さちあ
sachia hase

関西の人・まち(17)


鶴橋・高麗市場にて


 黒い鉄骨を組んだ上にある半透明のアーケードから、薄暗い光がさしこむ。幅1メートル ほどの通路が迷路のように入り組んでいる。鶴橋・高麗市場は熱気に溢れている。万国旗が通路を横切るように張り巡らされ、その下をいろいろな人々が行き交 う。大阪環状線鶴橋駅を降りて南東へ。天王寺区と生野区にまたがる、戦前からある古い商店街である。

 再開発のため何度か政府が買い上げ、空き地になった土地に、自然発生的に生まれた。高麗というだけあって、キムチや、チヂミを売る店があり、チマ・チョ ゴリの美しいショーウインドウがあり、衣料品店、乾物屋などが軒を並べる。「コピー商品お探しお断り」と書かれた店のすぐ向かいで、CHANELや Diorの文字が躍る洋品店がある。軒先で、「社長元気にしたはるか?」と中年の男性が店員に声をかける。「社長によろしく言っといてや」。「ネーエ、カ ムサハムニダ」。答えるほうは韓国語。乾物屋などを見て歩く。歩くだけでかなりの歩行距離になる。海苔やナツメ、丸のままの胡桃が売られていた。鮮魚の店 では、名前の分からない魚が開きにされて焼かれている。鶴橋駅のガード下すぐの、「チェおばさんのキムチ」でオーソドックスな白菜のキムチを500グラム 450円で買う。試食してみると実においしい。そんなに辛くはなく、白菜のしゃきしゃき感の残るやさしい味だ。他にも胡瓜や大根などのキムチがある。
 チマ・チョゴリの店がいくつかある。外から入ると段差があって、試着できるように畳になっている。韓国ドラマで目にするものと少し違っているのは、チョ ゴリの丈が短く、リボンの代わりに花飾りがついているところだ。婚礼などの典礼のためのものだからだろうか。白地のチョゴリに、スカイブルーのチマが映え る。
 少し奥へ行ったところに布団の店がある。ワゴンの整理をしている中年の男の人に、出前に行く途中の喫茶店のウエイトレスさんらしく、若い女の子がアイス コーヒーやミックスジュースをのせたお盆を運びながら黄色い歓声をあげる。「きゃーっ!お父ちゃーん」と首に空いたほうの手をかけて叫ぶ。呼びかけられた 控えめそうな男の人が何か言い返す。男の店員さんが突然、威厳ある父親の顔になる。家庭や働く人々の様子を想像すると、まぶしい気がする。まぶしさのおす そ分けをもらったような気持ちで、市場を後にした。


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