンドのみんなの意見で決まることなんですけど。今回は一度しました。一時間くらい、いろいろしかけをしたいと いう方向性を持った人たちが集まれば、リハーサルをして、しかけのあるというか、決め事のある演奏をすることもあります。その場の雰囲気というか即興でや りましょうっていう考えの人たちが集まると、リハーサルや決め事はなしっていう風になります。そのときの空気だけで、演奏がどんどん進んでいくっていう感 じです。

(質問者)それはジャズならではの事態っていうか・・・。
(麻生)んー、そうですよね。即興演奏が命の音楽ならばこそですね。

(質問者)ロックとかポップスではなくて、なぜジャズなのか、これが、その理由ですというのはありますか。
(麻生)やっ ぱり即興演奏です。ロック、ポップスははじめましてでは演奏ができないので、細かく書いた譜面とか、決め事で成り立つような音楽なので。でも、ジャズのス タンダードというのは、自分がたとえば外国に行って、全く知らない人たちが、ジャズを演奏してて、たまたまその曲を知ってた場合に、自分が一緒に参加でき て、その人たちのことなにも知らないけども、一緒に演奏する中で、心を通わせることができる、そういう音楽なんだなあと考えたときに、ものすごい魅力を感 じますね。

(質問者)それは自分でされてそう感じられたのか、たとえば、誰かのレコードを聴いて、そうなんだな、と分かって・・。
(麻生)レ コードではわからなかったですね。すべて決めてあって譜面でやってるのかもしれないし。ジャズを少し勉強して、実際に演奏の中に入ってみるというセッショ ンに最初参加して、そういう段階のときには、飛び入りでやるわけですけど、そのときに、いろんな人たちと演奏することができて、最初は、そんなみんなの心 がどうこうとかいう、それどころじゃなかったですけれども(笑)、自分がなんとかついていってちゃんと歌えるかどうかが、もう必死で、そんな余裕はなかっ たですけれども、徐々にはまっていったというか(笑)。はい、もう、ロックとかポップスとかは遠くなってきましたけどね、はい、完全ジャズにはまっており ます。

(質問者)子どものときの話なんですけど、周りに音楽を聴く人とか演奏する人が多かったですか。
(麻生)聴 く人は多かったんですけど、演奏する人はピアノ弾く人くらい。それだって別にプロじゃなかったですから。音楽が好きでよく聴いていた、親戚の若いおばさん だったと思うんですけど、ビートルズが好きだったんですよね。で、ある日、遊びに行ったときに、流れてた”Let It Be”を聴いて、まだ私は幼稚園にも行ってなかったんじゃないかと思うんですけど、ものすごく感動して、何回も聴かせてもらって。英語もわからないのに、 それらしきこと歌ってました(笑)。それで、自分と英語の歌っていうのは何か波長があったのかもしれない。なぜか、日本の歌より、英語の歌のほうが好き だったんですよね。それで、結局ずーっと英語の歌聴いてて、スティービー・ワンダーとか好きでしたよ。

(麻生)普段さちあさんどんな音楽聴きはるんですか。
(質問者)私は、ポップ スが多いですけど、最近フィッシュマンズっていうのを聴いて、いいなと思ったんですけど、でも本とか読むと、最近の音楽っていうのはメロディを全くなくし てしまったような残念な音楽だという評が書いてあって、なんか、歌詞とか言葉で、面白いと思ってるんですけど、あんまり音楽がわからないのかもしれないで す。
(麻生)リズムと歌詞っていう感じが多いですもんね。それはそれで、今の音楽の形態なんじゃないかな。一概に、 昔の尺度ですべてをはかることは難しいと思うんですけど。でも、確かに自分が今聴いてる好きなものっていうのが、たとえばその人が、誰に影響を受けたかと かを、辿っていったら、ブルースとか、ジャズとかロックとか、もらって行く部分がある。で、その人のを聴いてみると、時代的には違っててすごく違和感を感 じるかもしれないんだけれど、大元の師匠はここやったんやなっていう偉大さにあらためて発見があったりとか。そういう聴き方したことありますね。

(麻生)メロディっていうのは大切な部分でおそらくまた、今の流行が終わったときにまた変わった形で出てくるかもし れないですけどね。スタンダードは、ずっと昔に作られた曲で、古いものになるとね、1920年、30年代ごろからあると思うんですが、そういう中でジャズ も変わって来てます。スタンダードも。部分的にロックとかポップスとかの要素を少し取り入れていたりとか、ちょっとずつ、時代とともに変化してきていて、 昔の歌い方と今の歌い方とは違ってきてるだろうしね。古き良きものに、自分たちの今の空気も送り込みながら、自分の才気で表現できるかっていう部分ていう のは、必要なんじゃないかなあと。もとのまんまじゃなく、それをいかに調理するかみたいな(笑)ね。ていうのはあると思いますね。

(質問者)深い世界ですね。怖くなったりしませんか。
(麻生)難しく考えると 怖くなってしまうんだけど、でも基本的に音楽は、楽しんでこそ音楽、っていう部分があるだろうから。怖くなってた時期もあったんですけど、開き直り気味に なって、自分が楽しんでなかったら、お客さんに楽しんでもらうことも、難しいかもしれないなと思います。ただ楽しんでるだけでは駄目だと思うんですけど、 楽しむこともやっぱり大切っていう気がします。だから終わりはぜんぜん見えない。果てしなくこの音楽で行ってて、きっと、何十年かあとでもまだまだ発展途 上でやってると思うと(笑)。そこがまたジャズの魅力っていうか、ずっと続けていけそうな音楽だなと、いう風に感じたところでもあるような。エラ・フィッ ツジェラルドみたいに、80歳になっても歌い続けてますよっていう、でもそこまで生きてられるかなあ。

(麻生)(エラ・フィッツジェラルドは)おばあさんになってるのにすごいかわいい声だったから、すごい強靭な喉をし てたのかも知れない。サラ・ヴォーンなんかはどんどん声が変わっていって、太くなって、男の人みたいな声になってるけど、エラ・フィッツジェラルドはいつ までも女の子のようなかわいい声で、多分私はあんなに強靭な喉はしてないから、何十年かたったら、サラ・ヴォーン風になってるかもしれません(笑)。気持 ちだけは女の子でいたい!声がおじさんになっても(笑)。最初、サラ・ヴォーンの声聴いたときおじさんかと思ったものね(笑)。
(質問者)今日は、いろんなお話をありがとうございました。

 お忙しい中を一時間近くもインタビューに答えていただいた。麻生優佳さんのあたたかく真摯な姿勢に支えられた、たおやかで美しい歌がこれからも人々を魅了していくことだろう。


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