さちあ
sachia hase


関西の人・まち(4)

 関西で活躍中のイラストレーター出口敦史さん(28)にインタヴューしました。カーキ色のボタンダウンのシャツに黒いズボンで現れた出口さん。どことなく清楚な感じを漂わせています。穏やかなトーンの声で語ってくださいました。



*  *  *

 画面いっぱいに、そこへ入っていきたくなるような物語の世界が、少しくすんだパステルトーンの色調で描かれている。細く引かれた線が詩の雰囲気を漂わせ、空気を引き締めている。
 大阪市東淀川区に在住の、関西を中心に活躍するイラストレーター、出口敦史さんの作品が、玄光社刊「イラストレーション」No.153に掲載されている。特集「気鋭の装丁家が注目する新人18」。創作活動について伺いたくなった。
 1977年生まれ。京都精華大学美術学部デザイン学科を卒業し、デザインの仕事を経て、フリーのイラストレーターに。第9回ART BOX大賞展入選、第1回京都メディアスケープ映像部門奨励賞、同第2回優秀賞。イラストレーターの登竜門といわれる第101・131回ザ・チョイス入選。今年はフリ ーマーケット・アートストリームに出展し、「THE 14th MOON」賞を獲得、ギャラリー CENTENNIALにて個展をひらいた。
 「イラストレーション」に登場する絵の中には、アンデルセンの「ナイチンゲール」というお話の1シーンを描いた絵がある。前景にあふれる花、中景にはかなげな人物のシルエットが見える。
 「絵を描くときは、空気感というか、見る人が好きにイメージができる ように、気をつけて描いています。絵は、全部説明しちゃうとおもしろくないと思う んです。見る人が自由に物語を想像できる余地がなかったりすると。だから人物はシルエットにしてみたりとか。」
---いつごろイラストレーターになりたいと思われたんですか。
 「精華大学在学中に『月のナイフ』という小説の装丁をやったんです。それでこれからもそういう方面に進めたらと。」
 現在かかえている仕事は、学術書や小説などの本の装丁や、雑誌の挿絵、パンフレットとさまざま。線画に色をつけたものをフォトショップに取り込み、土台の色をつけて出力し、そこにパステルやアクリル絵の具、日本画に使われる顔彩でさらに色を重ねている。
---下書きはされるんですか。

 「ラフの段階でもう本番に近いかたちで描いてしまうので、2回目描くときは下書きとか気にしなくてもだいたいいい状態です。その、(ラフなどを)描く時 間よりむしろ、アイディアを考える時間の方がとても大切。アイディアの時点でまずいと、あとでどんなにうまく描こうとしてもいいものにならないという気が します。」
 「作品って自分の手から離れると、ひとつひとつ見る人にこうですよって説明することは不可能ですよね。だからもう見る人が好きに見ていただいてかまわな いのかなっていう気はします。けれども仕事となると、伝えなければならないことっていうのはあるんで、最低限そこは確実に伝わるよう意識はします。」
---画家じゃなく、イラストレーターとして絵を描いていくというのは難しいですか。
 「そうですね。やっぱり100%自分が納得するだけではいけなくて、クライアントの求めるものと、自分の出したものがずれていると仕事として成り立たな いので、クライアントの意向がまず前提にあります。ただいろんなクライアントに合わせて、何でもやりますっていうふうにやっちゃうと、結局どのイラスト レーターさんでもいいんじゃないっていうことになってしまうんで、自分の出したい個性も出しつつ、クライアントの意向も聞きつつっていうバランスが難しい ですね。」
---デッサン力や色彩感覚などの基礎的な訓練は相当なさったのですか。
 「僕もデッサンはそんなに上手な方じゃなかったんじゃないかなあと思うんですけど。これはあくまでも僕の考えですけれど、特にデッサン力がなくても、イ ラストを描く枚数で、その人の良さが必ず出てくるものなのではと思います。デッサンが嫌いな人に無理やり形を取らなきゃいけないって考えるよりは、もっと 自分の絵をずっと描き続けたほうが絵を嫌いにならなくていいんじゃないかと。」
---好きなイラストレーターさんはいますか。
 「ほんとにもうたくさんいます。イラストレーターに限らず画家の方とか、いろんな方の絵をたくさん見て、いいなって思うところは吸収して・・・。ここで 完成っていうわけじゃなくてもうどんどん変わっていくだろうなっていうか、変わっていかなければいけないかなっていう気がします。例えば仕事で、僕のこと を知らないで誰かイラストレーターいないかっていうことで依頼が来て、違うタッチで描いてくれって言われたときに、これは勉強になるかな、と考えて引き受 けます。新しくまた違うところが見えてくる。」
---絵に関係なく学生時代の思い出深いことがあれば。
 「普通の自転車で、名古屋の友達のところまで、京都の学校の友達と2人で行こうとしたことがあるんです。地図片手に、あまり計画も持たずに。夜中の12 時ごろ、夏だったんですけど、出発したわけです。暑いし、自転車のチェーンが外れたりとかトラブルがあると、けんかになったりして。一人だけ先に行っ ちゃったりとか。それで翌日の夜の12時になっても、地図では着くはずなのに、まだ着かないんですよ。ずっとこいでるのに。それで夜も遅いし、近くの消防 署にきいたらこの地名は2つあって、別の方に来ているよって。消防署に親切な方がいて、車で自転車ごと友達の家まで乗せてもらって。帰りがお笑いなんです よ。自転車でかえるべきところを、それが嫌だったんで、宅急便で自転車を送ったんです。新幹線で往復するのよりお金がかかりました。」    ---絵を 描いていない時は本屋に足を運ぶ。        
「本屋へは、もう月に何回も行きますよ。好きな作家さんを探すのが楽しくて。それに表紙とか挿画を見て、ああこうやるのかって。」
---これからの活動はどんな風に。
 「装丁をもっと数多くやってみたいです。まだどんなジャンルの本が自分にあっているのかは分かりませんが、自分で判断してここだと決めてしまうよりは、 数多くの仕事をこなしつつ、いろんな人の意見を聞いて、こういうところがあっているんじゃないのっていうのも参考にして、徐々に見えてきたらいいかな と。」
---来年に予定の個展が、今後の活躍とともに期待される。


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