さちあ
sachia hase

関西の人・まち(7)



 「かくれ念仏〜六波羅蜜寺〜」

 師 走の京都。足元を吹き抜ける風が切るように冷たい。六波羅蜜寺では、毎年12月13日から大晦日まで、踊躍(ゆやく)念仏が公開される。平安末期、空也上 人が行ったとされる念仏を、この寺では、当時の面影を色濃く残して再現している。まず一般の参拝客に、唱和の仕方の説明がある。1000年前の空也上人 と、今ここにいる私たちが、心をひとつにして念仏を唱えましょう、ということだ。
 鎌倉時代に禁令が出され、専修念仏は地下に潜らざるをえなかった。しかし、空也上人の教えは、受け継がなければならない、と当時の僧侶たちは考えた。 「南無阿弥陀仏」と聞こえないよう「もーだーなんまいとー」と唱えること、そして捜査の手が入ったときに、いつでも中断できるよう、祈りに工夫がなされた。
 六波羅蜜寺の僧侶たちは、みな山吹色の衣と袈裟を身に着け、現れた。どことなくアジアの寺院を思わせる。首から銅鑼のようなものを提げ、まずは般若心経 を唱える。それから先ほどの念仏を唱えながら、祭壇の前の台座の周りを腰をかがめ銅鑼を打ちつつ廻る。よく見ると、僧侶の中には髪を覆った女性の姿が見受 けられる。他宗派にはみられないことだ。銅鑼の響きは、雅楽を思わせる。信仰が音楽性をもって、耳に心地よい。
 禁令が出されて、法然、親鸞などは島流しにあった。街なかでも、念仏をとなえることにはかなりのリスクがあったろう。「市の聖」と呼ばれた空也上人は、生きていたらそのような有様をどう考えただろうか。
 参拝者は、中年の女性グループ、ひとりジャンパーの襟をたてる男性、大学生と思われるカップル、家族連れなど様々だ。前に座った若者は、帽子をとり、姿 勢を正したまま、念仏に唱和していた。勤行が終わると、本殿の中に入り一人づつ焼香する。そして住職によって、観音様のお守りが手渡され、帰路につく。

六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)
京都市東山区五条通大和大路上ル東
tel 075−561−6980(代)


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